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悪役令嬢の話

続!悪役令嬢は森で静かに暮らします

作者: あみにあ

チュンチュンと鳥の鳴き声に目を開けると、窓から薄っすらと光が差し込む。

眠気眼を擦りながら体を起こすと、時間は朝の5時。

カーテンを大きく開き窓を開けると、冷たい風が流れ込んだ。


「あぁ~気持ちいい」


朝焼けが森に差し込み、美しい情景をじっと眺め、次第に目覚める脳に深く息を吸い込むと、ウーンと体を伸ばす。

そしていつも通り着替えを済ませると、朝食を作り始めた。


私の名はクレア。

一応貴族令嬢であるが、とある理由で王都から離れた森の中で暮らしている。

職業は薬屋。

本当は医者になりたかったのだが、色々と複雑な事情があり断念した。

そんな私には生まれる前の記憶がある。

この世界とは別の世界で生きた記憶、そして()()行く先も―――――。


貴族社会から離れ、ひっそりとここの暮らしを満喫していたのだが……つい先日招かざる客がやってきて大変だった。

明らかに何かを企んでいるなぞの男、ウォルト。

古くからの知っている男、ヘンリー。

そして訳の分からない事を叫ぶ女。

思い出すだけでも頭痛がしてくる。

まぁ追い返したのだから、もう関わることもないのだろうけれど……。


朝食を食べ終えいつものように薬の調合を始めると、ノックの音が部屋に響く。

はい、と返事を返し扉を開けると、そこには常連であるケヴィンが佇んでいた。

男らしく整った顔立ちで、短髪の赤い髪に、きりっとしたアンバーの瞳。


「あら、いらっしゃい、今日はどうしたの?」


「すまない、昨日訓練中腕を痛めてしまってな、見てくれるか?」


私は彼を部屋へ招き入れると、温かいコーヒーを用意する。

彼は私と同じ年で、騎士になるため日夜努力中の青年だ。

出会ったのは数年前、薬を売りに下町へ行った際、訓練場の近くを通りかかった時だった。

大けがをしている彼を発見し、応急手当を施したのが知り合ったきっかけだ。

それ以来こうして怪我をすると、よくここへやってくるようになった。


「う~ん、傷はそれほど深くはないようね。骨にも異常は見当たらないわ。塗り薬を用意するわね。あっ、でもちゃんと病院へ行った方が良いわ。何度も言うようだけれど、私は医者ではないの」


彼の腕から包帯を外すと、私は薬棚へ向い、塗り薬を取り出した。


「わかっている、いつもすまないな。それでだな……ッッ、今日は……別の用事もあって……」


彼は歯切れが悪い様子で言葉を切ると、ゴソゴソとポケットから何かを取り出した。

手には王都で人気のあるレストランの名が入った、チケットが2枚。


「あら、そのお店知っているわ、たしか半年ほど先まで予約で埋まっている人気のお店でしょう?」


「あぁッッ、そっ、そうなんだ。ちょっ、ちょうど昨日、たまたま友人からもらってだな……。もしよかったら……一緒に行かないか?へっ、変な誘いじゃないんだ。その、日ごろ世話になっているから……だな」


突拍子もない誘いに目が点になっていると、彼は狼狽しながら頬が赤く染まっていく。

うーん、あのレストラン気になっていたのよね。

だけど……街へ出て、またあのへんな連中に出会わないかしら?

もし会えば、とっても面倒だわ……。


どうしようかと悩んでいると、またノックの音が部屋に響く。

先ほどよりも大きく、ドンドンドンと強く叩く音。

どうしたのかと、慌てて扉を開けると、その先に居たのは見覚えのある女の姿。

つい先日面倒事を運んできた張本人。


「やっほ~、クレアさん、違うか、クレア先生かな?」


悪びれもないその笑顔に、私はすぐさまバタンッと扉を閉める。


「へぇっ!?ちょっと、ちょっと開けてよ~~~!」


「どうしたんだ?」


「あぁいえ、今日は無理そうですわ。お誘い頂き、ありがとうございます。また機会があればぜひ」


扉を背にケヴィンへ笑みを向けると、また扉を叩く音が部屋に響く。


ドンドンドンッ、ドンッ、ドドドンッ。


「開けてよ~~、開けてくれるまでずっとここにいるからねぇ~。話だけでもさぁ~!ねぇ、あなたも記憶をもっているんでしょう、色々と語り合いたいなぁ~~」


記憶……この子もしかして……。

記憶という言葉に、私はおもむろに振り返ると、ドアノブをゆっくりと引いた。


「あっ、開いた!ふふ~ん、やっぱりそうなん、うぷっ、モゴモゴモゴッ」


ケヴィンがいる前で変なことを話さないよう、私は彼女の口を手で覆うと、ケヴィンへ顔を向けた。


「ごめんなさい、ちょっと急用が出来てしまったわ。傷へ薬を塗れば数日で痛みは引くはずよ。また何かあったらいつでも来てね」


私の言葉にケヴィンはわかったと呟くと、薬を握りしめ帰っていった。


彼女と二人っきりになると、私は慎重に彼女の口から手を離す。


「ぷはぁっ、もう何するのよ!」


「ごめんなさい、何を言い出すのか恐ろしくてね。それよりも記憶って?」


「とぼけてるの~?記憶と言えば前世の記憶しかないでしょう!クレアもあるんだよね?だから学園に来ないんでしょう?」


前世の記憶。

この子も私と同じ記憶を持っているの?

探るように彼女を見つめてみると、嘘をついている気配はない。

自分の記憶については、あまり答えたくはないけれど、もしかしたらクレアの行く末を何か知っているのかもしれないわ。


「あなたのいう前世の記憶はどんなものなの?」


「決まっているじゃない~!ここが乙女ゲームの世界で、私がこの世界の主人公!……のはずなんだけれど」


「オトメゲーム?なんなのそれ?」


「え~!知らないの?あんなに面白いのに、もったいないなぁ~」


そこから彼女のオトメゲームという物の説明が始まった。

そしてこの世界の設定?というものについても――――――――。


話す事数時間……要点を得ない会話に頭痛がしてくる。

彼女の話を要約すると、どうやらこの世界は、異性を攻略するシュミレーションゲームのようだ。

私は前世でゲームに興味がなかったのでわからないが、どうやら特定の人物と恋愛関係を築いていくらしい。


そしてこのゲームの主人公である彼女、エミリー。

エミリーは彼女と同じ別の世界からの転生者、そして前世の記憶を利用しのしあがる。

そして私はどうやら彼女のライバル的存在らしい。


ゲームの舞台は王都にある学園。

そこでライバルであるクレアが、天才と謳われるエミリーをライバル視し、ちょっかいを出し始める。

公爵家の私が目を付けたことで、令息達も彼女に興味を持つようになるらしい。

そこで登場する特定の人物が3人。


この国の第二王子、ウォルト。

第一王子とは腹違いの子供で、暗い過去を持っている設定?、よくわからないけれど。

そんな彼をエミリーは囚われている過去から救い出し、攻略していくようだ。


そして二人目、公爵家のヘンリー。

彼はクレアの幼馴染で、私に負い目をもっている。

その負い目からクレアに縛られていたのだが、エミリーがそんな彼を癒していくらしい。

負い目というと……もしかして木から落ちたときに出来た傷の事なのかしらね……?


そして最後は騎士のケヴィン。

王族直属騎士を目指し日々鍛錬。

彼がそれほどまでに剣に集中するには、悲しい過去があるようだ。

その過去をエミリーが一緒に背負い、彼の心を溶かしていくらしい。


何とも不思議な縁だが、全員が私と何らかの関りを持った人物ばかり。


「でね、とりあえず、あなたが学園へ来てくれないとゲームが始まらないの~。だって誰も平民に興味をもってくれないんだもん!クレア様が私にちょっかいだしたことで、彼らも私に興味を持つの~~~、だからお願い、ね!」


懇願する彼女の姿に、私は無言でドアを開けると、ニッコリを笑みを浮かべて見せる。


「話は聞いたわ、帰ってくれる?」


「えぇぇぇ~ちょっと待って、待ってって!学園へ来てよ~~~、貴族様なんだから余裕でしょう!後一年で学園生活が終わっちゃうの~~!お願い、お願い、お願いします!!!」


彼女は懇願するように私の脚へまとわりつくと、ガシッと腕を掴む。


「いやよ、私はここでひっそりと慎ましく暮らしたいの」


「なんでなんで~イケメンに囲まれたくないの?それとも前世がめっちゃ美人だったとか?私は違うの~~~!全然恋愛とかできなかったし、だからねぇ、ねぇ~夢みさせてよおおおおおお」


「あぁぁもう鬱陶しい、行かないわ。それにあなたの事も信用していないの。ライバルなんて、碌な響きじゃない。それに私の見た目はきつめでしょう、平民のあなたに絡んだら、虐めているようにみえるじゃない」


「そんなことないよ!クレア様ってゲームと違って、街でめっちゃ評判いいし!虐めてるなんて誰も思わない。友達みたいな感じで大丈夫だからさ、とりあえずあなたと関われば、逆ハーも夢じゃない!」


彼女は強請るように私の腕へまとわりつくと、子供の様に駄々をこね始める。

その姿に怒りを通り越し呆れるが、彼女は腕から離れようとしない。

そんなことよりも……私はスッと目を細め彼女を見下ろすと、深いため息をついた。

彼女と会うのは二度目、なのに何なのこの馴れ馴れしさ。

ゲームの進行なんて、私にはまったく関係ない。

それよりも自分自身のことが一番大事だわ。


あれでもここがゲームの世界で、彼女がその先を知っているのなら……もしかして。


「ねぇ……私、クレアはこのゲームでどうなるの?」


私の言葉に彼女はキョトンと顔を上げると、考え込むような仕草をみせる。


「えーと、クレアは確か……私に負けて……あれどうなるんだっけ?確か各ルートに入ると出て来なかった気もするんだけどなぁ~。う~ん」


はぁ……私の行く先を知らないのなら、協力する必要はないわね。

私はうんうんとうなりながら頭を悩ませる彼女の首根っこを掴むと、そのまま扉の方へと引きずっていく。


「ちょっ、ちょっ、待って、待って!」


「もう十分話はしたでしょう。あなたが居ると仕事にならないのよ。じゃぁまたね」


そう別れを告げると、私は彼女を扉の外へと放り投げバタンッとドア閉める。

暫くの間、ドンドンドンと叩く音と騒がしい声が聞こえていたが、数十分もすれば静かになった。

ここが彼女の言う通りゲームの世界だと言うのなら、なおさらそのストーリー添うのは危険。

やっぱりここで地味に生活していくことが、生き延びるために必要なことだと思うわ。


そしてまた物語は始まらずに終わるのだった……。

お読み頂き、ありがとうございます!

ざっくりと世界観を短編で描いてみました。

恋愛要素が少なく申し訳ございませんm(__)m

続編をとのお声がありましたら、次回は連載版にしようかなぁと思っております!


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― 新着の感想 ―
[一言] 連鎖で、恋愛要素込みで続きが読みたいです…
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