突然の話
「ローザ・ローゼン侯爵令嬢殿、私と結婚してくださいませんか?」
そう言ったのは、留学にきた友好国の王子フィン・アルレッキーノだった。
「まあ、気を使っていただいてありがとうございます。嬉しいですわ」
ローザが笑って流せば、フィンはローザの目の前に立ち上がる。
「ひっどいな〜、これでも勇気出したんだけど?」
「それは失礼いたしました。この場で動くだけでも大変な勇気ですわ」
「まあね、空気を読まないって定評があるからね。それと――」
フィンを愉快そうに笑みを浮かべる。
「勇気を出したのはこっちなんだけど?」
そっとローザの額にフィンはキスを落とす。
一部のご令嬢が悲鳴を上げ、うっとりした表情で2人を見つめる。
一瞬目を丸くしたローザはすぐにフィンと同じような笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。ですが、お断りいたしますわ。ご覧の通りでして」
ハッキリとお断りだと伝えるローザをフィンはエメラルドのような瞳でしっかりと見つめる。
まるで本心が見えない。
「一目惚れだっていったら?」
「出来ればクロード様との婚約前に知りたかったですわね」
「そりゃそうだ。チャンスが巡ってきたから声かけたわけだけど、これじゃ信じろってのは酷だよねぇ」
心底楽しそうに、声をあげて笑うフィンは思いつきのようにローザに話を続ける。
「ま、結婚の話はどうでもいいや」
本当にどうでもよさそうにフィンは言う。
「行く場所が決まってないならうちの国にきなよ。傷心旅行ってことで、どう?」
「考えさせて頂きますわ」
「来週中には帰るからさ、声かけてよ。その方が楽でしょ」
フィンは一度身体を伸ばすと、ローザの前に手を差し出す。
「さてと、馬車までエスコートしますよ。お姫様?」
「ありがとう、王子様?」
ローザは差し出されたフィンの手をとる。
2人が会場をでた後、しばらくみんな2人がいた場所を見つめていた。
それはあまりにも自然で、この場に溶け込むほどで、誰もがさっきまでの騒ぎを忘れるほどだったから。
ローザが帰ったパーティ会場は、めでたいはずのパーティではなくなっていた。
口々に不満を漏らす。
「クロード様、貴方は今までローザ様のなにを見てきたんですか」
「ローザ様じゃなくてクロード様が出て行けばいいのに」
「どうしてローザ様が……」
「傲慢なのはどっちだよ」
彼らの言葉を聞けば、どれほどローザ・ローゼンという少女が慕われていたかがわかる。
お開きになる頃、会場に残ったのはクロードの友人と、クロードを応援するわずかな同級生だけだった。
そこにアリアーナの姿は見えなかった。
次回は2月9日予定です。