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母様は云った。
「人間は私たちより脆いから、私たちを恐れて嫌うの。けれどいつか分かり合える日はくるから」
父様は云った。
「力は守るために使うものだ。決して、傷つけてはならぬ。いづれ愛す者を失わぬために」
母様も父様も大切な娘だとたくさんの愛を注いでくれた。大切なことをたくさん教えてくれた。そんな二人が大好きだ。これからもずっと__。
数年前、小さな集落で生まれた自分には名前はない。いや__これから名前がつけられる。生まれて十年経った時、ようやく名前を貰うことが出来るのだ。私たちは何よりも己に付けられた名前を大切にする。名前とは己の魂と繋がる第二の魂だ。名前を知られてはならない__なんてことは無いが、弱点であるのも確かだ。
生まれてから十年は名前がないため、その内々に付けられた家の名前が代わりに呼び名となる。母の名前はシャルル・アルマ・ユリキンスのため、自分はアルマと一時的に呼ばれている。もし、双子や兄弟が居る場合はどうなるのかと聞いたところ、十年に二人以上生まれることはないからと笑われた。
長命である私たちからしたら十年なんてあっという間に過ぎていく。人間は精々七十年程度しか生きられないらしい。悲しい生き物だ。集落には子供があまり居ないため時々人間がいる街に遊びに出る。大人たちからは人間と関わってはいけないとキツく云われている。けれど私たちと人間とは変わったことはなにもない。一緒に遊んだって問題は無いはず。
そう、楽観的な考えを持ったまま。
十歳の誕生日を迎える一日前まで、私は楽しい毎日を過ごしていた。