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深潭逆乱舞  作者: 朝日菜
第五章 星の落下点
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十  『人間の武器』

 竜人は今まで出逢ったどの亜人よりも恐ろしい見た目をしていたが、見た目通りの恐ろしさは感じなかった。

 イヌマルは、亜人が意思疎通のできる生き物であることを知っている。意思疎通のできない妖怪は簡単に排除するが、意思疎通のできる生き物を理由なく排除したいだなんて思わない。グリゴレやレオのように、エヴァのように、ニコラのように──共に古城で暮らす未来がないとは限らない。イヌマルは、竜人がこんなことをする理由が知りたい。


 だが、ステラが擬人式神しきがみで吹き飛ばした竜人に息はなかった。


「クレア! 必要だったらサポートする!」


 イヌマルから自力で下りたステラは、唯一自力で戦うことができないクレアに声をかける。


「平気!」


 クレアは叫び、仲間の仇を討つ為に集まってきた竜人たちに何かを投げた。


「伏せてッ!」


 クレアが話す言語は日本語だ。竜人たちには当然伝わらず、伝わった古城の住人たちとアイラとまこは咄嗟に伏せる。


 クレアは亜人の強さを──古城の住人の強さをきちんと理解している人間だ。そんな彼女が〝伏せろ〟と言ったのだ。信じなければ命はない。


 瞬時に竜人たちが爆破で吹き飛ぶ。ニコラでさえ当たったら生命を維持できないと思うほどの威力のそれは、クレアの科学の力で生み出されたものだ。


「……こっ、わ」


 二年前に戦ったイマニュエルが錬金術師で本当に良かった。クレアのような加減を知らない科学者ならば、多くの命が散っていただろう。

 グロリアは人間だが、祓魔師ふつましとしての力がある。クレアも人間だが、不思議な力は持っていない。唯一自力で戦うことができない古城の住人がクレアだったはずだったのに、クレアはこの場にいる誰よりも強力な武器を自力で作っていた。


「どう?!」


 これで残りの竜人十三人も亡くなっていたら、一つだけ、確かな不安が生まれる。

 首都であるロンドンの街中で竜人が暴れているのだ。人間が即座に反撃しない理由も、できない理由もない。人間が持っている唯一の──自力で戦うことができる武器が科学ならば。ティアナやレオやエヴァが着ている軍服を、本気で着ている人たちが来るなら。


「…………死んでる」


 竜人に、勝ち目はない。亜人は、科学によって生み出された兵器に勝てない。


「次!」


 珍しくクレアが先陣を切る。その後を、揃いの軍服を今日も着ているレオとエヴァがついて行く。ニコラに様子を伺われたイヌマルはステラを抱き上げ、ニコラ、アイラ、真を連れて三人を追った。


「クレア! その武器の残りは?!」


 レオがクレアに声をかけるのも珍しい。それほど状況が爆弾を投げる前と後で変わっている。


「十! 化学物質を組み合わせてるだけだから、古城に戻ってもそんなに作れない!」


「充分だから!」


 思わず突っ込んでしまった。あんな危険なものを十も持たれている時点で冷や冷やするのに、まだ作る気でいるのか。


「そうそう! わたしたちもいるから……!」


 少しだけ遅れて走っていたエヴァがレオに追いつく。負けず嫌いのエヴァがわざと遅れていたのではない。エヴァはまだ、ジルを亡くした悲しみから立ち直れていないのだ。


 イヌマルも、ステラを守るという使命がなければジルのことを想っていた。式神に親も子もないが、祖母がいたらジルのような人なのだろうと想像した。

 ステラにも祖母はいない。ステラの祖母はグロリアの祖母でもあるが、グロリアはアランの話をするだけで両親の話さえしない。ジルは、グロリアやステラにとっても祖母だった。


 それでもこうして走れているのは、ジルの願いを叶えたいから。あの願いを、燃え滓にしたくないから──



「──次竜人を見つけたら捕縛しろ!」



 だから、イヌマルはやはり理由が知りたい。竜人がこんなことをしなければならない理由を。

 吸血鬼の老婆やギルバートに聞くことはできなかったが、ララノアとハルラスは理由なく襲っていたわけではない。


「わかった!」


 振り向いて了承したクレアにもイヌマルの意図は伝わったのだろう。前に出たアイラは周囲を警戒しており、現れた瞬間に攻撃を仕掛けるつもりでいるらしい。なんの攻撃もせずに捕まるのなら、それに越したことはなかった。


「あっ!」


「来る!」


 エヴァと同時に声を出した。


「アイラ右!」


 位置をざっくりと言葉に出す。そうしたのは、アイラが目視で確認してからでは遅いからだ。

 アイラもそれは勘か声色でわかったのだろう。どこにいてもかかるように広範囲に渡って投げた蜘蛛の巣は、五人の竜人を確保する。


「よしッ! アイラ偉い!」


 イヌマルはアイラを褒めることに専念したが、すぐに竜人の上に乗ったのはレオとエヴァだ。


「ニコラも!」


 暴れ出した竜人の上にそう言われたニコラも乗る。


「さぁ、吐け」


 英語でそう告げたレオの声色は、兄のグリゴレによく似ていた。グリゴレとレオは真反対の性格だが、見た目はきちんと兄弟で。性格もグリゴレに似てきたレオは、イヌマルから見ても頼もしかった。

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