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013『ホムラの逆鱗』

 しめしめ、これで商会立ち上げた時の従業員確保だぜ!

 ――と、そういう感じの自己正当化の果てに、とりあえず自分の中では納得出来た。それにもしかしたら強いスキルとかそういうの持ってるかもしれないし。未来の照会従業員兼、戦闘員(仮)的な。


「そんな感じですけど、どうでしょう」

「ん、いいと思う」


 場所は借りていた宿屋の一室。

 あの後、ギルマスとの話し合いが終わったらしいホムラと合流。そのまま宿屋へと帰ってきた僕は、新たに部屋を借り直し、ホムラに今までの流れをかるーく説明していた。


「あ、あの……そ、その方は……?」

「ん? あぁ、そういえば説明してなかったな」


 部屋の端っこの方に固まっていた三人組から声がかかる。そういや彼女らを助けた時はホムラもまだ召喚してなかったし、説明も必要だろう。


「こちら、僕の仲間のホムラだ。こんなんでもベテラン冒険者一方的にボコれるくらいには強いから、レイとかカイとか、強くなりたいんだったらホムラに稽古つけてもらえ。僕は近接に向いてない」

「えっへん」


 無表情で自信満々に胸を張るホムラ。

 僕の言葉にぎょっとした様子の三人だったが……この子達は僕の力見てるんだもんな。さして疑問に思うことなくペコリと頭を下げている。


「で、こっちの三人組が……」

「ん、しってる。ハク、レイ、カイ、でしょ? あのオッサン、ウザかったから一瞬で話切り上げてきた。だから、聞いてた」


 ……うぉい、何しとるんだホムラさん。あの人ギルマスだって言いませんでした? 嫌だったら拒否してもいいとは言ったけど拒絶しろとまでは言ってないぞ。

 ぷいっと視線を逸らした彼女に苦笑を漏らしていると……ふと、子供たちの方から『ぐうぅ』と腹の音が鳴った。そちらを見ると、そこには顔を真っ赤にしたハクの姿が。


「あぅ、す、すすいません!」

「あぁ……すまん、先に飯にするか」


 イザベラから、この子達はついさっきまで疲労で寝たっきりになっていたらしく、朝ごはんを食べていないと聞いている。昨日もいきなりガッツリしたやつ食べて腹を壊さないように、軽いスープくらいしか食べさせてないって言ってたしな……。

 時刻としては朝の十時(ソーラー時計調べ)。

 宿屋の朝ごはん……は、たぶんもうやってないか。この宿屋は昼飯のサービスはないみたいだし、となると……。


「さて、ここは僕の出番かな?」


 そう言った僕に、彼女らは不思議そうに首をかしげた。




 ☆☆☆




「お、ぉぉ、お! 美味しいです!」

「そりゃよかった」


 目の前には、凄い勢いでスープをかき込んでいく子供たち三人の姿がある。

 三人は部屋に何脚かあった椅子に座っており、彼女らの前には長机の上に置かれた三つの小さな鍋がある。

 それぞれには、シチューとコーンポタージュとコンソメスープと。三通りのスープ(シチューをスープと呼ぶかは微妙だが)が入っている。ちなみにこれらは召喚術式で召喚したヤツだな。


「す、凄い……! こんなの食べたことないです!」

「……神、です。いっしょう、ついてきます」


 大袈裟だな……とは思うが、今までの彼女らの生活を想像するとそうも言えない。思わず苦笑していると、何か思い出した様子のハクが焦ったように顔を上げる。


「あ、ぁっ! えっと、その、わ、私達……ど、奴隷、です……っ! こ、こんなものを頂いて、よろしいのでしょうか!?」


 その言葉に今更思い出したように残り二人も手を止めるが、別に奴隷って言ってもな……。それで扱いを変えるとかそういう訳でもないし。


「いや、そもそも三人とも、捕まって強制的に奴隷にされちゃったんだろ? 僕の能力は他人に軽々しく話せないから『口止め』として奴隷制度使用させてもらうだけで、実際三人を奴隷として扱うつもりは微塵もないさ」


 奴隷には専用の契約魔術が施されており、それを媒体に主は奴隷へと『命令』を下すことが出来る。例えば『僕の能力について他言するな、誰かに伝えるな』とかな。

 今回はそれが目当てで奴隷のままで居てもらってるが……そもそも奴隷契約自体が不正なもの。だからイザベラは彼女らを奴隷から解放するために動いていたのに、そこに『ソーマについて行きたい』と三人が言い出した。だから事情聴取とともに僕を呼び出した――と。

 そういうわけだから、そもそも奴隷としての立場なんてあってないようなもんなのだ。


「だから安心して食べていい。でないとホムラに全部食われるぞ」


 ちらり、と極めて視界に入れないように務めていたホムラを見ると、そこには朝ごはん食べたはずなのにとてつもない勢いでスープを飲み干していく彼女の姿があり、その光景に三人の喉がゴクリと鳴る。

 かくして、一番最初に動いたのはレイ。彼女はグイッと器を煽ってスープを飲み干し、それを見たハクとカイも少し遅れて動き出す。

 それを見たホムラが焦ったようにおかわりをしに行こうと動き出すが……はいはい君はちょいとこっちに来なさい。君には別に用事があります。

 彼女の首根っこ掴んで少し離れたところまでやってくると、明らかに不機嫌そうな彼女はぷくっと頬を膨らませている。

 なんだかこのままでは会話になりそうにないので。


「さーてホムラさん。これなーんだ」


 召喚術式でケーキの乗った皿を召喚する。

 途端に彼女の視線がケーキへとロックオン。


「ん、わかってる。あのおっさんと何話したか、でしょ? 理解、把握。さっさと話ししよう」

「さすが、よく分かってる」


 同じく召喚術式で机を生み出すと、机の上にケーキを置く。

 ホムラの視線は真っ直ぐケーキに向かっており僕の方になんか見向きもしていなかったが、どうやら説明を疎かにするつもりは無いようだ。


「端的に言うと、世間話と、提案と、スカウトだった」

「世間話は分かるが……スカウトってなんだスカウトって」


 困るぞホムラのこと勝手に引き抜こうとされたら。彼女はスイさんと同様に僕の防衛戦力なんだから。彼女に居なくなられたらすごく困る。


「……ん。順番に説明する」


 少し頬を赤くしたホムラはそう言って小さく深呼吸すると、ケーキから僕に視線を向けてギルマスとの会話について語り出す。




 ☆☆☆




「まぁ、座れや。汚ぇところだがよ」


 場所はギルドマスターの執務室。

 そう言ってソファーに座り込んだギルマスを見て、彼女はため息一つ対面のソファーへの腰を下ろした。


「で、なんの用。私、忙しい」

「おいおいつれねぇなぁ、お前さんならEランクに上がるのに必要な依頼なんざ一日あれば終わるだろ。なんなら俺がギルマス権限でいきなりEランクにしてもいい。そんだけの実力があるんだからな」


 そう告げるギルマスの顔には薄らと笑みが浮かんでいるが、対するホムラの顔には一切の表情が浮かんでいない。しかし、見るものが見ればその中に不機嫌さが滲み出しているのがわかるだろう。


「まず最初に聞く、お前さん何者だ?」

「私はホムラ、父様の娘」

「……ととさま?」


 思っていた答えと異なる回答に、ギルマスは小さく首を傾げる。

 しかし……その『父様』とやらが超がつくほどの大英雄だったらその答えも頷ける。ギルマスは軽く身を乗り出すと、彼女へと思い当たる限りの二つ名を告げていく。


「その父様とやらはどこのどいつだ? 黒髪の英雄なんざ初代勇者しか知らねぇが……大昔の人物だしな。なら、【不滅無壊】、【覇鉄王】、【氷の女帝】……いや、炎使うって聞いたな。なら【不滅ノ炎】……いや、あの方は年齢的にちげえか。なら……」

「興味無い。で、何の用?」


 重ねるようにホムラは問い、ギルマスは『うむぅ』と小さく呻く。

 聞かれたくないのか、あるいは無名の実力者か。そう頭の中で考えるギルマスは知る由もない。彼女の親が無名な上に実力者ですらないことを。


「まぁ、いいか。で、本題としてはお前さん。Fランクの割には強すぎる。あんたみたいのをFランク……じきEランクに上がるとしても、その程度に留めておくとお偉いさんがうるさくてな。俺から直々にお前さんなら大丈夫だろ、ってDランク、場合によってはCランクの依頼を斡旋してやる。だからさっさとランク上げてくれ、って話だ」

「ん、分かった」


 その提案は、ホムラとしても望むところだった。

 ホムラは、知覚共有スキルでソーマの願いを知っていた。といっても読み取れるのは彼の計画『全て』ではなく大まかなものでしかないが、その一つに『冒険者としての地位を築く』というモノがあるのは知っている。

 このギルドマスターはどことなく気に入らないが、すこし我慢することでソーマの願いが叶うならそれでいい。満足だ。

 だからこそ、彼女は迷うことなく頷いて――。


「おお! そう言うと思ったぜ! んじゃ、早速だがお前さん。アンタに紹介したい冒険者パーティがあるんだがよ」

「…………は?」


 唐突にそんなことを言い出したギルドマスターに、ホムラは目を見開き、唖然とした声を漏らした。

 されど、そうとは気付かぬギルドマスターは、触れてはいけない『逆鱗』に話の矛先を向けている。


「ナーリアから聞いてるぜ? お前さん、兄がいるんだってな。テイマーの黒髪で……珍しいのなんのって聞いて俺も隠れて見てみたが、ありゃダメだ。弱すぎる。テイマーってのは自分が強くなけりゃ何も出来ねぇ貧弱職だ。にも関わらずあの素人っぷり……悪ぃがあの雑魚はすぐ死ぬな。お前さんと居たら話は別だろうが、完全に足を引っ張るお荷物だ。そりゃいけねぇ」


 ホムラの右手にチリリと炎が燻る。

 ――マジでブチギレる五秒前。

 そんな言葉が相応しい彼女を前に、ギルマスは善意100%でこう告げた。


「お前さん、あの雑魚は見捨てて俺の選んだパーティと組め! なぁに、安心してくれていい! あのパーティは昔から知っ――」


 そこまで言って、ギルマスは息を呑む。

 目の前には炎を纏った手刀を彼の首元に突き付けるホムラの姿があり、彼女はゾッとするような冷たい瞳でこう告げる。



「二度と話しかけるな。次は殺す」



 そう言い放ち、彼女は一方的にその場を後にする。




 ☆☆☆




「あいつ、ソーマを馬鹿にした。嫌い、次は殺す」


 そう、不機嫌さを隠そうともしない彼女を前に、僕は乾いた笑みを浮かべる。

 ……まぁ、ぶっちゃけ『眼中に無い』と言われるのは望むところなんだが、ホムラが怒るのも分かるっちゃ分かる。僕だって『ん? 誰だそれ、そんな奴いたっけ?』と言われるのは良くても『ああ、あの雑魚? あの雑魚っぷりはマジウケんよね! この前なんてバトルラビットにボコられてたよ? マジ雑魚過ぎて草生えるwww』とか言われたらカチンとくる。なんだとてめぇこら僕と同じステータスでバトルラビットに挑んでから言いやがれ。

 ということで、怒るに怒れなくなった僕は、ため息ひとつ。


「……ホムラ、ケーキもう一個追加してやろう」


 そう言って、僕はそっと高級ショートケーキを皿の上に追加した。

 ……いい人だとは思うんだけどなぁ、ギルマス。

 ただ、なんというかご愁傷さま。デリカシーが無くて許されるのはハーレム主人公だけみたいだな。まる。


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[一言] ギルマス、これがノンデリってやつだぜ
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