フィンの暗躍?
時間は少々巻き戻り、卒業パーティへ――。
ローザがフィンのエスコートで会場で出ていった後のこと。
一番に動いたのは彼女、アリアーナだった。
アリアーナは大粒の涙を流しながら、どこかへ走り去っていく。
会場の外、人気のない場所でドレスがシワになるのも構わずに、彼女はうずくまって泣いていた。
そこに声が降ってくる。
「お、アリアーナ嬢」
無視をしたい。けれど、無視を出来るほどいい身分でもないとアリアーナはしぶしぶ顔を上げる。
アリアーナは目の前に立っている人物に驚き目を丸くする。
「……フィン、王子?」
「せーかいってことで、はい」
満足そうに笑うフィンはアリアーナにハンカチを差し出す。
「ありがとう、ございます」
流されるままにハンカチを受け取ったアリアーナはそれで涙をふく。
「主役がここにいていいの?」
ただ聞いただけといった軽い口調でフィンが尋ねる。
「怖くなって逃げてきたんです」
「ふーん。クロードが独断すぎて怖くなったとか?」
「そう、なのかも知れないです」
ハンカチを握りしめたアリアーナはポツリポツリと喋り出す。
「ずっと今日のことは断り続けていたんです。私が立っていい場所じゃないと」
「まあ、そうだね」
「はい。でも、どれだけいってもクロード様は聞き入れて下さらなくて、今日の卒業パーティを欠席するつもりだったんです」
「へぇ、ならなんでここに?」
アリアーナは小さくため息をついて、フィンの問いに答える。
「クロード様が家まで、それでも断っていたんです。でも、欲に目が眩んだお父様が無理やり……」
無理やり馬車に押し込まれたアリアーナは、何度もクロードを説得しようと試みたができず、逃げ出すことも出来なかったらしい。
「アリアーナ嬢はもうクロードのこと――」
ゆっくりと首を横に振るアリアーナ。
「嫌いになれない私がいて、まだ、好きなんですクロード様のことを」
一瞬、フィンの目つきが鋭くなる。
まるで品定めをしているような目つきだ。
それに気づかないアリアーナは続ける。
「だけど、同じくらいローザ様のことも好きなんです。あ、えと、ローザ様への好きは恋では、ないですけど」
ほんのり頰を染めるアリアーナ。
その様子をみたフィンが小声で何かをつぶやく。
「無効だーとか言われたら困るし。アリアーナ嬢!」
「は、はい!」
「クロードの手綱握ってくれない?」
フィンのあまりにも不届きな言葉に理解が追いつかないアリアーナは目を瞬かせる。
「こっちで推薦もしておくし、クロードの勝手が過ぎたみたいだし問題ないでしょ。なにより――」
「なにより?」
「巡ってきたチャンスを不意にしたくないし、ってことで頼んだよアリアーナ嬢?」
まだあまり頭が回ってないアリアーナの肩を叩いて、フィンが去っていく。
「本気、なんですね……」
去り際に交差したフィンの視線は、見たこともないほど真剣なものだった。
ローザとフィン――。
二人が並んで立っていたのはほんのわずかだというのに、さっきを思い返してアリアーナは笑みをこぼす。
クロードと立つローザよりも似合うのだ。
誰にも届かないような小さな声で、アリアーナは祈るようにつぶやく。
「フィン王子、成就することを祈っています。ローザ様をどうか幸せにしてください」
涙を拭ったアリアーナは勢いよく立ち上がると、自分の頰を両手で叩く。
これから待ち受けてるかも知れないことを考えると怖いけれど、アリアーナは逃げず戦うと決めた。
「どんなことでもかかってこい!」
吹っ切れたように笑って、アリアーナは拳を天に突き上げた。
アリアーナはか弱いヒロインではないです。気持ち体育会系な感じ。