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019『条件』

「すまんかっ――」

「うるさい、早く用件言え」


 開口一番の謝罪を開口一番の拒絶で切って捨てたホムラは、ギルマスを放置してソファーに座り込む。

 ギルマスは頭を下げた状態で硬直しており、一緒に入室していたナーリアさんがギルマスの頭をぶっ叩くことで正気に戻ったようだ。


「はっ! あ、あぁ……そうか。分かった。そこのソーマとやらも是非座ってくれ、お二人さんに話がある。ゴブリンの集落に関してだ」

「……とやら?」

「ソーマ様もどうぞおすわりになって下さいませ」


 ホムラの不機嫌そうな一言にすぐさま言い直したギルマスに苦笑しながら、僕もまたホムラの隣に座り込む。

 すると対面のソファーにギルマスが腰を下ろし、その後ろにナーリアさんが控える。事情知ってる奴から見れば真後ろで馬鹿やらかさないか見張ってるようにしか見えないな……。

 ナーリアさんと目が合うと、とても可愛らしい笑顔でニッコリと微笑まれた。これで血生臭くなければ完璧なんだろうな。僕は御遠慮したいけど。


「で、どういうこと。ゴブリンの集落、見てきたけど」

「ああ……、お前さんらも想像してるかとは思う。いや、下手すれば見てきたかもしれないが、実はあの集落にはとんでもねぇ化け物が住み着いててやがってな。まだ手が出せる状態にねぇんだわ。下手に突っついて街中攻めてこられると手に負えねぇ」


 その『化け物』……多分最後に見たあの個体だろう。

 ゴブリンの体格がだいたいカイと同じくらい……小学生の高学年程度だとすると、あのゴブリンは明らかに僕の背丈を超えていた。僕は別にさほど背が高いってわけじゃないから分からないかもしれないが、多分目の前の巨漢ギルドマスターと比べても大差ないレベルだろう。


「この街のギルドに、アレ倒せるだけの人って居ないんですか?」


 ギルマスへと僕の方から疑問を投げる。

 なんかやっかみつけてくるかな……とも考えていたが、そこはナーリアさんに程よく調教されたらしい。


「……いや、居るには居るんだが、そいつらは今、全員まとめて街の外へと依頼に出払っちまってな。キングスライムの討伐に逃げたワータイガーの捕縛……どっちも一筋縄で終わる依頼でもねぇ。王都に救援依頼したところ、運良くAランク冒険者が来てくれるそうで、今はそれを待ってる状態だな」


 Aランク冒険者……か。

 そう言えばイザベラに乱入されたせいでギルドのシステム聞いてないな……とナーリアさんへと視線を向けると、困ったように笑った彼女はギルドランクについての説明をしてくれる。


「そう言えばまだ説明してませんでしたね……。ギルドのランクに関しましては、仮登録の『F』ランクから始まり、『E』『D』『C』『B』『A』ランクとなっております。また、一応その上に『S』ランクがありますが……これはもはや都市伝説とかそういうレベルだと考えてもらって結構です。Aランクが竜殺しを片手間でやってしまうような方々ですので……。それこそ伝説の初代勇者様とか、そういうレベルです」


 なるほど……じゃあAランクまでで考えた方がいいのかな。だって勇者だけがSランクなら、現状じゃホムラや僕以外はそのランクになれそうにないって訳だし。

 その後、ランクの大まかな基準について聞いてみると。


 Fランク:仮登録(レベル関係なし)

 Eランク:駆け出し(Lv.1~)

 Dランク:一人前(Lv.7~)

 Cランク:ベテラン(Lv.15~)

 Bランク:一流(Lv.30~)

 Aランク:化け物(Lv.50~)

 Sランク:生きた都市伝説、人外(測定不能)


 と言った感じらしい。

 基準のレベルとかは基本的に2~3は前後するらしいし、中には箔付けするための貴族とかもいるらしいが、だいたいこんな感じで見れば問題ないとのこと。


「そうなると、ソーマはレベルを見ればCランク手前に当たるわけか。ホムラの方は未だに見えんが……速度だけ見れば間違いなくBランク。全体的に見るとCランク言ったところかな」


 鑑定スキルを持っているギルマスが僕らを見てそう言ってくる。

 僕も召喚獣が得た経験値の何割かが入ってきてるみたいだし、レベルだけ見たら確かにCランク手前くらいの感じになっている。もちろん実力はFランクにも劣る雑魚だけど。

 で、対するホムラは……確認はしてないが、今日が初バトルだったからLv.5にも満たないだろう。昨日ギルマスの前で見せた実力でCランクなら、彼女のことは『実のレベル+15』くらいの感覚で考えた方がいいかもな。


「実際、Aランクに任せとけば問題ないんだが。それでも、相手はこの目で確かめに行ったが、Lv.35のキングゴブリン……。四次種族への進化を目前に控えたバケモンだ。不安は尽きねぇ……ってことで、こっちでもゴブリン討伐隊を組んでてな。お前らにはその討伐隊に加わっていただきたい」


 なるほど……やっぱりそういう感じか。

 そして『キングゴブリン』……か。王様ってよりは戦士って風貌だったが、それでもあの威圧感は確かにキングの名に相応しい。

 ホムラへと視線を向けると、本人はそこそこ乗り気なようで、無表情ながらもどこかソワソワしてるのが分かる。


「正式に登録した冒険者にはあの辺まで行くやつも現れるからな……。全員には一応伝えてはいるんだが、職業柄全く話聞かずに出てく輩も多い。だからなるべく早く、確実に潰しておきたい。……どうだ? 報酬は弾むつもりだが」


 ギルマスはそうしてホムラへと視線を向ける。

 知覚共有で『お前に任せるぞ』と伝えてやると、彼女は『ふすーっ』と鼻息を漏らし、ギルマスへと端的に切り込んだ。



「ん。けど、条件がある」




 ☆☆☆




 ――その後。

 討伐隊に参加することを決めたホムラと僕は、ギルマスから『Aランクパーティが来れば追って連絡する』との言葉を受け、そのままギルドを後にした。あ、もちろんホムラの昇級手続きは終わり、彼女もまたEランク冒険者へとなっている。


「んじゃ、僕は図書館に用事あるから。……ほい、ホムラはこれ使って子供たちに昼ごはんでも食べさせてくれ。夜までには帰る」

「ん、わかった」


 腰布から小金貨を一枚手渡した僕は、スキップしながら機嫌良く宿屋の方へと向かってゆくホムラを見送った。

 ちなみに通貨だが。

 鉄貨→1G

 小銅貨→10G

 銅貨→100G

 小銀貨→1,000G

 銀貨→1万G

 小金貨→10万G

 金貨→100万G

 白金貨→1,000万円G

 王金貨→1億G

 と、なっている。単位は『G(ゴールド)』だ。

 基本的には1円=1Gと考えていいだろう。日本と異なり流通がそこまで上手くいってないようだから、屋台を見て回ったところ、いくつか『うっわこれこんなに高いの!?』って果物とかもあったけどな。特に魚、魚は高い。川魚も高いが海の魚は馬鹿くそ高かった。下手すればこの前の報酬吹っ飛びかねないほど高かった。

 ……ま、魚でも買わなければ10万あれば足りるだろ。残ったのはお小遣いにでもすればいい。


「にしても」


 ふと、彼女の後ろ姿を見ながら、彼女がギルマスに提示した『条件』を思い出す。


『この街にいる間だけでいい。私とソーマのパーティを解散させようとしないこと。そして、解散させようとする輩が現れた時は、ギルマスの権限で介入し、止めること』


「……ファザコンも過ぎるな、ホムラも」

『……!』


 全くだよほんとにっ! と言わんばかりにスイミーさんが震える。

 彼女が僕に向けてくる感情は、まんま子供が父に向ける感情そのものだ。父と離れたくない、父と一緒にいたい。……まぁ、ホムラのソレはちょっとばかし過剰なにもするが、慕われて嫌な気持ちにはならない。

 まぁ、度々言ってるが『親離れしなさい』とは思ってるがな。


「さて、僕らも動くか」

『……!』


 スイミーさんを連れ、ギルドでナーリアさんに聞いてきた図書館へと向けて歩き出す。といっても、ギルドからも距離的にさほど離れていないから視線の先に見えてるんだけどな。図書館らしき建物。

 建物の前まで歩いていくと、二階建て……かな。冒険者ギルドよりは小さいが、かなりの大きさを持つ建物みたいだ。

 中へと足を踏み込むと、目の前に広がっていたのは静寂。

 見るからに図書館って感じの雰囲気に少し飲まれていると、カウンターにいた受付けらしい男の人が話しかけてくる。


「おや、当図書館をご利用ですか? 初めてのご利用……ですよね。保証金としてご利用前に小金貨一枚をお預かりします。本を傷つけるなどありませんでしたらお帰りの際に返却致しますので」

「ああ、はい。時間制限とかありますか?」

「いえ、開館している間であれば問題ありませんよ」


 おお、それは良かった。

 ここ最近は調べることが沢山見つかって困ってたんだ。

 彼へと小金貨一枚を渡して入場すると、壁にびっしりと並べられた無数の本棚が視界に入る。今見ている他にも二階部分にも本があるようだし……これはなかなかどうして調べがいのある感じになりそうだ。またの名を本が多すぎて調べるのが面倒くさそうだ。

 思わず頬を引き攣らせた僕は、入口の受付に戻ってお兄さんに質問する。



「あの、歴史書の場所とかって分かりますかね」



 さて、全部調べ終わるまで半日で済むものか。

 そう考えると、何だか調べる前から疲れてくる僕がいた。



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