012『再会』
「ま、パパ上と相談してくれ。はいこれ、体壊れてるなら必要だろ? ポーションあげるよ」
緊張から一転、ポーションを机の上に転がした僕はそう笑う。
目の前には未だ唖然と立ち尽くすイザベラの姿があり、彼女は呆然と僕を見つめて、ありえないと言わんばかりに口を開く。
「き、貴様は……賢者殿にすら優る魔力量を、持っていると……?」
「アンタの妹だって持ってるんだろ? 他に居たっておかしくはない」
ま、僕の場合は半分『反則』入っての現魔力量だが、たぶん女神様の口調から察するに今の魔力全てが勇者ボーナスによるもの、ってわけじゃないと思う。よく分からんが、魔力量の多い地球人の中でさらに選ばれた、とか言ってたしな。
「信じるかどうかは全て任せる。ま、信じられなくっても国王様にまで話が行くならそれでもいい。でもって、この国の国王も僕を信じられない、一顧だにする必要も無い、って言うならこの国は諦めるさ。他を探す」
まぁ、それは言い換えれば『有事の際、僕が「世話になってるし、仕方ないからゴーレム一万体ぐらい出すよ」とか言い出す可能性』を完全に捨て去るってことだが、それを含めて一顧だにしないってんならそれでいい。僕っていう一兵力に興味ない、って言ってんだから。
そこまで言われちゃ、さすがの僕も役には立てないさ。
この国に協力することはすっぱり諦めて、僕の力を欲しがる国を探します。
そういう意味合いでも伝わったか、彼女はゴクリと喉を鳴らしてソファーへと座り直した。
「……父と、相談させてもらう。一応聞くが、悪意や害意、殺意は」
「ない。アンタらが王族との仲介役になってくれるなら全霊でアンタの妹を助けるさ。あぁ、もちろん僕と王族との話し合いに関しては内密な、って前提は付くが」
そも、必要以上に目立ちたくないんだ。
目立ってもいいってんならこんな面倒なことしちゃいない。
純粋に冒険者として最高位を目指して、最高位冒険者として国王陛下へとお目通り願う。
あるいは異世界商品を扱う商会の長としてでもいいな。
そんでもって他貴族とか全員居る前で自分の本当の力暴露して、正々堂々交渉するさ。
でも、目立ちたくないんだよ、僕は。
「アンタらに求めるのは単純なことだよ。王族と交渉がしたい。だから、その席を設けてくれ。誰に悟られてもいい。ただ、僕と王族とアンタたち。それ以外に誰もいない席を設けてくれ」
「……随分と、自信があるのだな」
「そうだな、自信が無いとこうは言わない」
慢心……ではないと思う。
この力――『召喚術式』は神に貰ったチートスキルだ。
この世界のものだろうと異世界のものだろうと空想上の物だろうと。魔力がある限りはどんなものでも呼び出せる。召喚し、使役できる。
そんな力を王族が欲しがらないわけがない。
……ま、といっても王族の下に付くなんて御免だから、なにか欲しいもの十個くらい言ってください。全部上げますんで平穏ください、ってな具合にすると思うけど。
ま、詳しくはその時になって考えよう。今考えるのめんどくさい。というか昨日は働きすぎたからもう動きたくない。うん、もう引きこもりたい。ニートになりたい。
「ということで、帰っていいすか。疲れました」
「え? あ、ちょ、ま、待ってくれ! 今回の貴殿を呼んだのはその確認と、もう一つ用件があったのだ」
「……用件?」
なんだろう、本格的に思いつかない。
とりあえず犯罪ギルドの件は片付いただろ……? なら……あぁ、そう考えると報酬とかそういう話もあるのかな。めんどいから全部『ホムラさんがやりました』ってことにしてもらおう。んで、ホムラが王様に呼ばれた時にでもついてってミッションクリアだ。
とか、そんなことを内心考えていたら。
「実はな。貴殿が助け出した奴隷なのだが……」
「……ん? あの子達奴隷だったのか?」
僕が助け出した……って言われると、あの子供たち三人組を中心とした数名の人々のことだろう。だが……奴隷か。やっぱりこっちの世界にはそういうのがあるんだな。
「……どうした?」
「あぁ、いや。僕の住んでるところには奴隷ってのはなかったからな。で、あの子達がどうしたんだ?」
もしかして良い引き取り手が見つかったと思って引渡したはいいが、相手が猫かぶっててまた酷い目にあってる――みたいな面倒なことだったら僕は嫌だぞ。何が嫌って、顔見知ってるから助けに行かないと悶々とした日々過ごしちゃうなって想像つくからなんだかんだ言いつつ助けに行っちゃう自分がこれまた想像つくからいろんな意味で嫌だぞ僕は。
そう顔を顰めていたが、されど彼女から語られたのは予想だにしないことだった。
「貴殿が助けた三人の子供たちだが、貴殿の奴隷になりたいと言っている」
☆☆☆
「どうやら彼女らは、元々物乞いだったそうだがな。奴らに捕まり強制的に奴隷へと落とされたそうだ」
前を歩くイザベラが、そんな情報を教えてくれる。
彼女の爆弾発言から数分後。僕は、彼女の案内で医務室へと向かっていた。
「どうやら、貴殿が応急処置をしてくれたらしいな。うちの医療班も応急処置がなければ間に合わなかった人も居た、と感心していたよ」
「普通にポーションふりかけたり飲ませたりしただけなんですけどね」
屋内とはいえ一応『外』ということで、おふざけでは無い外面の敬語を使って、されどテキトーに言葉を返す。応急処置なんてそれこそテキトーだ。褒められたってどうしようもない。
「さて、ここが医務室だ」
そう言って立ち止まったのは木製のドアの前。
ドアの上には『医務室』と異世界語で記されており、コンコンっと軽快にノックをしたイザベラはノブを回して部屋の中へと入ってゆく。
僕も彼女を追って部屋の中へとはいると、ツンとしたアルコールの匂いと共に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あぁっ! あ、な、貴方さま、は!」
「ん? おお、昨日ぶりだな」
声の方へと視線を向けると、そこにはベッドで上体を起こした……たぶん最初に助けた灰色少女だな。こっちに来てから体や髪を洗ったみたいだが、普通に見違えたな。あの灰色少女が今や白髪碧眼の美少女だ。十年後が楽しみな感じだ。
「あ……」
「あ、あの、あの時はどうもありがとうございました……!」
も二つ声が聞こえてきて、そちらに向く。
そこには……うん、こっちはお友達の方かな。どことなく雰囲気がホムラに似た感じの少女と、しっかりとした感じの男の子。どちらも金髪碧眼で年齢も似たりよったり。もしかして双子の兄妹? 姉弟だったりするのだろうか。
「ベッドにいる女の子が、ハク。そこに立っているのが、女の子、妹の方がレイ。男の子で兄の方がカイ、だな。……間違ってないよな?」
「は、はい、騎士様」
イザベラが確認するが、間違ってはいないらしい。
元灰色少女、現白髪の最初に助けた子が『ハク』。
あとから助けた双子っぽい金髪兄妹。無口っぽい妹が『レイ』で、しっかりとした兄が『カイ』。全員二文字で覚えやすいな。
「で、どうして僕のところなんかに来たいって言い出したんだ?」
近くの椅子に座りながらそう問いかけると、三人が三人とも暗い影を顔に落とす。その光景にイザベラがなにか言おうとして――されど、レイが顔を上げたことで言葉を飲み込む。
たぶん、レイの年齢は十二くらいだろう。
小学生の高学年……くらいの年齢か。にも関わらず。
「あなた、強かった。だから、ついて行ったら、強くなれる」
その言葉に彼女の瞳を見返すと、こっちが飲まれてしまいそうな程の熱意が……決意がその瞳からは感じられた。
一体何がこんなに小さな少女にそうまでさせるのか。
そういう『根底』の部分が気になったが……まぁ、今の質問でこの答えってことは言いたくないってことなんだろう。
「ぼ、僕も……強くなりたい、です! それに何より、僕はあなたに助けられました。だから、恩返しがしたい、です!」
兄ちゃんのカイがレイに続く。
二人ともそもそも『僕についてったら強くなれる』とか、一番しちゃダメな勘違いしちゃってるんだよなぁ。まぁ、うちのパーティには物理最強ホムラさんが君臨しているから、あの子に任せれば問題はないと思うけど。
ま、そもそもの問題、引き取るかどうかも決めていないが。
「えっと……私は、生まれた頃から物乞いで、お父さんお母さんの顔も見たことなくて……。奴隷から解放されても、物乞いに戻るしかないので……。何も出来ないかもですけど、少しでも、恩を返したくて……!」
最後に、ハクが僕へとそう告げる。
その言葉に思わず頭をかくと、イザベラへと小さく視線を向ける。
彼女たちを保護……するのは難しそうだな、顔色から察するに。
となると、僕が見捨てるとこの子達は再び物乞いに逆戻り。つまり遠くないうちに死ねって言ってるようなもんだ。
ぐぬぅと頭を抱えた僕は、小さなため息を漏らし、絞り出すようにして答えを出した。
「……まぁ、うん。いいよ、分かった」
子供たち三人の安堵したような声を聞きながら、僕は思う。
あれっ、なんでこうなった? と。
【新メンバー追加】
〇ソーマ・ヒッキー(ヒキニート)
〇スイミー(知らんところでレベルアップ。もうすぐ進化しそう)
〇ホムラ(大食漢。食い意地の権化。お前は何を目指しているんだ?)
〇ハク(ピュアなロリっ子)new
〇レイ(クールなロリっ子・双子の妹)new
〇カイ(イケメンショタ・双子の兄)new




