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018『小鬼の集落』

 ――ポーション、もしかして万能薬説。

 そんなのが、じわりと胸の内に上ってきた。


 さっきの足の傷(捻挫)。

 もしかして骨折……? ってくらい痛かったんだが、これがびっくり、ポーション飲んだら治ってたのだ。

 これでもテキトーに『ポーション出てこい』って念じてるだけなんだが、もしかしてこのポーションってかなり上物なんだろうか。思い出してみたら応急処置で助けた人達に飲ませた奴も『応急処置がよかった』的なこと言われたしな。


「うへぇ、調べることがいっぱいだ……」


 僕の持つ召喚術式のこと。

 従魔と言い張れる『限度』について。

 僕を召喚した召喚主の居場所。

 元の世界に戻る……のは別にいいか。別にあっちに戻ってもニート生活しか待ってないし。それならこっちでより上等のニート生活した方がいいってもの。

 他にもポーションのことが増えただろ? あとクロスロード家が僕の提案蹴った時のために他貴族の調査に、あと国王についても調べたい。あるいは交渉が上手く行きそうな王族でも可。


「ん、ソーマ。考え事は後にする」

「ああ、すまん。そういやそうだ」


 意識を現実へと戻し、目の前の現実を直視する。

 ――あの後。

 超音波を攻撃だけではなく『地形把握』にも使えるダークバッドを複数召喚。自分たちの周囲を以前同様にスライム達で囲い、思い切ってダークバッド各隊を遠くの方まで飛ばしてみた。

 今回は基本的に知覚共有で視界を共有するのは近くのスライムたちとのみ。ダークバッド各隊からは『なにか見つけた場合』のみ僕へと向こうから視界を共有してくるように命令しておいた。これなら現状でもなんとかなる。

 の、だったが。


「まさかこんなの見つけてくるとはな……」


 ――目の前には、ゴブリンの巨大な集落が広がっていた。

 そう、ゴブリンの集落である。

 いや、こちとらバトルラビットを相手に足くじいて呻いてるレベルの雑魚なんですけど。ラビットより強いゴブリンがうじゃうじゃうじゃうじゃと……え、突撃? もしかしなくても僕に死ねって言ってる?


「よーし、ということでホムラ。そのワキワキしてる手を収めろ」

「……む。殺らないの、殲滅戦」


 やるわけないだろこのお馬鹿さん。

 僕の手持ちのなんとなーくの『強さ順』は、スライム、ゴーレム、ダークバッド、エレメンタル……と、召喚術式のスキルに記されているとおりになるだろう。といっても、ゴーレムさんは物理的な強さと耐久力は圧倒的だし、未だに召喚獣の中ではスイミーさん、ホムラに次ぐエースなのだけども。

 閑話休題。

 ということで、べつにこれくらいの集落、ゴーレムを一万体くらい周囲囲むように展開して一気に叩けばそれで終わる。一瞬でカタがつく。


「でも、ここそれなりに奥地って言っても、冒険者たちなら気付くレベルだろ。むしろ気付いてて、それでも何らかの意図があって放置してるとか、そう考えた方がずっといい」


 例えばとてつもなく凶悪な上位種ゴブリンが集落にいて、今はそれを倒すための準備中だとか。で、そんなことを知らない僕らがこうしてのこのことゴブリンの集落までやって来てしまった――と。


「……む、一理はある」

「だろ? だから、とりあえず今は一回ギルド戻って確認すべきだ。こんな所にゴブリンの集落ありましたけど、これってわざと見逃してますよね、とか」


 正確にはもうちょっとオブラートに包むけどな。何も知らない初心者冒険者らしく『ゴブリンの集落発見しました』とか。そうしたら優しげな笑顔で『ああ、それは今対策中なので近寄らないように』とか注意してくれるだろう。


「それに、ピンチは即ゴーレム出して力押し……っていうのもな。周囲に対する言い訳ならいくらでも立つけど、限度があるだろ」

「……ん、私でも、ゴーレム一万体使役はおかしいと思う」


 ……まぁ、やろうと思えばその10倍くらいいけそうだけどね。そう考えたところ、ホムラが白い目で僕を見てきた。

 ……ま、まぁ、なんだ。ゴーレムは出したとしても……十体までだな。そこまでならまだ言い訳も立つ。ゴーレムは一家相伝の技術で自作してますーだとか、魔力消費少なくできる裏技あるんですよー、とか。どーせテイマーなんて滅多に居ないからボラ吹いたって問題ないだろ。たぶん。


「と、言うことで」


 とりあえず帰ろう。帰って確認取ってこよう。

 ゴブリン三体の討伐と薬草については帰り道のどこかでやればいい。

 そう考えながら、集落に背を向け歩き出し――



「いやああああああああああああああああ!?」



 ……面倒くさそうな悲鳴が聞こえてきた。




 ☆☆☆




 悲鳴の方へと視線を向けるより先に、ホムラが走り出していた。

 ……ああ、もうクソ! もう言う事聞かないんだから本当に!

 飛び出して行った彼女の方を視線で追う。

 その先には縄に縛られ、五体のゴブリンに引き摺られている少女達の姿があり、僕がその姿を捉えたのは、ゴブリンの内一体が少女の顔面へと拳を振り下ろした瞬間のことだった。

 鮮血が弾けて悲鳴が途切れ、僕は咄嗟にホムラの後を追って走り出す。


「エレメンタル! 集落の入口を土魔法で塞ぐか、地面掘るか……とりあえずしばらく足止めできればいい! 頼む!」


 追加で数体のエレメンタルを召喚し、集落の入口へと向かわせる。集落は一丁前にも周囲を塀で囲んである。入口には二体のゴブリンが居るが、エレメンタル達ならば問題なく倒せるだろう。


「ホムラ! 一瞬で狩って、すぐ逃げる! そのつもりで殺れ!」


 もう既に手遅れ臭いが、なるべくことを荒立てずに収めたい。

 それに、少女がゴブリンの巣窟に連れてかれるのを見送るほど、ホムラも僕も非情じゃない。ホムラは何も言う前に飛び出していたが、僕も遅かれ早かれ救出には動いてた。


「ん!」


 ホムラは短く返して短剣を抜き放つ。

 同時に索敵中のダークバッド三体が森の中から援護に向かうが……あの調子だとたどり着く前に終わるかもな。


『ギギ……ギュッ!?』


 声を上げる前に一体のゴブリンの首が跳ねる。

 鮮血が舞うより先にもう一振の短剣が奇跡を描き、もう一体の胸元へと吸い込まれ――そして、捻る。


『ガ……ッ』


 心臓を抉られたゴブリンが倒れ、残り三体。

 血に濡れた双剣を払ったホムラは一気に加速。少女の顔面を殴った姿勢のまま硬直していたゴブリンを蹴り飛ばし、驚きながらも迎撃動いた残り二体へと。


「――『炎撃』」


 二振りの炎が瞬き、一瞬にしてそれらの命を散らしてゆく。

 ――正しく瞬殺。

 蹴り飛ばされたゴブリンへとダークバッドがトドメを刺し、そこら辺でやっと僕が現着する。なんの役にも立てませんでしたね、ええ、走り出したあたりから知ってました。


「ホムラ、その子達連れて逃げるぞ!」

「ん、分かってる」


 エレメンタルは作戦を遂行したらしく、ゴブリン集落の入口には大きな落とし穴ができている。そのおかげで今しばらくは足止めできそうだ。

 ホムラは少女達の縛られている縄を切って周り、僕は怪我が酷そうな子達へとポーションをぶっかけて行く。渡して飲ましてる暇は今はない。


「あ、あの……ありがとうございます……!」


 少女の一人がお礼を言う――ホムラに。

 ホムラはそれに小さく頷き、手を引いて彼女を立たせる。ちなみに僕は完全に裏方に回って逃げ道の確保をダークバッドたちに依頼してました。今のでゴブリン討伐は大丈夫だろうし、障害になりそうなゴブリンは全てダークバッドたちに倒させる。

 あとは薬草だけだが……これ実は、来る途中にスライムの一体が薬草の群生地見つけてたんですよね。既に回収は済んでます。

 と、言うことで。


「今から、街へと走る。みんな、ついてきて」

「は、はいっ!」


 少女達が返事をし、ホムラに続いて走り出す。

 僕もまた少女達の最後列を走り出すが……ふと、なにか嫌な気配を感じて振り返る。するとそこには、ゴブリンの集落内から僕を睨み吸える一際大きなゴブリンが居り。


『ガアアアアアアアアァァッ!!』


 咆哮とともに、衝撃波が威力を伴って僕らを襲う。


「……ぅっ」


 これだけの距離でこの威力……。

 なるほど、アレだな、ギルドが手をこまねいてる理由。間違いなく今のホムラと同等か……下手すりゃそれ以上もありえる。

 身を怯ませて立ち止まった少女達の背中を押して行軍を開始させ、僕は最後にもう一度背後を見やる。


「……さて、どうしたもんか」


 なんとなくだけど、こう思った。

 あのゴブリン、対策にホムラが駆り出されそうな気がする。

 ……うん、ギルマスがホムラのランク上げたがってたのって、あれの対策だったりするんじゃなかろうか。




 ☆☆☆




 ギルドに少女達を連れてゆくと、あれよあれよと言ううちに少女三人の身柄は医務室へと連れていかれ、代わりにホムラはギルマスの部屋へと行くことになった。ちなみに今回は僕も同席するらしい。

 の、だけれども。


「や、あのオッサン会いたくない、次あったら殺す」

「そ、その節は申し訳ありませんでした……! ほんとう、ほんとーっにもう、あんな無礼な真似しないように叱り直しましたのでっ!」

「や、そういう問題じゃない。アイツはソーマを馬鹿にした。その時点で死刑確定、会わないことで死刑執行伸ばしてる。感謝されどもまたあのオッサンに会う理由には、ならない」


 ここぞとばかりにギルマスに会わないための理由をこじつけるホムラ。……ねぇちょっと、ギルドのホールでやると目立つから、まずはギルマスの部屋行きませんか。というか、とりあえずまず行こう、行ってから考えよう。ギルマスとかどうでもいいからなんかものすごく目立ってます。


「……む、ソーマ。馬鹿にされてる、言ったはず」

「いいよ別に。いや馬鹿にされていいわけじゃないけど、されたらされたでそれ相応の対応にすればいいさ。ホムラも少し落ち着け」

「……む、分かった」


 ホムラは渋々といったふうに頷き――その光景に説得していたナーリアさんがほっと安堵の息をつく。


「あ、ありがとうございます……。それではギルドマスターの部屋へとご案内致しますね」


 そうして先導するナーリアさんに続いて僕達もまた歩き出す。

 さて、流れから助けてしまったわけだけど……一体ギルドとしてはあの化け物をどうするつもりなのか。

 ……また面倒なことにならなきゃいいが。

 そう内心呟いて、僕は小さくため息を漏らした。



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