十六 『実行犯と首謀者』
「え?! グリゴレ?! レオ?! エヴァ?!」
驚いたのはイヌマルで、ステラは無表情──というか表情が硬い。驚いてはいるが表情に出せないというような反応だ。
「なんで……ティアナと花は?!」
「ティアナと花? どういうこと?」
「何故、私たちよりも先にイヌマルたちが合流してるんだ……」
「ティアナ。ハナ」
グリゴレたちが通ってきた廊下に立っていたのが、呆れた表情のティアナと困惑した表情の花だった。
ステラを抱いて器用に着地していたイヌマルは、「いやこいつが急に床を!」と人造人間から距離を取る。
人造人間は、イヌマルよりも巨大な青年だった。青年はイヌマルとステラの方へと歩を進め、老人に気づいて足を止める。
「イマニュエル……」
「喋った?!」
何故そんなことで驚くのか。途中で合流したグリゴレとレオとエヴァにはわからなかったが、ティアナと花にはわかることがある。
「倒せなかったか……」
それくらい、青年がニコラやニコラスよりも強力だということだった。
多分、今まで戦ってきた亜人たちとも桁違いの強さなのだろう。グリゴレも、レオも、エヴァも、イヌマルが倒し切れない事実に驚くことしかできなかった。
「ハリソン、やりなさい」
老人が──イマニュエルと呼ばれた老人が、嗄れた声で人造人間のハリソンに告げる。
「あれがハリソン……」
エヴァが唾を飲み込んだ。先ほど倒したハーパーが告げた人造人間、強いが脳のない青年──ハリソン。
「…………」
レオの表情があからさまに歪む。グリゴレの表情は変わらなかったが、〝デザイナーベビー〟であるレオ自身とその兄であるグリゴレには多少なりとも人造人間に対して思うことがあったのだろう。
「させない」
腕を一つ動かしたのはティアナで、瞬間にハリソンの動きが止まる。
「何故、って顔してるな」
ハリソンとイマニュエル以外の全員が、ティアナが何をしたのか瞬時に理解した。
ティアナは一歩ずつイマニュエルに近づき、自身の右目のシジルを指差す。
「──チェックメイトだ」
人間のイマニュエルには、亜人と戦う力がなかった。亜人と戦うと決めたであろうイマニュエル自身に負けを認めさせることが、亜人である自分たちにできる唯一の勝利、決着だと全員が思っていた。
「見つけたッ! 死ね死ね死ねぇッ!」
その憎しみに染まった声を、口調を、イヌマルは知っている。
「ララノアッ?!」
グリゴレやレオやエヴァ、ティアナや花が来た廊下から現れたのは、ダークエルフのララノアとエルフのハルラスだった。
「同胞の──仇」
ララノアの目も、ハルラスの目も、輝いていない。憎しみに染まったその双眸は、二人の同胞を殺害した実行犯と思われるハリソンと首謀者と思われるイマニュエルに向けられていた。




