第2章 実はオレって
第2章実はオレって
俺は、以前からクラスの陽キャグループに所属している裏喰くんと学生寮で同室になった。というのもこのリクくん、
二人一組の学生寮で同室と問題起こして一人だったらしい。
今まで一人だった反動か、部活から帰ってきて俺がいるのに気づかず着替え始めたときはお互いにビビっていた。
その次の日からは、教室で俺の顔を見るなり少し気まずそうに目をそらされるようになった。と言っても俺は昼間大体寝てるんだけど。
なのに寮の中では、俺の顔を見ながらしきりに何か考えている様子だった。
「どうしたの?俺の顔に何かついてる?」
って一度だけ聞いてみたことはあったが、
「...べつに。」
と言うだけだった。リクくんは小柄でちょっと幼い顔をしていたので、その時は反抗期真っ最中の弟を見ている感じになりひそかに癒された。
ある日の夜、いつにも増して真剣な顔でリクくんがこちらを向いている。
さすがにずっと見つめられ続けるのも恥ずかしいと思って席を立った瞬間、リクくんが口を開いた。
「なあ。お前にちょっと話があるんだけど」
「どうしたの?珍しいね」
「今から話すことは絶対他のやつには言うなよ?」
そういって話し始めた内容は、こうだった。
まず彼は人狼と呼ばれる種族で、人と狼の血が混じっているらしい。
人間の姿と狼獣人の姿は基本自由に変えられるらしいのだが、ある条件を満たしたときだけは自由が利かなくなるらしい。
満月だ。満月の晴れの夜は狼の姿になって解けないらしい。
そして、本能的にエネルギーがどんどんたまって、しまいには理性が飛んで暴れだすようになるとか。
「そのせいで前のルームメイトも傷つけちまって...でもオレが落ち込んでるとき、周りの心配してるような反応を見るとなんだか情けなく思えてきちまってさ。
だからずっと貼っ付けたような笑顔だけ浮かべて過ごしてた。」
「じゃあなんでこのことを俺に?」
「お前、本当は人間だったんだろ?」
「えっ...?」
「オレ、視野だけは広いほうでさ。グループではしゃいでるときでもいろんなやつの事みてんだよ。だから、一人で本読んでたりするお前も見えてた。」
「...」
「オレも本、読むの好きだからさ。お前といつか話したいなーと思ったんだけど、どう話しかけていいのかわかんなくてさ。
だからこそ、お前が獣の姿になったとき、申し訳ないけどちょっとだけ嬉しかったんだ。共通点ができた!ってな」
「俺も君みたいにキラキラしてる人には憧れてたから、ちょっとお近づきになれたって点ではうれしいと思うよ」
「オレも。オレ達みたいに獣の姿を持ってるやつって少なくもないんじゃないかなと思うし、そういう種だからこそ苦労を分かち合いたいと思うんだ」
「だけど周りから軽蔑されたんじゃいい気はしないな...君は受け入れてもらえてるからいいけど、俺はそうじゃないからなぁ...」
「ん?オレ、今の今まで周りに伝えてないよ?親にも、ましてや校長なんかにも」
「!?」
「オレは人間の姿のまま接してるだけで、俺が人狼であることはお前と、そして俺自身しか知らない。
というか、怖いんだ。せっかく人間の姿で築いてきた関係が崩れ去っていくのが。」
「...話してくれてありがとう。ご飯にしようか。」
「嫌だと、思わないのか?」
「なにを?」
「今まで、騙してたんだぞ?さも人間ですみたいな顔してのうのうと生きてたんだぞ?」
「逆に俺がそれを聞いて恨むと思ったなら、なんで話したんだって話じゃん。だいぶ勇気のいる話を俺にしてくれた。
それは、俺のことを信じてくれたってことになると思ってるから。それだけで俺はうれしいさ」
「...お前って、やっぱり面白いやつだな!俺の目に狂いはなかった!」
そう言っていつもの無邪気な笑顔を取り戻したリクくんを横目に、
(弟だ...)
と思いながら夕飯の支度を始めたのだった。