第5話
亮くんと初デートの日、私はちゃんとおしゃれをして行った。
可愛く見えてるかな、という私の心配を、待ち合わせ開口1番の亮くんの発言がかき消してくれた。
「裕莉さん!すっごく可愛いです!」
「ありがとう。もう裕莉『さん』じゃなくていいよ。」
「じゃあなんて呼べばいいですか?」
「なんでもいいよ。」
「じゃあ、裕莉ちゃん?」
「すっごくいい!あと敬語じゃなくていいよ。」
「わかりま・・・、わかった!頑張る!」
年下に苦手意識を持っていた私だけど、こんなに可愛い年下がいるのか、と思った瞬間だった。それからお昼ご飯を食べて、一緒に映画を観て、時間が余ったので散歩することにした。
雨上がりの道を2人手を繋いで歩いた。亮くんが私の歩幅に合わせていることに気づいて、口角が上がった。
私は誰かとお付き合いをするときに、隠し事はしたくないタイプである。今までの人生積み上げてきた経験全てが今の自分を作っているものだし、だからその過去も全て受け入れてほしい。
「亮くん。」
「なに?」
「私、亮くんに話さなきゃいけないことあるんだ。」
「どうしたの?」
そして私は亮くんに昨日のことを話した。
亮くんと付き合ってから初デートの前日、あの人から連絡が来ていた。
[今日は?]
友樹さんだった。1年前のあの日から友樹さんとの関係はズルズル続いていて、1ヶ月に1,2回の頻度で会っていた。私はこれで人生最後の遊び、と思って友樹さんに〈行けるよ〉と返信してしまった。
それからいつも通り肩を抱き合って、キスをした。手を繋いで、目を見つめあった。友樹さんの隣が最後だと思うと少し寂しくて、今までのことを思い出していた。そうして思い出していると、自分の中に罪悪感というか、嫌悪感が生まれてきて「私は今ここで何をしているんだろう」という感情が私を襲った。
友樹さんがシャワーを浴びに行った瞬間私は服を着て家を飛び出した。
帰り道、亮くんと電話した。何事もなかったかのように普通の会話をして、ずっと話しているうちに眠くなったのか、亮くんは寝てしまった。
電話が切れる音が部屋に響く。確かに通話終了のボタンを押したのは私なのだが、すごく寂しく、悲しく、やるせない気持ちになって涙が流れてきた。ふと蘇るのは肩のあたりに残った友樹さんの感触だった。
そのとき私は気づいたのだ。私は亮くんが好きで、亮くんと過ごしていれば幸せになれる。しかしそれに気づいたのは少し遅かったみたいだ。