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015『ソーマの三秒クッキング』

 ――料理番。

 ファンタジー小説では『俺はアイテムボックス所有者……中に入れたものは時間が止まるッ! それが料理だったとしてもな……!』とか、そんな感じで誤魔化されつつあるが、料理番ってのは本来大切なものである。


 なにせ『あぁ今日も疲れた疲れた、今日はここらで野営としよう。あ、晩御飯なに? え、料理苦手なお前が作った暗黒物質(ダークマター)?』とかなったらまず暴動が起きる。そのレベルで重要だ。

 と、いうことは。


『え? ああ、ソーマの雑魚野郎がなんでホムラ様のパーティに居るかって? いいんだよあいつは戦闘型じゃないし。それに料理番っていう重要な仕事があるからな!』


 と、そんな感じになれる可能性が非常に高い!

 そして、こと今の僕において料理というのは『イメージして出てこい、はい出来上がり』という3分クッキングも蒼白なクレイジーショート。この力を使えば『パーティの料理番』という地位を獲得するのも容易なこと。


 逆に問題は、どうやってその地位を冒険者たちに広めるか。

 そして、下手に『美味すぎる』ものを作ってもそれはそれで有名になりすぎてしまうということ。下手すれば『黒髪に見た事ない料理! さては勇者様!?』もありえる。というか、これでもけっこう情報収集してるんだけど、未だに僕のこと召喚したのがどこの国か分かってないんだよな……。それが分かればやりようもあるってのに。


「ま、可もなく不可もなく頑張りますか」


 どーせ最初っから完璧なんて出切っこない。そこまで僕の頭は良くないから。だから、とりあえずこの方向で進んでみて無理そうだったらやり直そう。後からでもやり直しは聞くはずだ。

 そう考えながら地図から顔を上げ、目の前の店へと視線を向ける。


「さぁてと、ここがウマイモーンさんの居宅か」


 地図通り来てみたが……かなり大きな料理店だな、客も多い。

 なるほど『超一流』とはこういうことか……と戦慄しながらも、僕は軽く汗を拭って店の中へと足を踏み出す。

 さぁ、僕らの戦いはここからだ!




 ☆☆☆




 ――その後。

 店に入ってすぐ、店員さんにギルドからの依頼書を見せると、その店員さんは僕をウマイモーンさんの部屋へと案内してくれた。

 店を見るだけでわかるが、この店の店長であるウマイモーンさんは忙しい。僕とは違って非常に多忙だ。そのため一度面接……とまでは行かずとも直接その相手を見て、見るからに『いやコイツ無理だろ』って相手にはそのままお帰り頂いているようだ。……多分その時にグッサリ毒舌でやられるんだろうなぁ。そんなことを思いながら、こっそり『手袋』を召喚する。


「ウマイモーン様、新たな挑戦者の方を連れて参りました」

「ん? あぁ、入れてくれ」


 扉の向こうからそんな声が聞こえ、店員さんが扉を開けて部屋の中へと入っていく。それに続いて部屋の中へと足を踏み出すと――次の瞬間、値踏みするような鋭い視線が突き刺さり、思わずゴクリと喉を鳴らす。

 視線の方を向くと、そこには執務机を前に座っている一人の男の姿があり、その男は鋭い瞳を僕に向けたまま淡々と語り出す。


「…………ふむ。まずこれは全員に言っていることなのだが、もしも遊び半分で来ているのならすぐさま後ろの扉から帰りたまえ。正直、中途半端な自信や腕の料理人にこられてもこちらの時間が無駄になるだけ。そんな者に付き合うような時間はない」

「見るからに忙しそうですもんね」


 うーん……でもそうなると僕は確実に帰らなくちゃいけないからな。自分に自信もなければ腕に覚えもない。ただ召喚術式に自信ありますってだけの人生舐めてる若造ですし。

 けどまぁ、そんなことをわざわざ言う必要もない。彼へと視線を返してそう言うと、ウマイモーンさんは僕の両手へと視線を落とす。だが。


「手袋、か。ふむ、基本的に料理人とはその手に今までの積み重ねが全て現れる。私レベルともなるとその手を見るだけで相手がどれほどのレベルか測れるものだが……それは外せない理由でもあるのかね」

「ええ、実は両親が薬師でして。料理でどれだけ手を傷つけてもすぐ近くにポーションがありましたので……この通り。僕の手は料理人にあるまじきほど『普通』なんですよ。これを最初から見せても追い返されるがオチでしょう?」


 手袋を外し、生まれてこの方ほとんど料理をしたことの無い、僕のツルッツルの手を見せてみる。何となくこういうこともあるかもなーと手袋用意しといて正解だったぜ!

 ウマイモーンは大きく息を吐いて瞼を閉ざすと、近くにいた店員さんへと視線を向ける。


「もうじき昼の休憩だろう。……どれだけのものかは知らんが、試してやる。調理場を貸してやれ。好きな食材を使っていい。持ち込みも許す。ただし調理時間はうちの料理人たちが休憩している間のみ。……さて、貴様にこの私を唸らせるような料理が作れるか?」


 そう問われ、僕は笑みを浮かべて頷き返す。

 するとウマイモーンさんは再び執務机に向き直ってしまい、近くにいた店員さんが『こちらです』と再び案内してくれる。


「……にしても、驚きました。ウマイモーン様が最初の時点で『落とさない』とは、最初の頃に本格的な料理人達が腕試しに来ていた頃以来です。最近ではそういうのも減ってしまい、藁にもすがる思いで冒険者ギルドにさえ依頼を出す始末でして……」

「あぁ……、そうですか」


 部屋を後にし、廊下を歩く店員さんから声がかかる。なんとなく言葉の端々から『ウマイモーン様を失望させないでくれよ』とでも言いたげな雰囲気が伝わってくるが、そこはなんとかなると思う。なにせ天下の召喚術式ですし。

 そんな店員さんにテキトーに返しながら、僕はちょうど昼休憩に入ったらしい調理場へと連れてこられる。昼休憩って言ってももう二時過ぎだけどな。


「それでは、制限時間は一時間。手早く手軽で、唸るほどに美味いものを。それがウマイモーン様からのご注文です。それを満たすならばどんなモノでも良いとのことでした」

「なるほど……」


 手早く手軽で、美味しいものか。

 そう言われると天下のジャンクフード、ハンバーガーを思い浮かべてしまうが、仮にも超一流の人物が『肉をパンに挟む』なんて簡単なことを考えないはずもない。

 となると……さて、何を作ろうか。


「それでは、料理が完成しましたらお呼びください。食堂へとご案内致しますので」


 そう考える僕を前に、店員さんは一礼をして去っていく。

 そんな彼の後ろ姿を見送りながら、僕は誰もいない調理場で一人呟く。



「『召喚』」




 ☆☆☆




 というわけで、はい。出来ました。

 調理にかかった時間、驚異の三秒。

 早い、手軽! そして美味そう!

 ということでほんとに美味いかスイミーさんと一緒に実食し、『美味すぎる……!』と二人揃って唸った僕らは、もう一個新しいの召喚――する前に、これでは調理時間短過ぎないか、と思いとどまる。


「というわけで、一から作ってみよう!」

『……!』


 スイミーさんと一緒にそう叫んだ僕は、召喚術式で、お好み焼き粉、水、牛乳、キャベツ、卵、天カス、豚バラ。あとマヨネーズとお好み焼きのタレ、青のりと鰹節をを召喚する。

 え? もう何作るか分かったって? おいおいこの時点で分かるとか天才かよ。ちなみに僕は天才ではないが、この材料出されたら『あ、今日のご飯はお好み焼きか』って分かると思う。


 というわけで、はい。お好み焼き作ります。


 キャベツを切っ……うっわ包丁怖っ。手を切らないように注意しながら、なんとかみじん切りを完成させる。そのあとはこれまた召喚したボールにお好み焼きの粉やらなんやらをぶち込んでかき混ぜ、他の材料と一緒にフライパンの上へとぶちまける。

 そんでもって、なかなかにいい感じの焼き目がついてきたら、ヘラを二つ持ってくるりと裏返す。これはなんとか成功した。

 でもって裏面も焼けば既に完成は間近だ。


「ヘイ、スイミーさん、ソース取ってくれ」


 フライパンから皿に移動させる傍ら、スイミーさんにお願いしてソースやらマヨネーズやらを持ってきてもらう。

 そうして最後は、なんかお好み焼きっぽい感じでソースとマヨネーズを交差させるようにしてぶっかけ、青のりと鰹節を散らして……はい完成!


 調理時間は……三十分もかかったか? よく分からんが、多分かかってないような気もする。

 早速椅子を引いてお好み焼きの前に座った僕は、スイミーさんの分をとりわけ、自作のお好み焼きに齧り付く!


 ……うん! 粉っぽい! そして不味い!

 けどソースとマヨネーズのおかげでなんとなく美味しく感じられる不思議!


「うし、スイミーさんあと全部食っていいぞ」

『!?』


 失敗作押し付けられたスイミーさんが驚いたように身体を震わせる中、僕は再び新しいお好み焼きを召喚する。

 ついでになんかそれっぽい台車を呼び出し、その上に皿ごとお好み焼きを置くと、銀色ドームの蓋を被せて、はい完成。


「……ふむ、何やらいい匂いがしますね」


 ちょうど店員さんが匂いに釣られてやってきたらしく、僕はニヤリと笑って彼へと告げる。



「ちょうど『今』出来たところです。冷めてはいけませんし、早速ウマイモーン様の元へと運びたいのですが……よろしいですか?」



 この呼び出した方のお好み焼き食べた僕だからわかる。

 この勝負、間違いなく僕らの勝ちだ。



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