十三 『無責任』
レオとエヴァがグリゴレを庇うように前に立つ。グリゴレは二人が守らなければならないほどに弱いわけではないが、普段のグリゴレは戦わない。よく亜人と戦っているレオとエヴァだからこそ、咄嗟に体が前に出た。
それを邪魔できるほどの実力がハーパーにはない。ニコラとニコラスとは違い、ハーパーは力のある戦闘員ではないのだから。
それでもレオとエヴァは警戒する。ハーパーが戦わない人間であると確定したわけではない。少なくともハーパーは亜人を殺すことを肯定している人間だ。三人にとって敵であることに違いはなかった。
「ハリソンは強いけれどお馬鹿なのよねェ。新しく造り直してもらおうかしらァ」
ハーパーが人造人間を造っている張本人ではないようだ。ならばハーパーは何者なのか。ますます謎が深まっていく。
「……嫌な目」
そう呟いたハーパーも、三人にとっては嫌な目をしていた。
蔑むようなその目は、差別をする者の目だった。亜人を知る人間はほとんどおらず、古城の住人の人間たちは亜人の存在を当たり前のように受け入れている。だから時々忘れてしまうが、亜人を知る人間にとって亜人は排除しなければならない存在だった。
ハーパーを殺したら、亜人を知る人間が一人減る。ハーパーは敵だ。排除することに躊躇いはなかったが、亜人を知る人間は他にもいる。
それは、まだ見ぬ首謀者とこの町の人間だった。ハーパーを殺したらこの城の住人とこの町の住人はすぐにそれを知ることになるだろう。そうなれば亜人はますます生きづらくなる。この町の周辺の亜人は皆殺されて、亜人の存在は他の地域にも知られるようになり、またあの頃に──人間と亜人が争う世界に戻ってしまうだろう。
これは簡単な話ではなかった。人間と亜人全体の話だった。
町の住人まで殺してしまえば、古城の住人が〝亜人の掟〟を破った者として亜人たちから追われてしまう。それは本意ではない。だが、彼らを見なかったことにしてこの町から去ることも本意ではない。
レオとエヴァは瞬時にそう思ってグリゴレに判断を仰ぐ。グリゴレが絶対というわけではない。グリゴレが正しい道へ導けると思っているわけでもない。
混血の吸血鬼を殺すようになったのも、〝亜人の掟〟を破った亜人を殺すようになったのも、この旅自体も、グリゴレが始めたことではなかった。それでも、続けると決めたのはグリゴレだ。だから、終わらせると決めることもグリゴレだと──無責任に思っていた。




