十二 『正義』
進むべき場所がわかっているかのように足を止めることがないグリゴレの後を、レオとエヴァがついて行く。二人は共にいると何かと争うことが多かったが、この瞬間だけはティアナがいなくても争わなかった。
何か良くないことが起きている。それがレオとエヴァの共通認識であり、グリゴレが醸し出している雰囲気でもあった。だから、どうやっても普段のように振る舞うことができなかったのだ。
吸血鬼と人狼は種族として合うことがない。人間を取り合う敵同士と言っても過言ではないだろう。そして、グリゴレとレオ、エヴァは、性格面で見ても合わなかった。それでもこの三人は、他の古城の住人には気づかれない部分で──他の古城の住人にはない絆のようなもので繋がっていた。
その絆は愛ではない。ただの糸だと言われても納得してしまうくらいにか細いものだが、古城の住人の中で三人にしか共有することができない衝動がある。悩みと、苦しみがある。
吸血鬼から生まれた兄弟と人狼に噛まれた少女という違いはあるが、亜人としての本能が最も濃いのはこの三人だけだった。
悪魔と契約して魔女となったジルやティアナ、人の力によって造られた花やステラ、ただの人間であるクレアとグロリアにはない──〝真の亜人〟としての誇りまでもがバラバラな三人を結びつけている。
人間として生まれたエヴァの中には共に幼少期を過ごしたギルバートの遺伝子が刻み込まれており、同じ遺伝子を刻み込まれているノーラたちの命に危険があったらわかるようになっている。そのことに気づいたのはエヴァではなくノーラで、ノーラと別れて旅に出た後、一度重傷を負ったことがあるエヴァにわざわざ会いに来たことがあるのだ。
ジルによって空中の古城に招かれたノーラはエヴァの無事を確かめて、人狼という種族がどういう種族であるのかを二人で何時間も話し合った。
そして、自分たちはもう人間ではないのだと改めて理解した。人間として生きていた感覚が日に日に剥がれ落ちていく事実を確かめ合い、人間には戻れないのだと理解した。そんな恐怖も二人ならば乗り越えられた。グリゴレとレオという〝真の亜人〟がいることで、その二人からも理解されたことで、エヴァの心は救われた。古城の住人から見たらずっと除け者だろうと思っていたグリゴレとレオの心を救ったのは、真新しい者であるエヴァだった。そんなエヴァが他の古城の住人と仲良くしていることで、やっと、自分たちも古城の住人だと思えたのだ。
決して口には出さないが、互いが互いを特別だと思っている。〝大切〟で、〝唯一〟だと思っている。
首謀者を殺すのは、〝真の亜人〟である自分たちだ。亜人を殺せと人造人間であるニコラとニコラスに指示を出している者は、〝真の亜人〟である自分たちの手で必ず止める。
ニコラもニコラスも、首謀者自身も、〝亜人の掟〟は破っていない。本来ならば首謀者でさえ殺してはならないが、それでも殺すと決めたのは、町の人間たちの反応だった。
亜人の存在は隠さなければならないのだ。隠れて生きてきた今までの歴史を無駄にしない為に〝亜人の掟〟を破った者を殺してきたのに、自分たちの裁きを無に帰すような行いをする者は──誰であろうと許してはならない。
自分たちに正義はない。グリゴレも、レオも、エヴァも、それはわかっている。多分、イヌマルもわかっている。
誰かから見たら古城の住人も亜人殺しの一味なのだろう。それでもこの歩みは止められない。この手はもう、二度と綺麗にはならない。
「どうして無傷のままここまで来れたのかしらァ」
地下へと降りていった三人の目の前に立ったのは、呆れ顔のハーパーだった。




