十一 『ステラの式神』
「ティアナ! ハナ! ここはわたしとイヌマルに任せて行って!」
「は?! ステラ?!」
ティアナと花が動揺するが、イヌマルもステラの意見に同意する。
〝正しい亜人〟であるグリゴレとレオとエヴァが心配だった。ティアナと花にはそっちに行ってほしい、ステラと同じく二人も弱いというわけではないから──自分たちと同じように襲われているであろう三人に加勢してほしい。
「本気で言ってるの?!」
行きたくないと言外に込めているような花の叫びを聞くことは辛かった。それでもステラが本気で言っていることはわかるから、「そうだ!」とイヌマルも言葉に出す。
「大丈夫! わたしたちだから!」
根拠はない。それでも、今のステラとならば大丈夫だと思えた。
大太刀で相手を斬るイヌマルと、術で相手を苦しめるステラ。二人が揃えばどれほど強力な人造人間が相手でも勝てる。そんな自信に満ち溢れていた。
「わかった……死ぬなよ!」
「絶対にみんなで帰ろうね!」
これは約束だ。イヌマルとステラは二人に視線を移すことさえできなかったが、声を揃えて二人に答える。
ステラの擬人式神によって右目辺りを負傷した青年はしばらく右目を抑えていたが、イヌマルとステラにとっては意味のない地団駄を踏み始めていた。ティアナと花が去っていくのは気配でわかっていたが、その足音は青年の地団駄によって掻き消されている。危害を加えられたわけではないが、城を揺らす地団駄のせいで近づくことができなかった。
「イヌマルッ!」
イヌマルは体を右に傾けてステラの擬人式神が通る道を創る。次々と飛んでいく擬人式神は青年の体の急所に当たり続けていった。
鳩尾、喉仏、こめかみ、顎。
何故それを知っているのかと驚くほどに人間の急所を狙っている。だが、ステラの周りにいる人間はすべてあの古城の住人だ。クレアとグロリアが知らないとは思えず、少しずつ周りの人間から技術を吸収しているのだと実感する。
戦闘に貢献している擬人式神たちは間違いなくステラの式神だった。イヌマルの攻撃よりも効いているような気がして落ち込んでしまうが、イヌマルと擬人式神たちの攻撃方法は異なっている。ステラが青年に効く攻撃方法を持っていることが救いだと思考を切り替えて、改めて大太刀を握り締めた。
擬人式神たちはイヌマルと異なり代わりがいくらでも存在するが、数には限りがある。ステラの擬人式神のストックが尽きる前に止めを刺さなければイヌマルとステラの勝利は遠のくだろう。
青年からは血の匂いがする。ニコラとニコラスと同じようにはいかない。
「お願いッ!」
その首を斬り落とす役目を担っているのがイヌマルだった。ステラの式神としての喜びが体中を駆け巡っていく。弟のような存在になりかけている擬人式神ができないことができるという喜びを、噛み締める。
「了解!」
愛が溢れて止まらなかった。
床を勢いよく蹴って廊下を飛ぶ。殺意を感じたのか突然伸ばされた青年の腕に大太刀を当て、また斬れないことを悟る。
「──ッ!」
すぐに体制を立て直した。擬人式神たちの攻撃はまだ効いている。このチャンスを無駄にはしたくなかった。




