謝って欲しいとは思わない
婚約者がろくでもない奴でも、その両親は素晴らしい方々で、ローザからしてみれば大好きな人たちだ。
国を離れることになったローザは、お礼を言うために城を訪れていた。
「バートン陛下、ルナ様。今までありがとうございました」
「すまない、バカな息子のせいで。謝っても謝りきれないことをした」
バートンはローザに謝罪をする。
その顔はどうやっても償えないことへの悔しさが滲んでいる。
バートンの隣に立つ寡黙そうな女性、王妃のルナは寂しそうにローザに見つめる。
「あの子のいうこと、聞かなくてもいい」
「二人だけの場なら、そうしたかもしれません」
目に涙を浮かべ、ルナはローザを抱きしめる。
「ローザ、ごめんなさい。それとありがとう。いつでもこの国に帰ってきていいから」
「はい、ありがとうございます。ルナ様」
ローザはルナを抱きしめ返し、別れを惜しむように微笑んだ。
バートンとルナ、あまり会うことはなかったがアルバートが、クロードをなんとかしようしていたこともローザは知ってる。
全く聞く耳を持たない我が子よりも、ローザを心配していてくれたことも――。
ローザは大好きな人たちのために自分ができる最大限のことをしようと決めた。
だからあの時すぐに間違いを正す前にクロードに誓わせた。
目を覚ましてくれると信じて――。
バートンやルナ、城でよくお世話になった城の使用人たちに別れを告げて、ローザが帰るために場所に向かう途中、クロードとすれ違う。
今まで通り令嬢としての挨拶して通り過ぎるローザをクロードは呼び止める。
「ローザ……」
無視をするわけにいかずローザは振り向く。
あれから数日しか経っていないのに、クロードはやつれたようにローザは思う。
「…………………………」
クロードの長い沈黙、それに痺れ切らしたローザはため息をつく。
「はぁ、ようがないならもう行きますわよ」
「その……すまなかった。君に、許されないことをしたと」
頭を下げるクロードは、そのままの体勢でローザの言葉を待った。
許されなくてもいい、自分の過ちに気づいてローザに謝りたかった。
クロードは自己満足にしかならないかもしれないと理解して、それでも――。
「私は自由になれたこと感謝していますの。何か言うのであれば、後悔しているならそれは、あなたが王族として背負うべき罪だと思いますわ、クロード王子」
同じ人間、全てが完璧にできるわけじゃない。
だけど、長として民のことを想うなら、自分と違う思想にも少しは耳を傾ける必要もあるんじゃないかとローザは思う。
許すわけでもなく、許さないわけでもなくローザが思うのはそれだけ。
頭を下げる続けるクロードに向けて優雅な笑みを浮かべ淑女の礼をするとローザは去っていく。
遠ざかっていくローザを見つめるクロードは、ローザの姿が見えなくなる頃ありがとうと小さく小さく呟いた。
ありがとうございました。