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深潭逆乱舞  作者: 朝日菜
第五章 星の落下点
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八  『同じ力』

 この光景をステラとはなには見せたくない。ステラと花を離せないまま竜人が辺りにいるか否かを探り、誰の気配もないことを確認する。

 だが、安堵はできなかった。誰の気配もないということは、人間の気配さえないということだから。


「……イヌマル、大丈夫なの?」


 心配するステラはイヌマルに大人しく目を塞がれたままでいる。花も、イヌマルがそう判断をするならばと思っているのか一瞬でも抵抗しようとはしなかった。


「……大丈夫、じゃないけど」


 今この瞬間に命を奪われるような状況ではない。イヌマルは辺りを見回して、近くの建物に飛び移る。

 それほど高い位置にあるわけではなかったが、どの家も同じ高さだからか周りがよく見えた。だが、竜人がどこにいるのかは見当もつかなかった。黒煙が上がっているわけでも銃撃戦が始まっているわけでもない。ただ、悲鳴だけはどの方角からも聞こえてくる。決して少なくない数の竜人が、ここにいるようだ。


「イヌマル!」


 瞬間移動のイヌマルにそれほど遅れを取ることなく下りてきたレオは、ニコラを傍に下ろして数々の血溜まりを一瞥する。


「レオ……と、とりあえず二人を頼む」


 血を見て安易に興奮するほどレオは野性的ではない。月を見て安易に興奮する野性的なエヴァとは違う。


「わかってる」


「ニコラも」


 声をかけるが、ニコラはステラと花ではなくイヌマルを見ていた。


「…………承知致しました」


 ニコラにとって、生まれて初めて見た外の人間がイヌマルだったのだろう。そんなイヌマルのことを二年経った今でもしっかりと頼りにしている。それは喜ばしいことなのかもしれないが、ニコラには、二年前に花が言ったようにニコラの家を見つけてほしかった。そこで普通の人間として生きてほしかった。それが二年経った今でも叶わないのはイヌマルのせいなのではないだろうかと悩む。


「……じゃっ」


 振り払うように、瞬間移動で古城に戻った。待っていたのはグロリアとエヴァとアイラとまこだ。

 エヴァを雑に扱えば、グロリアとアイラを片腕で抱いて外に出れる。真は──結界が張られた古城の中で留守番させよう。


「えっ?! あ、あの! 僕も行きます!」


 瞬間、真が日本語でそう言った。


「えっ?!」


 驚いたのはイヌマルもだ。真は真。日本のどこにでもいるような少年だと思っていたが、よくよく考えてみたら式神しきがみのイヌマルが見えている。イヌマルが陽陰おういん町で暮らしていた頃は、見えていない人間の方が圧倒的に多かった。真は、《十八名家じゅうはちめいか》の人間であり──普通の人間ではない……?


「僕もアイラと同じ人工半妖はんようです! 戦えます、お荷物じゃないので連れていってください!」


 その訴えの意味を、すぐに理解することができなかった。


「……人工?」


 しかも、〝アイラ〟と同じ?


「あっ、えっと。人工的に生み出された半妖のことなんです! 僕も、アイラお姉さんも。あとアリアお姉さんも!」


 アリア。一瞬誰のことだと思ったが、彼女は〝コーデリア〟という名前でこの古城に産まれたクレアの〝クローン人間〟だ。心臓、または心を語源に持つ名前をつけられていたまだ見ぬ彼女が人工半妖であるとクレアがイヌマルに説明したことは一度もない。


「僕にもアイラお姉さんと同じ力があるんです! 絶対に足手纏いにならないので! お願いします! 連れていってください!」


「イヌマルさん、わたしからもお願いします」


 躊躇いもなく頭を下げたのはアイラだ。


「うわーッ!! 止めて止めて止めてください!!」


 グロリアに対してこのような反応をしたことはなかったが、それはグロリアがアイラのような態度を取らなかったからで。主であるステラの姪、さらにはステラよりも年下のアイラからそんなことを言われると、何故か本能が拒絶してしまう。


「俺もイヌマルでいい! 敬語もなしで!」


 考えたことは一度もなかったが、イヌマルは何故かグロリアや花を様づけで呼んでいなかった。ステラは様づけで呼んでいたし、今すぐに会いに行けば京子きょうこのことは様づけで呼ぶ。そんな態度は取ってほしくないのにアイラにも様をつけて呼ぼうとは思えず、自分は本当に、おかしなところだらけな式神なのだと一瞬思った。


「わ、わかった」


 イヌマルに気圧されたように見えるアイラに対して急に申し訳なくなってしまうが、ここにこれ以上長居することはできない。


「……じゃあ、グロリアとアイラ。エヴァと真の順で下ろす」


「なんでわたし最後?!」


「悪魔に襲われても対処できるならつれてくけど……」


「…………ぐ、ぐぅ」


 窓の外に視線を移すと、二人の悪魔は揶揄うように自分たちを見つめていた。ステラと花が結界を張ったとはいえ、グロリアを残して古城を襲撃されるのは困る。グロリアを先に行かせて、竜人と戦闘になる前に悪魔を倒せるのならば、絶対にその方がいい。


 二人の次に来た悪魔たちはアイラが蜘蛛の糸で縛ったからか、未だに姿を現さなかった。二人の悪魔が調子に乗って先行したのかと思うほどだ。

 次がないならば、ウェパルが大きく動いたと言ったとはいえ敵である悪魔の数はそれほど多くない。


 〝デザイナーベビー〟の吸血鬼、レオ。人狼の子供、ギルバート。そして無敵のニコラとニコラスと戦ったイヌマルならば、悪魔に怯えることなく戦える。


 一番の問題は、実際に人間に危害を加えている竜人だった。

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