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深潭逆乱舞  作者: 朝日菜
第五章 星の落下点
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九  『一人当たり二』

 イヌマルの予想通り、グロリアを下ろした瞬間に悪魔が下降してくる。ウェパルの忠告通り、狙いはグロリアのみのようだ。

 レオの攻撃力とニコラの防御力、ステラの結界とアイラの捕縛、はなのサポートがあれば悪魔から襲撃されてもグロリアに怖いものはないだろう。


 イヌマルは「すぐ戻る!」と言い放ち、結界で守られた古城に戻る。今か今かと待っていたエヴァとまこを抱き上げて戻ると、またグロリアと花の術が届かない位置で立ち止まっていた悪魔二人が──レオから攻撃を受けたところだった。


「んぎゃあ〜?!」


「緊急事態! 緊急事態! 攻撃確認! 反撃準備!」


 まだ、言葉と態度が合っていない。レオから攻撃を受けた男型の悪魔にも、ふらふらと飛びながらレオに反撃をしようとする女型の悪魔にも、余裕がある。


「──エヴァ! 真を頼む!」


 真が人工半妖はんようだとしても、その実力を知らないイヌマルはエヴァに頼るしかない。エヴァに真を押しつけて、虚空から大太刀を取り出し抜刀したイヌマルは──斬撃を連続で飛ばしていく。


「んぎゃあぁぁあぁああぁあぁあああッ!!!!」


「ぴぎゃあぁぁあぁああぁあぁあああッ!!!!」


 我ながら綺麗に二人の悪魔の腕を斬れた。レオの攻撃は予想の範囲内だったからか浅かったが、イヌマルの攻撃を予想することは難しかったのだろう。しっかりと効いている。


「アイラ! お願い!」


 グロリアに頼まれて動いたのはアイラだ。


「──ッ!」


 追い払うのではなく捕縛を選んだグロリアは、二人から情報を聞き出そうとしているのだろう。ようやく下りてきたティアナは背にクレアを乗せており、「悪魔はグロリアに任せる」と言い放ってグリゴレを迎えに戻ってしまった。


「……竜人はみんなに任せるよ」


 亜人はもう自分の手には負えない。グロリアはそう言っているようで、自分たちに背を見せたまま墜落した悪魔たちの元へと向かう。


「ぼくはグロリアの傍にいるね」


 グロリアが悪魔を相手にするならば、弟子の花も悪魔を相手にする。


「急ごう」


 真を抱えて着地したエヴァは、顔を歪めていた。誰よりも聴力のいいエヴァにはイヌマルたち以上に悲鳴が聞こえているのだろう。


「グロリア! 花! 二人で平気?!」


 悪魔に慣れていないイヌマルにとって、悪魔の動きは予想外だ。それはきっと、慣れているグロリアと花にとっても予想外で。妖怪退治に慣れていた猿秋さるあきでさえ妖怪の予想外の動きにやられたのだ、二人ぼっちにする勇気がどうしても出ない。

 他の悪魔がグロリアと花を狙わない保証もなかった。


「グリゴレとティアナが下りてきたらその二人に頼むから! 平気! 戦争を止める方が先!」


 そう言われて仕方なく背を向ける。イヌマルの主はステラだが、グロリアのその姿は将来のステラだ。離れ難いが、従わなければならないとも思っている。


「わかった!」


「えっ、ちょっと! イヌマル?!」


 ステラを抱き上げて振り払うように走った。ついて来るのはクレアとレオとエヴァ、ニコラとアイラと真で、竜人の強さは知らずとも申し分のない戦力だと思う。


「わたしはあっち!」


「まだ駄目だ! 竜人の力を全員で確認してからでないと分かれて戦えない!」


 レオはエヴァと違って理性的な面を持っている。そんなところに救われているから、イヌマルも理性的でありたいと思う。


「…………こっち! こっちの方が竜人に近い!」


 一刻も早く。焦りながらも自分の感情をなんとか抑えようとするエヴァが指差す方向は、イヌマルが走る方向から少しだけズレていた。


「案内は任せた!」


 野性的な面はエヴァの方が圧倒的に高い。エヴァに理性的になれと言えないのは、エヴァの野性的な──勘ではない完全なる感覚も大切だと思うからだ。

 小道に入ったエヴァは、自分だけが通れる場所を選ばない。出逢ったばかりの頃は好き勝手な場所を選んでイヌマルを振り回していたが、今は全員のことを思っている。


「あっ!」


 見えた。


「何人?!」


「十四! だから──」


「一人当たり二!」


「──主は一!」


 レオの判断に異論はない。だが、ステラは陰陽師おんみょうじだ。祓魔師ふつましの術をこの場で学んだとしても、亜人に効く攻撃をほとんど持っていない。持っているのは彼女の式神しきがみとして生まれた自分のみだから。


「…………」


 あからさまに不満そうな表情をするステラには、出逢ってから五年経った今でも従わなければならないと強く思っているわけではないようだった。

 イヌマルがこの世で最も優先したいと願い実行するのはステラの安全だ。ステラの命令ではない。


「ふっ──」


 ステラを下ろす直前にステラが息を吹きかけたのは、例の擬人式神だ。二年前は銃弾のようだと思ったが、今はその姿さえ追えない。

 それは、ステラが妖怪を相手にする人生でなくなったとしても、陰陽師として術や力を磨き上げている証拠だった。ステラは、イヌマルの主として陰陽師の力を身につけることを怠らなかった。猿秋から教わったこと、猿秋を目で見て盗んだもの、それを絶やさないという意思も感じる。


「主……!」


「一人当たり二!」


 現場に辿り着いて目の前で確認したのは、ステラが吹き飛ばした竜人だ。竜人は、トカゲ人間とティアナが称した通りトカゲやドラゴンに見える頭を持つ二足歩行の亜人だった。

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