表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/58

第十四話

 大樹。

 それに寄り添うようにして建てられた小屋。

 林から出てきたザァルは、それを見つけて足を止めた。

 森に入ってから三日間。

 芥子粒ほどの気配だけを頼りに、彷徨うようにして歩き続けた。木の枝や鋭い歯を持った虫が囓ったせいで、彼お気に入りの赤いコートはぼろぼろになっていた。魔法を使えば一瞬で新品同様に戻すことが出来るが、もしそうすれば彼はコートと引き替えに、己の命を失う羽目になってしまう。無論、命の方が大事であるザァルは、そんな事はしなかった。

 しかし、疲れた。

 この三日間、そしてその前の二週間。

 追いかけているはずなのに、むしろ追われている気分で世界を巡ったザァルは、目標達成を前にして、深く長いため息を吐いた。

 こんなに働いた事は今までない。

 終わりのない今後の人生においても、きっとこんなに疲れる事はないだろう。いや、疲れるべきではない。もし今後、今回のような厄介ごとを押しつけられそうになったら、脇目もふらず逃げ出してやろう。

 ああでも、あの恐ろしい主人はきっと、その度に俺の上を行くんだろうな……と。

 淡い絶望を噛みしめたザァルは、俯いていた顔を上げると、小屋に向かって歩き出した。かつかつと動く足は、すぐさま彼を小屋の前まで運んだ。

 扉らしきものを見つけ、ザァルはそれを数回ノックした。

 するとすぐさま、小屋の中からばたばたと走る音が聞こえてきて、扉が内側から開かれた。

 金髪が、正午の陽光を弾いた。

「はーい。ジン、お帰り……あれ?」

 輝くようだった笑顔が一瞬で曇る。

 下から訝しげに見上げてくる青い瞳に、ザァルは確信を抱いた。

 ディプロス。

 彼が探し求めていた存在に違いなかった。

 ザァルはかしこまると、腰を折り、宮廷風の挨拶をした。

「初めましてお嬢さん。私はザァル。我が主、レギィトラナの使いで貴女をお迎えに来ました」

 少女に慇懃に微笑むその顔は、面倒くさがりの伊達男のものではなく。

 

 まさしく悪魔のそれだった。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ