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希望という名の彼女

 いったいこれはどういう状況だ?。

 いや分かってはいるが、頭がこの状況に追いついてこない。

 現状確認から始めよう。

 まず、俺はこの屋上に飛び降り自殺をしに来たんだ。

 こんなくそったれた世界からリタイアしてしまうために。

 だがそれを今、目の前でおかしなことを言った正義感のあふれるヒーロー、いやヒロインに止められた。

 彼女は、見知った人の死亡ニュースなどみたくないという理由で俺の自殺を止めると言う。

 本当に意味が分からなかった。

 今日、出会って十数分。

 他人も同然の男の死亡ニュースを見たくないというのだから。

 それを不思議に思った俺はそのまま伝えると、


 _じゃあ、ただの他人じゃなければいいんですね?_


 _そうですね…じゃあ、私と付き合って恋人になってください。_


 という言葉だ。

 希望が見えた程度の話じゃあない。

 お人よし…いや善人にも程度というものがあるだろう。


 「状況の整理は済みましたか?」


 そしてこの少女エスパーか?


 「すみません。お待たせしました。まず何のことから話したらいいか…」


 と言って、向こうから一つ提案が下りてきた。


 「まず無難に、自己紹介からどうでしょうか?」


 確かに無難だ。

 無難なんだが、この流れで自己紹介か…。

 いや、まぁ恋人云々の前にまずは相手のことを知らないとな。

 でも多分俺は、彼女のことをどれだけ知ろうとも、信じることはきっとできない。

 もしこの希望が本当に俺を裏切ることがないとしても、考えてしまうのだ。

 もしまた、つかみかけた希望にあっさりと、裏切られてしまったら、きっと俺はもう…

 

 「どうかしましたか?」


 また、長く考え込んでしまっていたようだ。

 これ以上はさすがに迷惑なので次からは気を付けようと考えながらも、彼女に返事を返す。

 

 「いえ、もう大丈夫です。えっと…お互いの自己紹介の話でしたね?オーケです。じゃあまず俺からさせてもらいますね?」

 

 と言ってから、一拍おいてまた俺は話し始める。


 「俺の名前は青霧 春也(あおぎり しゅんや)です。この宇美野高校に通う1年生です。特にこれと言って趣味はありません。というかする気力が無かったですし、考える余裕がなかったもので…すみません何の味気の無い自己紹介になってしまいましたね…。」


 なんか変なこと言ったかな?確かにこの言い方だと、自分可哀そうアピールをしているように見えてしまったか?


 「なんかすいません…。」


 おっと、これは自己紹介の仕方をミスってしまっていたようだ。

 最近はバイトの接客しているときと弟と話す時意外で全く人と話していなかったおかげでコミュニケーション能力が下がっていたのかもしれない。

 今までの会話の中におかしなところはなかったか心配になってきたけど、今はそんなこと言ってる場合ではないよな?

 

 「いやいや、謝るのはこちらのほうですよ。今の自己紹介の中で自分可哀そうアピールをしてしまった俺に対して、不快になったんでしょう?本当にすみませ…」

 

 「あっ!いえいえ違うんですよ!全然そんなこと思ってませんから!むしろ、気の利かないあ私が悪かったんですよ。」


 即否定された。

 不快にさせわけではなかったようなので良かった。

 少し安心した。

 安心したところでまた、次に進もうと話を進め始める。


 「それならよかったです。俺はそれくらいしか言うことがなかいのでお次をどうぞです。」

 

 「わかりました。まず私の名前は夏野 涼音(なつの すずね)です。君…いや、春也君と同じこの高校に通う、一年生です。趣味は読書で部活にはバドミントン部に入っています。」


 「あっ、転入試験満点の…。」

 思い出した。

 この子…夏野さんはスポーツ特待生としてつい最近この学校に転入してきた子だ。

 特待生として転入試験無しでもはいれるのに、自分の実力を確認したいと言ってわざわざ試験を受けて転入してきたらしい。

 それだけでも驚きだが、すごいのはここからだ。

 何と、試験の点数まで満点という天才でもあったのだ。

 いくら張りつめていた俺だってそれくらいのことはうわさで聞いたことがあった。

 さらに、容姿までそこら辺の女子とは比べ物にならないため、下駄箱はラブレターであふれていると風のうわさで聞いたことがある。

 確か、俺のご主人様がその子に振られたとかで腹いせに俺を殴ってきたっけ…。

 そんなことを思い出していると、夏野さんが嬉しそうにいった。

 

 「あっあれはただのまぐれなんですよー。それよりも、知っていてくれたんですね?」


 そう問いかけてくれる夏野さんに俺は返事を返す。


 「そりゃあ、さすがに知ってますよ。ですが、話していても夏野さんからは、到底同い年には思えない年上オーラを感じていたので、てっきり三年生だと思っていました。」


 夏野さんは少し照れたように言う。


 「そっかぁ~うれしいですね~。あっ、あと同い年ならため口でいいですよ。私のこれは癖みたいなものなので気にしないでください。それに、名前も涼音って呼んでください。これから私たちは付き合うんですから!」


 そう。

 それなのだ。

 いまだにそれが謎なのだ。

 なので自己紹介が終わったのを機に、尋ねてみることにした。


 「それで、夏…涼音。なんで俺と付き合おうだなんて馬鹿なことを考えたんだ?涼音なら俺なんかよりもっとましな人と付き合うことができるんじゃないか?」


 そう尋ねると、少し怒ったようにむすっとした顔で涼音は話し出す。


 「さっき春也君が言ったんじゃないですか他人のお前が首を突っ込むなと。」

 

 似たようなことは言ったが、そこまで言ってなかったはずだ。

 まぁ、概ね間違っていないので黙って涼音の言葉を聞くことにした。

 

 「だから私が君の恋人になって自殺を止めようとしているんですよ。」

 

 「いや、そういう問題じゃないだろ。」


 ほぼ予想通りの回答が返ってきて少しため息をはく。

 仮にも転入試験満点者だ。

 俺には予想もつかないことを考えているのではないかと思って聞いてみたが特に何もないようだ。

 隠しているという線も考えたが、この様子だとそんなことは考えていないように見える。


 「涼音。君はなんで俺を救おうと考えているんだ?俺は理由が知りたいんだ。そうじゃないと俺は君と付き合えないし、君を信じることができない。」


 「俺はもうあんな苦しい思いはしたくないんだ。」

 

 おかしいな、こんなこと言おうと思ってるわけじゃないのに、


 「信じていた友人に裏切られるのも」


 だんだんと声が張りあがっていく。


 「一瞬見えた希望にすがったら先に見えたものは絶望だったなんてことも!」


 「もうこりごりなんだ…」


 吐き出すようにいった。


 俺も馬鹿だ。

 もう、希望は信じれないとか言ってるくせに心の奥底では信じてしまっている。

 せっかく少しでも気が合うかもしれないって思う人を見つけたっていうのに、また希望が見えたっていうのに、気が付いたら、声を張り上げていた。

 でも、多分これで良かったんだ。

 どうせまた、この希望も俺にひと時の夢を見せてから絶望に叩き落すのだから。


 

 きっとこれで彼女も俺のことをあきらめてくれるだろう。

 そう思っていた。

 

 「私がそうしたいと思ったからですよ。」


 聞こえてくるはずないと思っていた声が聞こえた。


 「ほかの人に言ったら笑われてしまいますが」


 「もうずいぶんも昔のこと。私も春也君に比べたら軽いものでしたがいじめられていて、それから救ってもらったことがあります。」

 「その人は名前も言わずに去って行ってしまったんです。恩返しをしようにもどうしたらいいかわからなくって、そんなとき、いじめられている人を見かけたんです。きっとあの人なら助けるだろうと思って、その時思ったんです。」

 「あの人に助けてもらった分私も助けることが恩返しにつながるんじゃないかって…。」


 「だから春也くん…。

  私が君を助けるのは自分のためです。」


 「私に君を助けさせてください。」


 「私を君の希望にしてください。」


 「私を、夏野涼音を、青霧春也くん、君の恋人にしてください。」

 

 そう穏やかな口調で彼女は言った。

 



 

 

 


 

 

 

 


 

 

 

 

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