卑怯者と呼ばれて追放された剣士は、スキル【変速】を駆使して無双する。~最下級の冒険者が【剣聖】と讃えられ、世界のすべてに認められるまで~
短編にまとめてみました。
面白いと思っていただけましたら、あとがきまで(*‘ω‘ *)
連載版、始めました。
あとがきより。
「ルクシオ・アインズワーク――貴様のような卑怯者は、学園から追放だ」
「へぇ……?」
その処分を言い渡されても、俺は別段驚かなかった。
何故なら周囲を取り囲む奴等は全員、俺のことを敵視しているから。そして、とかく何か理由をつけて平民の俺を王都立学園から追い出したいのだから。
ここにいるのは、そんな浅はかな馬鹿ばかりだった。
だから、俺は鼻で笑って言う。
「そんなに悔しかったのか? ――平民に、剣で負けたのが」
すると、後方に控えていた貴族の学生たちが大声を上げた。
「それは、貴様が卑劣なスキルを使ったからだろう!?」
「【変速】スキルの力であり、あれは貴様の実力ではないぞ!!」
そいつらは、俺に負けた上級貴族だ。
彼らの感情剥き出しの言葉を聞いて俺は、深くため息をつく。
卑劣なのはどちらだ、と。あの時俺一人に対して、五人で斬ってかかってきたのはお前たちだろう、と。それ以外にも言いたいことは、山ほどあった。
それでも、言っても意味がないのは分かっている。
だから――。
「静かに。それで、ルクシオ――異論はあるか?」
「ねぇよ、一つもな。俺だって、こんな腐った環境から抜け出せて、清々するぜ」
貴族の代表と思しき人物の言葉に、俺は頭の後ろで腕組みして答えた。
その態度にまた、周囲がざわついたが関係ない。
俺はため息交じりに踵を返すと、異質な空気漂う部屋を出るのだった。
◆
「うぅ……。アインズワーク、さん……!」
「なに泣いてるんだよ、スズカ」
「だって、貴方はなにも悪くないのに。どうして……!?」
「………………」
そして、荷物をまとめて寮を出たところで。
一人の女子生徒が、俺のもとに駆け寄ってきた。桃色の髪に、お人好しそうな顔立ち。それをぐしゃぐしゃにした少女――スズカ・ハインツリーネは、俺の胸に顔を埋めた。悔しそうに、何度も俺の名前を口にする。
そして――。
「ボクが……! ボクがもっと、強ければ……!」
そう、自分を呪うように言うのだった。
俺はそんなスズカの頭を撫でて、あえて笑みを浮かべる。
「気にすんなっての。どうせ、いつかはこうなってたんだ」
「――それでも! ボクがイジメに立ち向かえていたら、アインズワークさんは貴族に反抗せずに済んだはずです! そうすれば、もっと一緒に……!」
「ははは! スズカは、本当に優しいんだな」
こちらを見上げるスズカ。
俺はそんな少女の優しさを素直に褒めた。
しかし、もしかしたら彼女にとっては呪いになるかもしれない。
「ボクも、いつか……。いつかアインズワークさんのように、強くなります!」
「そっか……」
そう思ったが、俺はあえて何も言わずに歩き出した。
背中に、スズカの決意の言葉を受けながら。
これが俺――ルクシオ・アインズワークが、王都立学園と決別した日の出来事。
学園追放の処分を受けて、一人の剣士として歩き出した瞬間だった。
◆
さて、学園を追放されて数日後。
俺が向かったのは冒険者ギルドだった。
王都で生活するためには、それなりに金がかかる。普通の仕事を探しても良いのだけれど、いかんせん俺はそこまで器用な性格をしていなかった。
そんなわけで、ギルドに足を踏み入れると……。
「うわー……。すげぇ散らかってるな」
分かってはいたが、あまりにも雑然としていて苦笑してしまった。
酒場と併設されているためか、若干酒気も漂っている。一応は未成年なので、なるべくそれを嗅がないように気を付けながら、俺は受付へと向かった。
「はいはい。冒険者登録かな?」
「あぁ、頼む」
「なにか、参考になる経歴はあるかい?」
「ん、そうだな――」
そこにいた爺さんに訊ねられ、俺はふと考える。
追放――退学処分になった王都立学園の成績でも、経歴になるのだろうか。だがとりあえず、経歴っぽいのがそれしかないので、素直に申告することにした。
「えっと、王都立学園を退学、だな」
「あぁ、そうかい」
すると、爺さんは大きなため息をついて言う。
「残念だが、最下級のFランクからスタートだよ。王都立学園の退学や追放処分は、落第生以下の扱いになるからね」――と。
――どうしてまた、冒険者なんかに。
彼はそんな眼差しで俺を見た。
どうして、って。生活費が必要だから、だけど。
そう思ったが、俺はすぐに気持ちを切り替えるのだった。
元より肩書きだとか、そういったものに興味はない。FランクだとかSランクだとか、考えるだけで面倒くさくなってくる。
俺は一通りの説明を受けて、ギルドカードを受け取った。
「さて、と。そうなると次は、クエストを――ん?」
そして、さっそく仕事を受けようと思った時だ。
「この薄汚れた貧民め! 俺の金を盗ったのは、お前だろう!?」
「ち、違います! オレは、そんなこと――」
なにやら、言い争う声が聞こえてきたのは。
他の人々も、何事かと集まってきた。俺も気になったので、その中に混ざって詳しく様子をうかがうことにする。そうしていると、見えたのは継ぎ接ぎだらけの服を着た少年が、屈強な男に足蹴にされている姿だった。
「言い訳をするな! お前のような貧民は、それでないと生きていけないからな! どうせ手元にある金も全部、どこかから盗んだものだろう!?」
「違う……! これは、オレが頑張ってクエストで――」
「嘘を吐くな!!」
「うわ……!?」
少年の弁明も聞かず、一方的に攻撃する大男。
そんな二人の様子を見て、他の冒険者は小さな声でこう話していた。
「また、だ」――と。
その会話に、耳を傾ける。
「レイスの野郎、また貧民から金を巻き上げてるぜ」
「いつもの言いがかりだろ。止めた方が良いんじゃないのか?」
「やめとけ。アレでもレイスは、Aランクの冒険者だぞ? それに下手に揉め事を起こしたら、レイスのパーティー全員を敵に回すからな」
ため息交じりに。
彼らの言葉を聞いてから、俺は足を踏み出した。そして――。
「おい、もっと金を出せ――――ん?」
「え……?」
俺はレイスと呼ばれた冒険者と、倒れる少年の間に割って入る。
大男の振り下ろした拳を受け止めながら、呆然とする男の子に手を差し出した。
「大丈夫か?」
「え、あの――わっ!?」
困惑する少年を無理矢理引き起こして。
次に俺は、レイスに向かってこう告げるのだった。
「……なぁ、オッサン。その金さ、返してやってくれねぇか?」
すると彼は、あからさまに不機嫌な表情でこう答える。
「金を返せ……? 馬鹿言うな、こいつの金は俺様のものだ」
「それ、証明できるのか? まさか、根拠もなしに言いがかりってわけじゃ、ないよな?」
「あぁん……?」
こちらの言葉に、レイスはその強面を歪めた。
そして、ジッと俺を睨んで言うのだ。
「なんだ、テメェ。痛い目に遭いたい、ってのか?」――と。
俺はそれに対して怯むことはない。
ただ、背後の少年を守るように立って答えた。
「あぁ、だったら――」
剣を中程まで引き抜き、示しながら。
「これで、決着をつけないか?」――と。
◆
「あ、あの……ルクシオさん……」
「どうしたんだ、ライス?」
俺が剣の手入れをしていると、少年――ライスは控えめに声をかけてきた。ボサボサ髪で右目が隠れている彼は、汚れがなければ綺麗な顔をしているだろう。
そんな彼はちらり、レイスの方を見た。
「本当に、大丈夫なんですか……? だって――」
「相手はAランク冒険者だから、か?」
「…………はい」
そして、そんなことを言うので先回り。
ライスは頷いて、唇を噛んだ。
「レイスには強力なスキルがあるんです。彼と戦った人はみんな、レイスの姿が突然見えなくなった、って……」
「へぇ……? それは――」
不安げな少年の言葉に反して、俺の口角は思わず上がる。
だがあえて口に謝せず、一つ頷いてから笑顔でライスの頭を撫でた。
「大丈夫だ、ライス。これでも俺は、意外に強いからさ」――と。
いまは、彼の不安を消すのが先決だと考えて。
するとライスは一瞬だけ目を丸くして、すぐに顔を真っ赤にした。
「あ、あの……! 頑張ってください!」
「おう!」
そんな少年に見送られる形で。
俺は、冒険者ギルド内に造られた闘技場へと向かった。
◆
「逃げずにきたみてぇだな?」
「そりゃあ、俺の方から提案したわけだしな」
「へっ……! そうやって逃げる奴なんざ、山のように見てきたさ」
足を踏み入れると、金網内の広場――その中央にレイスはいた。
得物はない。その代わり、拳に特別な金属をはめている。なるほど、どうやらレイスは『拳闘士』というものらしい。
己の肉体のみを武器として、相手を打ちのめす戦士。
今まで相手にしたことのない手合いに、俺は隠すことなく笑みを浮かべた。
「ずいぶんと、余裕だな」
「そうでもないさ。緊張で膝が震えてるよ」
「嘘つけ。そんな野郎が、笑えるわけがねぇ……」
すると、レイスもそのことに気付いたらしい。
拳を構えると、ニヤリと笑った。
そして――。
「行くぞォ! この、くそガキがァ!!」
開始の合図もなく、一直線に突っ込んできた!
「おっ、と……!」
そして、体格に見合わない速度で拳を振り下ろす。
すると――ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!
頑丈な石造りの舞台。
それを木っ端微塵に粉砕した。
「馬鹿みたいな力だな、おい……」
俺はそれを回避し、距離を取ってからそう呟く。
なるほど、たしかにAランク冒険者に相応しい身体能力だ。俺は心の内で素直に称賛の言葉を送りながら剣を抜き放ち、すぐに構える。
この速度の攻撃なら、まだ目で追えるはずだ。
そう思って、相手の出方をうかがっていると――。
「遅いんだよォ!!」
瞬きの間に。
レイスの巨躯は俺の目の前に、あった。
そして、その破壊力満点の拳を思い切り叩きつけて――。
◆
レイスは、それこそルクシオを破壊するつもりで拳を振り下ろした。
久々の逃げない獲物だ。だからこそ、渾身の力で叩き潰す。
男はそう考えて、拳を振るったのだ。
「…………けっ」
轟音鳴り響き。
周囲には、粉砕した広場の破片が舞う。
その最中でレイスは静かに目を閉じてから、後方を振り返った。
観衆も、何が起きたのか分からずにどよめく。
誰もが、そこに立つ少年を見つめていた。
「おい、ガキ。どういうことだ……?」
「……さぁ、な。知りたかったら、倒せばいいだけだろう?」
回避不可能のはずだった。
絶対的な至近距離から、レイスはルクシオに拳を振り下ろした。
それなのに、視界が開けた先には――。
「オッサンのスキルは――【加速】ってところか」
――余裕綽々。
剣を肩にかけて笑う、彼の姿があった。
「面白れぇ……! 面白れぇぞ、くそガキィ!!」
それを見て、レイスは奮い立つ。
久しぶりの感覚だった。
自分に歯向かい、さらには出し抜いてみせるなど。
レイスは彼が言った通り――【加速】のスキルで一気に距離を詰めた。
そして今度こそ、その生意気な顔に一撃を叩き込む!
だが、その瞬間――。
「悪いけど。オッサンのスキルは、俺のスキルと『相性最悪』だ」
そんなルクシオの声が――背後から、聞こえた。
誰もがまた、己の目を疑う。
レイスも驚き、即座に振り返ろうとした。だがしかし――。
「俺の勝ち、だな?」
ルクシオがレイスの首筋に剣をあてがって、そう宣言した。
それは、誰の目にも明らかな決着。
レイスはその場に尻餅をつき、頭を垂れながら笑った。
そして、認めるのだ。
「あぁ、テメェの勝ちだ。……ルクシオ!」――と。
こうして、ルクシオにとっての初陣は幕を閉じたのであった。
◆
――戦いを終えて。
「……おい。一つ質問だ、ルクシオ」
「なんだ?」
レイスは、ふと俺にこう訊ねた。
「【加速】した俺の攻撃、どうやって捌いた?」――と。
それを問われて、俺はやや自嘲気味に笑った。
何故なら、今回の勝負は本当に『相性』が決め手になったのだから。
「あぁ、俺のは【変速】っていう固有スキルでさ。要するに、オッサンがいくら【加速】しても、俺には効果がなかったんだよ」
「なるほどな。まぁ、それでも負けは負け、だな」
「そう言ってもらえると、安心する」
俺が素直な心境を吐露すると、レイスは少しだけニヤリと笑う。どうやら彼は貴族たちのように、勝負の後になって不平不満を口にするタイプではないようだった。そのことにも安堵しつつ、手を差し伸べる。
すると彼は、少し意外そうな顔をした。
「なんのつもりだ?」
「いや、単純にオッサンを認めただけだよ。スゲェ破壊力だったし、少しでも気を抜けば、俺の身体は木っ端微塵にされてただろうし」
「けっ……。そういう割には、呼吸の一つくらい乱せっての」
彼はそう言うと、若干だがへそを曲げてしまった。
俺はそんな相手の態度に苦笑いしつつ、しかし正直に評価する。
「いいや、必死だったさ。レイスのオッサンは、俺に『初めて』スキルを使わせた相手、だからな」――と。
間違いない。
この戦いでは、俺のスキル――【変速】を駆使しなければ、勝てなかった。
だから、心の底から相手を讃える。
そのつもりだったが、レイスは呆れたように笑って言うのだった。
「馬鹿野郎。ルクシオ、テメェ――」
俺の手を取りながら。
「まだ、本気を欠片も出してなかっただろうが」――と。
◆
――一方その頃。
「説明をしてもらおうか。学園長殿、よ」
「ひ、ひぃぃぃ……!?」
王城の謁見の間では、王都立学園の長が詰問を受けていた。
いいや、彼だけではない。その場にいるのはルクシオを追放した際、あの部屋にいた貴族全員であった。彼らは大量の汗を流しながら、視線を泳がせる。
そんな彼らに向かって、一人の男性――国王リガルドは告げた。
「ルクシオ・アインズワークは、我が直々に学園に招いた生徒である。類稀な才気に満ちた少年を何故、退学処分としたのか――その理由を述べよ」
訊かずとも分かっている。
しかし、あえて彼らの口から語らせよう。
そんなリガルドの思惑が見えた。だが、それを感じ取る余裕もなく――。
「あ、あの少年は素行に問題がありまして! 指導しても改善が見られなかったため、私どもから退学勧告を――」
そう語ったのは、一人の貴族。
しかし、彼の言葉を遮ってリガルドは声を張り上げた。
「何が素行不良か! ルクシオに救われたと、我に報告に上がった女生徒がいるぞ! 聞くところによれば、素行に問題があったのはむしろ貴族側ではないか!?」
「ひ、ひぃぃ!?」
その一喝に全員が震え上がる。
沈黙し、やがて誰もが気力を失ったように頭を垂れた。
そんな彼らに呆れたのか、国王は大きなため息をついて告げる。
「仕方ない。一度だけ、機会を与えようではないか」
まったく期待しない声色で。
「すぐに、ルクシオを探し出せ。そして連れ戻すのだ!」――と。
リガルド国王の情状酌量。
貴族たちはあまりに情けなく、涙目でそれに頷くのだった……。
連載版始めました。
下記のリンクより飛べます。
もしよろしければ、応援よろしくです!!
ここまでお読みいただき感謝です。
面白かった
続きが気になる
もしそう思っていただけましたらブックマーク、下記のフォームより★★★★★評価など。
あと、感想などで伝えていただけると幸いです。
創作の励みになりますので、よろしくです。
応援よろしくです!
<(_ _)>