行ってきます
本日、アルレッキーノ王国にローザか旅立つ日。
汽車で三日でかかる予定だ。
現在、出発までに時間があるので駅の中でしばらく見ることができなくなる母国ドットーレ王国の景色を目を焼き付けているところだ。
そこへ、フィンがやってくる。
「いや〜、ホントに来てくれるとは思わなかったよ、ローザ」
フィンが心底楽しそうにローザに言って、ローザは社交用の笑顔で返す。
「今からでも別の場所に変えましょうか」
「それは困るなぁ」
「お嬢様をからかうのはやめて下さいませ」
横から別の声が入る。
立っていたのは侍女の服を着た真面目そうな若い女性だ。
「紹介するわ。彼女は侍女のエリシャ」
ローザがフィンに紹介をするとエリシャが一礼をする。
「この度ローザ様に同行させていただきます。侍女のエリシャです」
ちなみにエリシャは、リッタに余計な(へんな)ことを教える侍女アリィの姉である。
「もう一人も後で紹介するわ」
「俺はローザさえきてくれたら構わないんだけどね」
「信用出来ない相手にローザ様を任せられませんので」
「わー信用されてない」
棒読みでフィンが言って、ローザは苦笑しながらエリシャをたしなめる。
ローザとエリシャの距離感は主従というより姉妹に近いようだ。
それだけの信用と信頼があるのだろう。
「ローザ様、フィン様、そろそろお時間です」
中年の男が声をかけてくる。
ローゼン家から付いてきた従者のマシューだ。
「ありがとう、マシュー」
マシューの先導で汽車に乗り込もうとして、呼び止められる。
「ローザ!」
振り向くとそこには息を切らした兄のリアムがいた。
「お兄様⁉︎」
「よかった、間に合った」
家族たちそれぞれ予定があって見送りに来れないので、昨日しっかりと別れをすませた。
ローザとしても寂しくなるから、見送りがいないのはそれでよかった。
「アルバート殿下が行ってこいって言ってくれたんだ」
「アルバート殿下が……」
「うん。ギリギリみたいだけど、行く前にもう一度見れてよかった」
リアムはローザの頭を優しく撫でる。
「ローザ。怪我や病気には気をつけて」
「はい。お兄様も」
寂しくなるのは分かっていても、見送りに来てくれるの嬉しい。
しばらくの間だけ離れることになるだけなのに、それがひどく寂しくてちょっぴり泣きそうになったけど、ローザは笑顔を浮かべてみせる。
「フィン王子、妹を、ローザをよろしくお願いします」
真っ直ぐな視線をフィンに向けて、リアムはフィンに頭を下げる。
「もちろんです。気に入ったものを手放す気はありませんから」
おどけてみせるフィンにリアムは目だけは笑わずに笑う。
「それなら、大事に大事に扱って下さいね」
手は出すなということだろう。
「エリシャ、マシュー。ローザを頼んだよ」
「お任せください」
「精一杯努めます」
ローザたちが汽車に乗り込み、汽車が動き出す。
「いってらっしゃい、ローザ」
「行ってきます、お兄様」
今生の別れじゃないのだからと、笑顔で手を振りあって、やがてリアムのいる駅が見えなくなった頃――。
ローザから雫がこぼれ落ちる。
そばにいたフィンは何も言わず流れる景色を眺めていた。
読んでくださる方々に感謝です。