二 『契約の終わり』
「グロリア。悪魔が動くということはどういうことですか」
グリゴレは、疑問に思ったことがあれば必ず解決させる。そうしないと気が済まない性格だ。イヌマルも悲しみのどん底にいながらもウェパルの残した言葉は気になっており、ステラと共にグロリアの表情を盗み見る。
「具体的にどうこうってことはまだわからないからグリゴレが望む答えは出せないかもしれないけど……とりあえず、場所だけ変えよう」
グロリアが提案した場所はいつも食堂として使っている大広間で、「あの、僕たちは……?」とおずおず尋ねた真はグロリアの話を聞いていい立場の人間なのか判断しかねるようだった。
「どっちでもいいよ。聞かれても問題ないし、聞かなくてもいいし」
これは、悪魔の話だ。アイラと真が聞いたところでどうすることもできないくらい、二人は部外者で。だから聞かれても問題ないと言いたいのだろう。
「聞く」
アイラはその道を選んだ。真も、聞いてもいいなら聞くつもりらしい。大人しく古城の住人たちの後をついて行く。
毎日見ているはずの大広間なのに、今日は何故だかとてつもなく広く感じた。
「わたしが祓魔師として二年前から結構忙しくしてるのは、みんな知っているでしょう?」
四年前、グリゴレとレオが合流してからグロリアと花は祓魔師として外の世界と関わっている。
三年前、エヴァが生まれた村ではそれが役に立ち。二年前、祓魔師としての仕事が忙しいと言ったグロリアはニコラがいた町に下りなかった。
「ニコラに会う少し前からそういう事件が増えていたんだけど、元々年に数回くらいだったから回数は亜人ほど多くなかったの。だから、わたしや花だけでもなんとかできていたんだけど……増えたっていう事実はある。何かあるんだろうなってのは、ずっと前から思ってた」
それを何故二年前に言わなかったのだろう。そう思ったが、悪魔を倒せるのは祓魔師であるグロリアと花だけだ。
「悪魔が動くということは、悪魔が関わる事件が増えるってことだよね」
「そう。ウェパルが忠告したのはわたしだけだから、みんなや花には関係な……」
「関係ある!」
「……なら、今から祓魔師になりますか?」
グロリアの言葉を遮ってそう主張するが、グリゴレがイヌマルについている首輪を引っ張るように突っ込んできた。
「祓魔師にはなれないけど、悪魔の事件が増えてティアナが悪魔に食い殺されるなら……手伝いたい」
「ステラの気持ちはありがたいが、言っただろう。返り討ちにしてやると」
「ティアナならできるかもしれないが、ティアナが狙われているなら俺も手伝いたい」
「そもそもの話、何故ジルが亡くなったら悪魔が動いてティアナが殺されるんですか? 他所の悪魔と契約した魔女が邪魔なのですか?」
名乗り出たレオの首輪も引っ張って、グリゴレが自らの首を傾げる。
最高齢の魔女、ジルが亡くなって。世界唯一の魔女となったティアナを殺して。悪魔にどのようなメリットがあるのだろう。その企みがわからなければ、祓魔師として祓うこともできないだろう。
「…………まぁ」
ティアナは、心当たりがあるような相槌の打ち方をした。
「お前らと一緒にいるからだろうな」
そのお前らはグロリアと花の祓魔師であって、〝亜人の掟〟を守るグリゴレとレオとエヴァとニコラとイヌマルとステラのことだろう。
「え?」
それは、思わず声が出てきてしまうほどに理由になっていなかった。
「私はお前らの味方だ。今までも、これから先も、ずっと。おばあちゃんがそうだったように」
ティアナの声色が少しだけ柔らかくなる。
「つまり、悪魔であっても事件を起こせばジルとティアナが邪魔をすると踏んでいたんですね」
「そういうことだ」
だから今、悪魔が大きく動くのだろう。
「悪魔の考えていることは大方見当がつく。待っていればそのうち来るだろう」
「あっ!」
悲しみをかなぐり捨てたかのような声を出したクレアは、「やっ、え?! まさか嘘でしょ!」と動揺する。
「……あ」
グリゴレもレオも、グロリアも察したようだ。
「何?! どういうこと?!」
「ジルが亡くなってウェパルとの契約が切れたということは、古城が姿を隠す術を失くしたということです」
「動かしているのはわたしの技術とティアナの魔法だから落ちることはないと思うけど……!」
「あっ、あぁーッ!!」
イヌマルもようやく事態の重さを理解した。今古城が飛んでいるのは、アイラと真を乗せる為に立ち寄ったロンドン。イギリスの首都、人々が最も多く集う都市だった。




