聞く耳持たず
ここは玉座、ではなくバートン陛下の自室――。
卒業パーティの翌日、息子2人と向き合うように座るバートンは怒りを撒き散らして周囲を怯えさせている。
場違いのように涼やかな顔をするをする第一王子のアルバートは、平然としているバートンの従者を残し他は部屋から出ていくように指示をする。
怒りに当てられて耐えられないようではとアルバートは責める気はない。
むしろ、心の安全のために避難させる。
アルバートが経験した中でも、最大の怒りであってこんなものはそうそうあるものではないのだ。
自分に向けられたものではないから割とどこ吹く風で居られるだけで、これが自分に向けられたものならアルバートだって隣に座るクロードのように震えがっていただろう。
「ち、父上、話とは?」
震える声でクロードがようやく出せたのはそれだけだった。
「ローザ・ローゼンとの婚約を破棄した件だ」
バートンが静かに言った。
「勝手に話を進めたことは悪いと思っています。申し訳ありません」
クロードは立ち上がり深く頭を下げる。
バートンは吐き出したいため息を堪え、圧をクロードに飛ばしたまま何も言わない。
仕方がないのでアルバートが口を開く。
「クロード、彼女との婚約がどういったものが知っていたかい?」
アルバートは優しくクロードに問いかけ、少し迷った後クロードが自分の答えを口をする。
「父上と母上が決めただけの婚約だと……意味があったのですか?」
「それはもちろんだよ。父上が何度もローゼン侯爵に頭を下げてやっと決まったものなんだ」
「そんな、こと……」
クロードが言い澱み、アルバートが言葉を引き継ぐ。
「教えてくれなかった?」
どこまでもいつも通りにアルバートは言ってのける。
アルバートのおっとりさは安心できるものだが、この状況ではそれすらも怖いものにクロードは感じた。
「クロード、知る機会はあったはずだよ。たとえ、あのタヌキが近くにいてもね」
「――っ」
動揺で目が泳ぎ始めるクロードは、力なくソファに沈み込む。
タヌキ、大臣のゲイリーに唆されてクロードはローザのことを一切話題することを拒否して、たった一度だって真面目に聞くことはなかった。
ローザはそばにいて知る機会はたくさんあったのに――。
あのとき信じないとしても、少しぐらいは知っていたら――今さらクロードは後悔する。
「あの婚約はアルバートと釣り合うだけの後ろ盾、それとお前を支えられるほどの技量があるとザックに無理を言って決めたものだ」
怒りは消さず、ただ静かにバートンが話し始める。
「あの娘のことはクロードの婚約者ではなく、友人の娘として私はずっと見てきたからこその個人的な思いもあるが、王としての判断を下すつもりだ」
「……………」
「しかし、ローゼン家の行動については常識的な範囲において全て不問にするつもりだ」
慰謝料やクロードの処罰では、収まらないだろう怒りについては自分でしっかりと受け止めろという事らしい。
「わかりました。失礼したします、父上」
お辞儀をして弱々しい足取りでクロードは部屋を出ていく。
クロードがいなくなった部屋でバートンがアルバートに問いかける。
「ひどい父上と思うか」
「そうですね、ローゼン家については」
のんびりとした口調でアルバートは返し、少しだけ言いにくそうに言葉を続ける。
「父上も気をつけてくださいね。ご友人ともなれば加減はないと思いますし、なによりローゼンの家は意外と血の気が多いですから」
のほほんとアルバートが言って、バートンの血の気が引く。
僕よりもご存知のはずなのでいう必要なかったですねと付け足して、焦る始める父親に気づかずアルバートは自分の部屋に戻っていく。
その全てを見ていた従者は、冷や汗をかきはじめるバートンをおいてそっと部屋を出ていくのだった。
散々なクロードですがそれなりには優秀なはずです。




