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世界は残酷だと思っていた

「青春」………どこにでもあるような、ありふれた言葉だ。

 

 そんなありふれた言葉も、この世界を生きる多くのものとっては、この二文字が「特別」かつ「大切なもの」と感じていることだろう。

 希望をもち、理想にあこがれ、ロマンチックにあふれた恋愛を求める。


 自分も数か月前までは、そんな青春時代を送るんだろうとこれから始まるであろう高校生活に、思いをはせていた。

 現実は残酷だった。

 よくある話。勝手に青春という二文字の言葉に夢を見て、勝手に期待をして、勝手に……絶望した。


 本当は気づいていたはずだった。

 現実に夢に描いていたラブコメディは起こらないし、ましてやたわいない話の出来る友人さえも、できるはずなかった。

 そんな高望みの末に見えた景色がこの赤く燃える夕焼けだ…。

 「安全対策くらいしとけよ…。」とフェンスも何もないがらんとした屋上に一人嘆く。

 そもそも職員室から屋上のカギを持ち出されることを想定していなかったのだろうなとこころのなかでつぶやく。

 何も、勝手に期待していた青春に、勝手に絶望したからと言ってこんな所へは来ない…ここに来るからには、それなりの体験をしてきたつもりだ。


 高校生活が始まってすぐ、それなりに仲良くなれた友人と呼べるものができた。

 たわいない話の出来る友人が…。

 それからしばらく、二カ月ほどは楽しい日々が続いた、友人の様子がおかしくなったのはその後すぐだった。



 話していると急に腕や腹を抑えて痛みを我慢しているような仕草をみせるようになった。

 そのことについて気に掛けると友人は、

 「大丈夫だから心配ないよ」と、はぐらかすように言った。

 そんな日が数日続いたある日のこと、その友人に人気のない路地裏に呼び出された。

 路地裏について俺は言葉を失った。

 友人は確かにそこにいた。薄い笑みを浮かべたいかつい男たちと一緒に…

 そして彼は言った。


 「ごめん、君意外に僕の身代わりになってくれる人が思いつかなかったんだ」


 その時の彼の表情はもう覚えてない。

 そのときすでに俺の頭は恐怖でいっぱいになってしまっていた。

 そんな中、一つ理解していたことは俺が友人に売られたという事実一つだけだった。



 カツアゲは、3か月もの間続いた。

 俺はそのカツアゲから、同じクラスのある一人の女子生徒に助けられた。

 可憐な見た目とは裏腹に、空手で全国へ行けるほどの実力の持ち主だった。

 とても強い少女だった………故に俺はその少女に逆らえなかった。

 救われたとき、希望を持てた。

 これからまた、心機一転新しい青春が送れるのか?

 そんな、淡い希望は次の一言ですぐ砕け散った。


 「ちょうど使える奴隷が欲しかったんだよねえ…いい拾い物した!」

  

 言葉の意味を理解するのにいったい何分時間をかけたのだろう。

 理解してすぐ、希望という言葉は存在しないのだと知った。


 俺は彼女から…いいやクラスの全員から奴隷扱いを受けることになった。

 呼ばれたらすぐにクラスのみんなのもとへと駆けつけ頼み(強引)を聞く。

 ことあるごとに、購買に何かを買いに行かせる(もちろん自費)。

 時にはサンドバックになることもあった。

 カツアゲももちろんあった。

 学校にこのことを訴えもした。

 だが、学校側は黙認を続けはぐらかし続けた。

 家族は弟のこと優先で俺のことをのけ者扱いをしていたため、頼ることができなかった。

 救いがあったとすれば、当の弟の存在だった。

 弟だけは俺のことを心配したり、気遣ってくれた。

 それがあったから、俺は今まで我慢できていた。

 

 だが、俺はもう限界だった。

 6か月耐えた。

 もう十分じゃないだろうか?

 これ以上耐えた先にいったい何があるというのだろうか?

 あと2年と半年という時間を耐えるくらいなら一刻も早くこの世から去ったほうがいいのではないだろうか?


 あの虚空へ一歩踏み出すだけで、俺はこの腐れ切った世界から逃げ出すことができるのに、足がすくんでしまう。

 だが、この世界にもう思うことは何もない。

 額に滴る汗を手で振り払い、覚悟を決める。

 背後に誰もいないことを確認した俺は、右足を一歩、虚空へと踏み出そうと片足を上げたとき… 

 「ちょっと考え直さないかい?!」という言葉とともに、突然左手が引き寄せられた。

 

 「!?」

 

 つい先ほど、自分の背後を確認し誰もいないことを確認した直後だったためにかなり大げさなリアクションをしていたと思う。


 「なんでっ…」


 と声を上げてしまった。


 「なんでと言われましても屋上から飛び降りようとしている人を見つけたら助けようと考えませんか?」

 そして一拍開けて

 「ぎりぎり間に合ってよかったあ~」

 と口にした。


 とっさに発した疑問に帰ってきた言葉は、漫画の主人公が言うような正義論だった。

 ただ、俺の鼓膜に響いた声は、主人公ならではの頼りがいのある男らしい声ではなく、どちらかというと女子のように澄んだ声だった。

 尻もちをついた体制から振り向くとそこには、汗まみれで呼吸を荒々しくしながらも、いまだに俺の左腕を強く握る一人の少女が立っていた。

 俺が振り返ってすぐ少女は「ふぅ~~」と息を吸い、同じように尻もちをついた。

 少女が呼吸を整えたのを確認した俺は尻もちをついたまま、彼女にまず一つお願いした。


 「あの、一回腕を離してもらえませんか?」


 「拒否させていただきます。」


 拒否された。

 え、なんで?


 「えっと、なんででしょうか?」


 思ったことをそのまま口に出してみた。

 返答はすぐ帰ってきた。


 「今ここで君の手を離してしまうと、君はまた飛び降りようとするのではないかと思ったからです。」


 なるほど理解した。


 「大丈夫ですよ。そもそも飛び降りようとしてなんかいませんから。」


 なるべく爽やかな声を意識しながらシレっとはぐらかすかのように嘘をついた。


 「嘘ですよね?君が足を一歩あの虚空に向かって踏み出そうとしていたのを見ていたんですよ。それに、私そういう嘘にかなり敏感なんです。」


 そんな彼女の言葉には、何か…芯というのだろうか?それがかんじられた。

 その影響かどうかはわからないが、彼女の言うとおり彼女に嘘は通じないような気がした。

 だから俺ははぐらかすことをやめ、ひとつ気になったことを聞いてみた。

 

 「見られていたんですか…ちなみにいったいどこから?」

 「下校中に忘れ物に気づいてを学校にとりに戻ろうとしたとき、君が屋上に立っていることに気が付いてそれから嫌な予感がしたので、走ってこの屋上まで来ました。」

 

 それを聞いた俺は、少し驚いた。

 この学校は4階建てで、かなりの距離がある。

 それに俺は、屋上に来てから5分ほどしかたっていない。

 彼女は運動部に入っているのかと考えたが、今はそんなことどうでもいい。

 そんなことを考えていると、彼女から一つの質問がやってきた。


 「君こそなんで、飛び降り自殺をしようと?」

 

 この少女はデリカシーというものが欠けているのでは?とも思ったが、そりゃ、目の前に飛び降りようとしている人がいたら気になるし、何とか助けになってあげたいと前の俺ならそう考えていただろう。

 目の前の少女がそんなことを考えてくれているかはわからないが。

 そう思いながらも俺は端的に答える。

 

 「そうですね、簡単に言うと友人にいかつい男たちの集団に売られて、救ってもらえたと思ったらそいつとそのクラスメイトに奴隷扱いされたから…ですかねぇ。」


 そう答えると、彼女は少し顔をゆがめさせながら言った。


 「それは…かなり壮絶な体験をしてきたんですね。」

 

 分かってもらえたようなので、少し急ぐように言った。

 

 「なのでここを早く立ち去ってもらえないでしょうか?せっかく固まった決意も揺らいでしまいそうなので。」

 「それはできない相談ですね。それに、そんな決意固めないでさっさと捨てしまって下さい。明日の朝から見知った顔の死亡ニュースなんて見たくないので。」

 そう淡々と彼女は言った。

 

 「見知った顔といっても今日初めて、十数分会って少し喋った程度の程度の関係ですよ?友人でもなければ家族でもない。ほぼただの他人です。」


 そう返すと彼女は俺に問うた。

 

 「じゃあ、ただの他人じゃなければいいんですね?」

 

 言ってる意味がよくわからなかった。

 そんな彼女の言葉の意味を考えていると、彼女は少し考えるような仕草をして、ハッと思いついたようにして俺に告げた。

 

 「そうですね…じゃあ、私と付き合って恋人になってください。」


 

 

 

 


 



 


 

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