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014『行動開始』

「可もなく不可もなくって感じだな、ホムラと違って」

「ん、どういうこと、ソーマ」


 僕の隣で黒軍服(コスプレ)に身を包んだホムラがなにか言っているが、聞こえない振りをして三人の姿を眺める。

 あの後、まだ体力も十分に回復していない様子だったので、三人に合わせて少し昼寝休憩(断じて僕が『あ、なんか働くの面倒くさくなってきた』とか思ったからではない)を挟んだ後、僕は三人へとそれぞれ服をプレゼントした。

 というのも、またホムラの時同様『どんな服がいい?』と聞いた上での召喚な訳だが。


「もうちょっとなんか……ほら、ないのか? 個性的なやつ」

「と、いわれましても」


 新しい服装に着替えたレイが困ったように僕を見上げている。

 今の三人の服装は、言ってみれば『超普通』。もうやろうと思えば三人まとめて三行で言い表せくらいだ。

 ①ハク→白い服に黒いスカート(膝下まである長いやつ)。

 ②レイ→白いワイシャツに黒いズボン(何故か男物)。

 ③カイ→白服黒ズボン。特筆すべき点なし。

 ……うん、なんかほら、統一感出さなくていいからもうちょい個性出せよ。似たような服装の僕がいえたことじゃないけどさ。


「あとレイ、なんで男物なんだ?」

「……私は、強くなりたい。ので、かたちから入ろうかと」


 うむ、なるほど。深くは聞かん。暗くなりそうだし。

 そしてハクは……まぁ、可愛らしくていいんじゃないかい? 地味だけど。ただしカイ、お前は逆に地味すぎる。


「なぁカイ。お前もお年頃だろ? もうちょいオシャレとか……」

「い、いえ! 僕はソーマさんと同じがいいので!」


 オシャレしろ、と言った途端にキラッキラした瞳で僕のことを見てくるカイ。なんだろう、物凄く叱りつけ辛い。そして頼むから僕を基準にしないでくれ。僕は単に『え? 異性? ニートになるのに彼女なんていらなくね』という思考の末にこんな服装してるだけだ。カイ、君はちゃんとオシャレしなさい。

 と、そんなことを言おうとしたが、残念ながら言ったところでカイの僕を見る目が変わる気はしなかった。


「うーん……。まぁ、そのうち慣れるか」


 彼女らも、僕に引き取られてまだ緊張してるってのもあるのだろう。一緒に昼寝したおかげが最初よりは随分と硬さも取れた気がするが、それでもたぶん、気とか使われてるんだろうな。カイのはなんか違う気もするけど。

 ホムラみたいな『召喚されて全裸! なんの服がいい? 黒軍服!』的な無遠慮さまではいかなくていいから、時間をかけてでもゆっくりと新しい生活に慣れていって欲しいもんだ。


「さて、飯食って昼寝して服決めて……あと何あったっけ」

『……?』

「ん、何かやりたいこと、ある?」


 僕の言葉にスイミーさんが『なにかあったっけ?』と言った感じで身体を震わせ、顎に手を当てたホムラが三人に問いかける。

 すると三人は顔を見合わせると、少し考えるようしてから、代表してハクが僕らへと問いかける。


「えっと、あなた様……と、ホムラ様は、冒険者……なのですか?」

「ん。遺憾ながら」

「いやホムラはギルマス嫌いなだけだろ」

「そうともいう」


 そう言って胸を張ったホムラに苦笑していると、頑張るぞいっ、って感じで拳を握ったハクが、やる気に満ち満ちた表情でこんなことを言ってくる。


「で、では、私達も冒険者になりたい、です! 恩返し、したいので!」


 ハクのその姿は可愛いのだが……冒険者か。そのなりで冒険者って、僕が言うのもなんだが……大丈夫か? バトルラビットに苦戦しそうな勢いなんだが。僕と一緒で。

 スイミーさん……に聞いても分からんよな。ということで、うちのパーティの切込隊長ホムラさんへと『そこん所どんな感じに見える?』とアイコンタクト。


「……む。レイと、カイも、似たような感じ?」


 その問いかけに、二人は迷う素振りも無く頷いた。

 レイカイ兄妹はどこか『力をつけたい』って雰囲気があるからな。過去に何があったのかは知らんが、まぁ納得出来る。そしてハクは純粋に恩返ししたいってだけ……。まぁ、三人とも僕の『名誉が欲しい!』って動機よりはマシだろう。

 だがしかし。


「……正直、まだ三人には早すぎる、と思う。体力も足りてないし、力もない。たぶん、素手でやってもソーマに……たぶん、おおよそ、ギリ勝てるくらい。後衛ならまだしも、前衛でそれは致命的」


 おいおい僕弱すぎね?

 そんなことは思わなかった。既に重々承知である。

 微妙そうな顔の三人からホムラへと視線を向ける。

 すると彼女は『わかってる』と言わんばかりにため息を漏らすと、目の前の三人に向かってこう告げた。


「だから、私が一から、鍛えたげる」


 その言葉に、三人は驚いたように顔を上げる。


「体力から、筋力から。……教え方は分からないから、手探りだけど。とりあえず一ヶ月で使い物にしてみせる。で、いい? ソーマ」

「うん、そっちはホムラの好きに任せるさ」


 そう言って僕は椅子の背に体を預けて伸びをする、

 とりあえず、三人の育成に関していえばホムラに任せておけば問題は無いだろう。彼女からも『ギルマスに早くランク上げろと言われたけどあえて子供たちの育成に専念してる私』的な意味合いでやる気が感じられる。どれだけギルマスのこと嫌いなんだいホムラさん。

 となると、こっちに僕が介入できそうなことは無い。ならニート生活まっしぐら……と行きたいところだが。そうも問屋が卸さない。



「僕は僕で、少し考えることがある」




 ☆☆☆




 新しく三人へと運動用の体操着として動きやすそうな上下セットを渡した僕は、ホムラたちと別れ、一人ギルドへとやってきていた。

 たぶん、今頃あの四人は宿屋の庭先でも借りて訓練に励んでる頃だろう。宿屋の店主さんにお願いしたら『若いもんは元気があっていいねぇ……。いいよ、うるさくしないんだったら貸してあげるさ』と快く使用を許可してくれたしな。


「さて、と」


 顎に手を当て、掲示板を見上げる。

 イザベラの件は連絡が来るとしても明日か……明後日か。領主が慎重派かどうかにもよるが、もう少し時間がかかるだろう。

 となるとその間、僕はフリーとなる訳で、元々はこの期間は『ひゃっほうニート期間』にするつもりだったんだが……どこぞのギルマスのせいで計画の脆弱さに気づいてしまった。


 今回のギルマスの件。

 それを一言で表すと「お前のパーティメンバー弱っちくてお前に見合わないから、早く見捨てて新しい仲間を探せよ」って話だ。

 まぁ、よく考えたら普通に正論。僕とホムラの関係性を知らない奴からすれば、僕は才能に溢れた妹の足引っ張ってるだけのニート兄。目立たないどころかオートでヘイトが溜まっていく負の連鎖。目立たないだなんて出来るはずがない。

 むしろそのうち『やぁ。君がホムラ君かい? そんなパーティ抜けて僕らの仲間にならないか?』とか言ってくる見た目爽やか腹中どす黒イケメンとか出てきてもおかしくない。それは面倒くさい、非常に嫌だ。

 と、言うことで。


「実力はなくても都合よく『ああ、アイツは別に戦闘型じゃないし、あっちの仕事があるからいいんだよ』とでも言われそうな仕事はないものか」

「な、なかなかそういう仕事はないかと思いますが……」


 ふと、背後から声が聞こえて振り返る。

 するとそこには困ったような笑顔をうかべる受付嬢――ナーリアさんだったか? の姿があり、彼女は僕の隣に並んで掲示板を眺め始める。


「そ、その……うちのギルドマスター、もしかしなくとも何かやらかしましたか? なんだかホムラさんが末恐ろしい怒気を放ちながらギルドを後にしたので……」

「え? ああ。僕が雑魚過ぎて足でまといだから、あんな雑魚捨てて新しいパーティ組め、こっちで決めるから。って言ったらぶちギレたみたいですね。次見たら殺すって豪語してたんで、ギルマスのことホムラの前に出さないでくださいね」


 掲示板を見ながら何の気なしにそう返すと、隣から「…………はっ?」という声が聞こえてくる。

 今のはギルマスの正当性に対する『は? 当たり前だろ何言ってんだこの雑魚』って奴か、あるいは『は? え、ギルマス何言っちゃってんの、怒るに決まってんじゃん!』って奴か。……おそらく、彼女から立ち上る殺気を思うに後者だろうけど。


「……その、すいませんソーマさん。ちょっとギルマスに説教……ではありませんでした。お話があるので失礼します。……お詫びはまた今度、しっっっっかりと行いますので……」

「あ、お構いなく」


 そう言いながら、掲示板から目は離さない。

 隣のナーリアさんが「こぉらギルマスうううううう! どこいったああたあああああああ!!」と、とんでもない怒声を上げて走り去ってゆき、ギルド中が騒然となる中……ふと、僕はひとつの依頼を発見する。


「お! これなんかいいんじゃないか!」


 難易度は……すげぇ、脅威のBランク。

 ただし命の危険性はなく、Eランク冒険者からも受注は可能。ただし今までに成功したものはいなく、帰ってきたものはほとんどが再起不能なまでに心をポッキリへし折られていたと……。なかなかにクレイジーでデンジャラスな依頼らしい、だが。


「これだ……これしかない!」


 もはや天啓!

 僕は手の中の依頼書を見て、確信していた。



 ☆☆☆



【依頼名】毒舌料理人を唸らせろ!

【ランク】B

【内容】

 毒舌で有名な、この国お抱えの超一流料理人『ウマイモーン』が、自分を唸らせるような料理を募集中! 依頼主は毒舌なだけでなく料理を感じる味覚も優れているため、そんじょそこらの料理自慢では完膚なきまでに毒舌にやられ、心がポッキリへし折れるため注意。

【報酬】

 1,000,000G

 最新型移動式屋台



 ☆☆☆



 その依頼書を手に、僕は受付へと歩き出す。

 ふっふっふ……ウマイモーンとやら。

 僕の持ち得る召喚術式(から出てくる日本料理の数々)……それを前に果たして唸らずに居られるかな!


 僕は、その日その瞬間に決心した。


 そうだ、パーティの料理番(仮)になろう、と。


俺TUEEEE→ホムラ担当。

アイツYABEEE→ソーマ担当。

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