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アーリーレッド

「ノアちゃんなによ、その物騒な手紙」


それはこっちが聞きたい。

サンセプト王国から手紙なんて物騒以外何があるのだろうか。

ーーーうん、無視だ。

ノアは懐の内側に手紙をしまうと作業を始める。


「ええ、無視しちゃうの?いいの?告白したいから呼び出しちゃうみたいなやつだったらどうするのよ」


なわけあるか。ノアはこの人に何回ツッコメばいいのだろう。

邪念を取り払うかのように無我夢中に窓辺に干してある薬草を舟形の深くくぼんだ薬研に乗せ細かく砕いていく。

サンセプト王国の宮廷薬剤師になったところで厄介ごとしか来ないだろうし、何よりこの居心地のいい調剤室で作業できないのが悲しい。

怒りが湧いてくる。でもあの手紙は命令だ、逆らえない。


「サンセプト王国に行っちゃうのね、なんか悲しいわぁ…調剤室で1人薬草を管理するのは大変だもの」


「メイヤーさんも一緒に……」


そう小さく呟いてやめた。

迷惑はかけたくない。


「まぁ1人で頑張ってください」


「冷たいっ!でもそういうところも好き」


きもいなと内心思いつつ手を動かしていると、ノック音が調剤室に響き渡った。

不思議に思いメイヤーと目を合わせ首を傾げる。「今開けます」と言うと扉を開けた。


「ノア・カリフローレ様にお手紙です」


そこには年若い侍女が立っていて、手には手紙を持っていた。

手紙を受け取ると、侍女は受け取ったのを確認し調剤室を後にした。

差出人不明のこれまた意味不明な手紙。

恐る恐る封を切ると1枚の紙が出てくる。

内容は女の嫉妬や憎悪などが明らかに滲み出ている内容だった。


『貴方にシャル王子の薬剤師なんて務まりません、人殺し女め』


「もう嫌だ。面倒臭い。これだから女の嫉妬っていうのは!!!」


手紙を握りつぶし、ありとあらゆる暴言を吐くきまくる。

差出人不明なあたり、きっとシャイン・マーカット姫の侍女あたりではないかと思う。


「ノアちゃんちょっと落ち着きましょ?暴言なんて女の子に似合わないわよ」


「そもそも!!私が!!女じゃなかったら!!こんなことにはならなかった!!!!てか今そういうことじゃないですよね?!」 


シャル王子がシャイン姫との面会の時に毒で倒れたのがノアのせいだという噂が広まったらたまったもんじゃない。今まで薬剤師として培ってきた信頼をそんな侍女の陰口ごときで消されてしまっては困る。

というか解毒剤持ってきたの私とメイヤーさんなんですけど。


「困ったわね。サンセプト王国に行く前に問題解決しないと貴方いつか殺されるんじゃないの?」


「こわ、冗談きついですメイヤーさん…」


この案件はシャル王子に伝えた方が良いと思うけれど、サンセプト王国に行く日時も伝えられていないこの状況でどう動けばいいのだろうか。


「シャル王子が王子なんて立場じゃなければ今から部屋に突撃してなんとかしろって言えたのに、あのクソ王子」


「誰がクソ王子だって?」


声のする方を振り返るとドアに寄りかかった隣国の第二王子、シャル・アーリーがいた。

しかめっ面をしながらこちらに寄ってくるとノアの頬を力一杯に摘む。


「いひゃいでふ(痛いです)」


「妙にムカつく顔だな、せっかく助けに来たと言うのに………やはりやめにするか」


「……チッ…すみませんでした、ところでシャル王子。用件はなんでしょう?」


調剤室に入ってきたことも気づかないぐらいに考え込んでいたらしい。

ノアはシャル王子を椅子に勧めながら用件を聞いた。

メイヤーは気を利かせて隣の部屋へと行く。


「さっき侍女から手紙が来ただろう?」

「はい、もしかしてシャル王子が書いてこちらによこした手紙でしたか?」


「俺ではない、風の噂で少し耳にしてな。解毒剤を持ってきてくれた、ましてや毒なんて盛っていない奴が人殺しと罪を問われるのは少し気が引ける」


噂話に時間を割くほど暇なら国へ帰れと言いたいところだがすんでのところで飲み込む。

どうやらただのわがままな王子ではないようだから少し協力してもらおう。


「それにこれはシャイン姫の侍女が書いた手紙だな」


机に置いてある手紙を手に取り、見ながら言う。


「なぜそう思うのですか?」


「俺は今、近衛兵2人と侍女2人としか来ていない。シャイン姫との面会もまだしていないが面会が終われば国へ帰るつもりだ。この4人の中で人殺しと書くような奴はいない。まぁ、信頼ってやつだな」


信頼とかいうのを信じて裏切られるパターンじゃないのかそれ。頭の中お花畑か。

それに第二王子にしては護衛の人数が少なすぎる。それだけ信頼している人なんだろう。


「わかりました。護衛の方々がどういう人格かはわかりませんが、その信頼に免じてシャル王子の侍女ではないのは一応信じます…ですがどうか自分の身は大事にしてください、毒の件といい下手すれば致命傷ですので」


「……ご心配どうもありがとう。だが俺の立場はそういうのがつきものだから慣れた」


慣れが一番怖いんだよなぁ……。

それはさておき、シャイン姫の侍女というのは分かった。次は当の手紙を渡した本人は誰かというのと、ノアが毒を盛ったという噂が嘘であることの証明だ。

証明自体は簡単である。

シャル王子に処方した薬やかかってしまった病の名前、症状など過去の様子が記録された診療録がある。それとシャル王子に解毒剤を飲ませた際に立ち会っていた侍女とシャル王子の証言さえあれば確実だ。

相手に私が毒を盛ったなんていう証拠はないはず。よくもまぁ手紙を渡せたものだ。


「とりあえず、私の薬剤師としての信頼は置いといて、この手紙をよこした犯人ですよ。誰なんですか、今すぐぶん殴りたいです」


「まてまて……手紙を渡せと指示したやつがいるかもしれない。そもそもこの手紙をここまで届けに来た侍女はどうなんだ?共犯者かもしれないぞ」


「なら今すぐ先程の侍女を探して確かめますか?」


椅子から立ち上がって確認しに行こうとすると、隣の部屋へと続く扉が勢いよく開いた。


「そうだと思ってさっきの侍女を捕まえてきたわよ〜!」


メイヤーが満面の笑みで靴音を鳴らしながらこちらへとやってくる。

隣の部屋を覗くと先程の侍女が申し訳なさそうに椅子に座っていた。

メイヤーの察知能力の良さに感嘆する。


「ノアちゃん達がダラダラとお話ししてるからむず痒くてっ」


体をくねくねしながら話すこの人は男である。

ノアには見慣れた光景だがシャル王子は見たことのない生き物を見るかのような目をしている。


「男……だよな?」


「あらやだ。それ聞いちゃう?それとも2人っきりで確認する?王子様とだったら大歓迎よ、あとノアちゃんも」


全力で遠慮する。

シャル王子も「男というのは十分わかった…」といい、椅子から立ち上がった。


「侍女をつれて来てくれたことに感謝する……とりあえず話し合おう」


隣の部屋に行くと侍女がパッと顔をあげ、立ち上がる。

白と黒のメイド服の侍女がお辞儀をし、挨拶をした。


「ノーチェ・ウォールナットと申します」


ノーチェはお辞儀から顔を上げると凛とした表情でこちらを見た。


「事情はメイヤー様からお伺いしています。端的にいいますと、手紙を貰い受けた侍女の名前はアーリオ・パピルスという者です。受け取る際、薬剤師のノア・カリフローレという子に渡して頂戴と言われお届けしに参りました」


アーリオ・パピルスというと、クレア・パピルス卿の娘だ。男爵位というのもあり、有力領主達の上をいく、豪族だ。

今一番騒ぎなど起こしたらダメなお貴族様なのではないか?


「クレア卿の娘か。下手な真似をするなとクレア卿には言われていると思うが……」


「アーリオ令嬢に話を聞かないとわからないのではないですか?」


「いや………もしかすると………」


何かを呟いたあとシャル王子は思い至ったように顔を上げた。


「すまない。思い当たる節がある………」


顔を上げたかと思うと露骨に目線を逸らしてきた。

嫌な予感がした。まさかこいつが元凶で変な噂が広がったとかないよな…?


「とりあえず冷静に聞いてくれ」


「はい。聞きますよ」


至って冷静かつ笑顔を崩さずに。


「今朝方面会日時が書かれた手紙をアーリオ令嬢から預かったんだが、返事をすぐ書くと言って部屋で待たせていたんだ」


なんだって?なぜ最初にそれを言わないのだろうかこのクソ王子は。


「返事を書くのならお前のサンセプト王国への招待状も書いてしまおうと思い、俺の侍女に便箋を2つ用意するよう言ったんだ」


「はい、それで?」


「侍女から便箋を受け取るときに、『婚約者がいるのにも関わらず他の女性に目移りなど決してあってはならないことですからね』と小言を言われてな」


シャル王子は焦っているのを誤魔化すかのように至って真面目な表情で言う。

ノアはというと、殴りたいのを必死にこらえ、冷静に聞いている。


「それを小耳に挟んだシャイン姫に忠実なアーリオ令嬢がお前に文を渡したと言う可能性がある」


真面目な顔つきで言い切った。


「なーーるほどーー???」


会話の一連を聞いていたメイヤーはこんな状況で肩を震わせて窓の外の方を見ている。

ノーチェはというと、無表情で座っている。


「シャル王子」


「はい」


王子ともあろう人が敬語である。

ノアは精一杯の敬意を払いこう言った。


「今日はお引き取りくださいシャル王子」


引き続きよろしくお願いします!

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