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017『精霊と蝙蝠』

 子供たちに『午前中はホムラと冒険行ってくるから、申し訳ないけどお留守番しててくれ』という名目で休息を与えた僕らは、再び草原へと向かっていた。

 彼女が受けた依頼は、『ゴブリン三体の討伐』『バトルラビット五体の討伐』『薬草の採取』となっており、とりあえず討伐の依頼だけでもさっさと終わらせてしまおうという算段だ。


「ん、ソーマ。武器ちょうだい」

「あ、そういえば素手だったな……」


 加えて装備もいつの間にか彼女のものになってる黒ヘルだけ……間違っても冒険者の格好じゃないな。強いんだけどもさ。


「ホムラ、武器何がいい? 確か『万器使い』のスキルでどんな武器でも使いこなせるんだろ? チートなことに」


 そう、チートなことに。

 問いかけると、彼女は少し考えるように沈黙する。

 しかし何か思い出したように手を打つと、彼女はとある武器種を口にする。


「ん、じゃあ『双剣』で」

「またマニアックなところ取ったな……」


 双剣と……あえてそこを来たかホムラさん。

 たしかにゲーム内とかじゃかなり強い位置にいる双剣使いだが、現実だとあれだぞ。片腕で剣を振り回さないといけないから強靭な腕力が必要だし、手数が増える分、一撃一撃の攻撃力は減り、更には打ち合えば大抵が撃ち負ける。


「ま、ホムラに関しては問題ないと思うけど」


 なにせホムラだ。

 冒険者三人を視認もできない速度で翻弄し、瞬く間に斬り伏せ、数十メートル蹴り飛ばしてみせたあのホムラだ。彼女が双剣を使えないって言われたらもはや誰が使えるのか分からないね。強いて言うなら宮本武蔵か。


「他になんかいるか? 防具とか靴とか。それオシャレブーツだけど大丈夫?」

「ん、いい。防御力よりも、速度特化」


 オシャレブーツの説明になってないけど……まぁ、生後三日ですものね。おしゃれしたいお年頃、ってやつなんだろう。

 とりあえず召喚術式で、それなりの魔力を込めて双剣を作り出す。

 それは、それぞれが片刃の短剣で、片方が『ソードブレイカー』と呼ばれる相手の武器破壊を狙うもの。そしてもう片方が、軽く湾曲した『斬る』ことに特化した短剣だ。

 一緒に双剣を差し込めるようになったベルトを作って差し出すと。


「ん、着させて」

「自分でやりなさい。もう見た目は十六歳でしょう」


 とか、そんなこと言ってきたホムラに即答する。

 もう生後三日よホムラさん。そろそろ親離れしなさい。


「……む、育児放棄」

「放棄してないだろ、隣に居るんだから」


 そして育児でもないだろ、どう見ても。

 そう言ってベルトを渡すと、彼女はしぶしぶ自分の腰にベルトを回し、二振りの双剣をそれぞれが左右のホルスターに鞘ごと差し込む。


「……完成」


 シャキンッ、と剣を抜くと……うっわ趣味全開だな。黒軍服にサバイバル用の黒ヘルメット。両手にはソードブレイカーと見るからに斬れ味抜群の片刃短剣。もはや趣味としか言い様がない。武器は僕の趣味ですけどね。


「というか、なんで双剣なんかにしたんだ? 僕の魔剣使ってた時かなり様になってたから、ついベーシックな剣士で行くのかと思ってたけど」


 ふと問いかけると、双剣を鞘に戻した彼女が僕を見やる。


「ん。昨日聞いた。レイは、攻撃特化の騎士目指してて、カイは、防御に特化した騎士をやりたいみたい。ハクは、まだぼんやりしてるから、とりあえず後衛でもいけそうな杖関係を教えるつもりだけど。そーなると、武器が被らない方が、この先きっと役に立つ」

「んー、そうか……」


 僕は『鍛え中』に関しては完全ノータッチで行くつもりだが……、なるほどそんな感じになってるのか。これ以上はネタバレになりそうなので聞くつもりは無いけど。


「ま、楽しみにしてるよ。僕の何倍くらい強くなってるか」

「ん、最終的には今の私よりもずっと強くなってもらう予定。……っと、ソーマ。敵、でてきた」


 そう言って剣を抜いた彼女は右の方へと視線を向ける。

 すると……な、何だこの軍勢は! たった一体で僕を死の淵まで追い詰めたバトルラビットが……ま、まさか、七体もいるだと!?


「くっ……、なんて敵勢力だ!」


 まぁ、そこは我らがホムラさんがいるから問題ないんでしょうけども。


「ホムラ、依頼通り五体頼む。残り二体は僕とスイミーさんで倒す」

「……正気? ソーマ、二体なんて勝てるわけない」


 心配したような顔でこれまた酷い事言ってくれるぜ……。まぁ、事実だから何も言い返せませんがね!

 ということで、ここは早速新しいお仲間に力を借りよう。



「問題ないさ……『サモン・ダークバット、エレメンタル』!」



 同時に二つの光が溢れ、僕の新しい召喚獣が姿を現す。


 片方はダークバット。

 コイツは以前に犯罪者ギルドの串肉オッサン捕まえるのに力を貸してもらったな。現時点でわかってる能力は『超音波』と『暗視』。それに加えて隠密能力がある気もする。鑑定スキルないから詳しいことはわからないんだよな。ちなみに超音波はオッサンを一撃で戦闘不能にできるくらいには強いらしい。


 そしてもう片方は……エレメンタル。

 コイツに関して言えば全くの未知。召喚を試したのもこれが初めてだ。


 飛んできたダークバットを腕の篭手に止めて空中を見ると、そこにはフワフワと浮いている光の玉が存在している。……真夜中に見ると『人魂』って感じの見た目だが、これはこれで強い……と思いたい。

 僕の方を見て少し目を見開いたホムラだったが、よく考えたらこの上にゴーレムまで手札があることを思い出したか、再びラビットたちの方へと視線を戻す。


 バトルラビットたち七体は既にこちらの姿を捉えており、もう『キュッピィ!』『ブキュッピ!』とやる気満々だ。あ、なんかあの一体僕のこと見て鼻で笑いやがったぞ。うし、アイツは僕の剣のサビにしてやろう。


「よし、突撃! 僕とスイミーさんであの小生意気な野郎をぶっ飛ばす! ダークバットとエレメンタルはまず一体を倒して僕らに加勢!」


 そういうや否やダークバットが篭手の上から飛び上がる。

 僕はスイミーさんを地面に下ろして剣を抜き放つと、ホムラとスイミーさんを先頭にしてそれぞれ敵へ向けて突撃してゆく。

 横目で見れば、ダークバットは僕のすぐ上を飛んでおり、エレメンタルは少し遅れ気味だが僕と同程度の速度は出せている……っと。


『プッギュフ!』

「残念だったな、そんな攻撃見えてるぞ!」


 よそ見した僕に向かって例のバトルラビットが突撃してくる。いきなり一番弱いやつ狙うとか中々にいい性格してやがるが……残念だったな。今の僕は、ホムラ、スイミーさん、ダークバット、エレメンタル全員の視界を共有している。よそ見なんてあってないようなものだ!


 振りかぶった魔剣もどきをラビット目掛けて振り落とす!

 普通にかわされる!

 胴体にバトルラビットの一撃が叩き込まれた!


「ぶぐっはぁっ!?」

「そ、ソーマ……!?」


 バトルラビット一体を切り捨てながらホムラから心配そうな声が聞こえてくる。……ふっ、大丈夫さ。今のはちょっとした準備運動だからな。


「ふっ、どうやら、お前は僕を本気にさせてしまったようだな……。ならばっ! いけスイミーさん、君に決めた!」


 準備運動……だけれども。

 なんか今吹き飛ばされた時に足首『ぐきっ』っていったし、じんじん痛いからスイミーさんに任せよう。うん、部下を信じて委細任せる。いい言葉だ。


『……!』


 我が主ながら情けないよぅ! と言った感じでスイミーさんがラビットの前に躍り出る。おいこらスイミーさん、僕は負けたわけじゃない。準備運動ミスっただけだ。

 そんな言い訳をする僕を他所に、スイミーさんは以前より遥かに早い速度でバトルラビットへと突撃していく。その速度は既にバトルラビットを上回っており――結局、普通に飲み込んで普通に決着が着いた。


『プギュゥ……』


 タックルからの顔面飲み飲み、そして窒息。

 脅威の三連打で一瞬にしてお陀仏したバトルラビットから興味を失い視線を離すと、バトルラビット五体を一瞬で斬殺したホムラ……からも視線を逸らし、残り一つの戦闘へと視線を向ける。

 するとそこには……うおぅ、こっちもこっちで一方的だ。バトルラビット相手に二対一でリンチ繰り広げてるダークバットとエレメンタルの姿があった。


『キィッ!』


 ダークバットが甲高く鳴くと、その口から衝撃波が放出される。

 その衝撃波はダークバットと知覚共有している僕だからこそ察せられるが、普通の者からすれば完全なる『不可視』。


『プッギュ!?』


 衝撃波に飲み込まれたバトルラビットが悲鳴をあげる。

 思いっきり脳を揺さぶられた奴はふらふらと力なくその場に倒れ、そのバトルラビットへとエレメンタルがフワフワと近づいてゆく。

 ……何する気だ?

 思わず首を傾げてエレメンタルの姿を見つめていると――次の瞬間、唐突にバトルラビットの体が両断された。


『――ッ!?』

「あれっ!?」


 悲鳴すらなくバトルラビットは倒れ伏し、僕は思わず驚きの声を上げる。

 え、あれ……今何が起きた? エレメンタルから『えいっ』て感じの雰囲気がしたなー、と思ったらすでに斬殺死体が出来上がってたんだが。


「……すごい。もしかして、魔法?」

「へっ?」


 ホムラの声を聞いてエレメンタルの反応を見ると……おお、何となく肯定のイメージが伝わってくる。


「ま、魔法……。やっぱりあったんだな」


 ホムラの『炎撃』についてナーリアさんからなにも突っ込まれてないから、「多分あるんだろうなぁ、魔法使い見てないだけで」とは思っていたが……まさかこんな身近に居たのか魔法使い。


「えっと……エレメンタル、他に使える魔法とかあったりするのか?」

『……』


 問い掛けると、僕の足元にある草が唐突に燃え始め、次に水がどこからともなく現れ鎮火。ずしりと水に濡れた地面が唐突に隆起し、それをどこからともなく吹いてきた強風が砕いてゆく。


「……火、水、土……風か?」

『……!』


 正解! と言った感じのエレメンタル。

 四属性……いや、多いんだろうな。知らんけど。よくあるファンタジーの感じだと『ば、馬鹿な……四属性魔術士(クアトロマジシャン)、だと!?』とかそんな感じになるかもしれない。まぁ、使ってるのは魔物だからそんな感じになるかは不明だが。


「ホムラ……は分からないもんな」

「ん、ソーマの記憶はある程度あるけど、この世界のことは分からない。そして、私も魔法は使えない」


 実質勇者だし、そのうち光魔法とか使えるようになりそうだけどな。

 そんなことを思いながら、とりあえず狩ったバトルラビット達をスイミーさんに吸収してもらう。


「ん、これでゴブリンと、薬草採取だけ」


 そう言って、ホムラは森の中へと視線を向ける。

 以前入った時は僕とスイミーさん、それとスライム達しか戦力はいなかったが、今やホムラにダークバッド、エレメンタルという戦力も増えた。

 ……うし、それじゃあ、さっさと終わらせようか!

 僕は内心でそう叫ぶと、ホムラへと視線を向けて。



「ホムラちゃん、足くじいたから肩貸して」



 ものすごい白い目でホムラに見られた。


圧倒的最弱ッ!

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