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深潭逆乱舞  作者: 朝日菜
第五章 星の落下点
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十六 『幻と現』

 祓魔師ふつましが祓う悪魔は下位悪魔であって上位悪魔ではない。ここからは、グロリアもはなも経験したことのない戦いが待っている。


「シトリー、か」


 呟いたのはティアナだった。ダンタリオンと契約している魔女のティアナは、シトリーが何者であるのかを知っている。多分、能力も知っている。


「助かったな」


「えっ?」


「シトリーは戦える悪魔じゃない。戦闘に関してはこっちが有利だ──が、呑まれるなよ」


「りょ、了解!」


 とりあえず返事をする。戦いの火蓋を切るのは相手の出方がわかるティアナだ。瞬時にザ・シャード周辺に複数の大砲を出現させる。


『んん? おまえそれダンタリオンの力だろぉ! 幻なんか怖くねぇからなぁ!』


「怖がらせるつもりはない」


 ティアナの声色は驚くほどに冷たかった。さっさとこの戦いを終わらせる、そんな意思をありありと感じてイヌマルは背筋を凍らせる。


「ッ」


 その場にないはずの大砲が砲撃を開始した。だが、幻だとわかっていたとしてもシトリーはまったく動じておらず──シトリーの強さを実感する。


「ティアナ、これって」


 グロリアの声が震えた。


「クレア、任せたぞ」


 ティアナが声をかけたのは、シトリーから最も離れた場所に立っているクレアだった。


「えっ」


 クレアは戸惑う。イヌマルも、ステラも、はなも──他の全員も、ティアナとグロリアが言おうとしていることを理解することができなかった。


 だが、ティアナとグロリアは悪魔に最も近い場所にいる。悪魔のことを理解している。二人を信じない理由がなかった。



「──作戦開始だ」



 息を呑んだイヌマルは、同じく息を呑んだ古城の住人たちも二人の意図を理解したのだと悟った。

 イヌマルたちが見ているのは、ティアナがイヌマルたちのみに見せている幻だ。シトリーやマクシミリアン、マクシーンには見えていない。


「そういうこと、か……」


 これは、ティアナがイヌマルたちに出した指示だ。シトリーはまったく動かない古城の住人たちをつまらなさそうに見下ろしており、マクシミリアンとマクシーンは嬉々とした表情でシトリーを見上げている。

 騒ぎ出したのはザ・シャードに集わせた竜人たちだった。彼らの声に耳を澄ませると、彼らが再び人間を襲おうとしていることを理解する。


「殺した! 殺した! 殺した!」


 そんな声が多方面から聞こえてくる。


「レオ! グリゴレ! 行け!」


 二人はあっという間に姿を消した。これがシトリーの攻撃のようだ。シトリーはつまらなさそうな表情から一転、愉快そうに笑っている。そんな表情でさえ、男型の式神しきがみのイヌマルを魅了するほどに美しかった。


 これがシトリーだ。古城の住人にとって愉快なことは一つもなかったが、完全に不愉快になることができない魔性の悪魔。その配下にいるマクシミリアンとマクシーンが多くの亜人と人間を容易に唆すことができたのも納得できた。


「クレア!」


 唯一シトリーに魅了されないティアナが急かす。自分が何をすべきなのかわかっているクレアは走り、グロリアは、そんなクレアを守る為に共に向かった。

 イヌマルも、ステラと花を置いて走る。人は多い方がいい、エヴァとニコラとまこも共に行く。


「お願い!」


 クレアが全員が受け取れるように床に置いたのは例の爆弾だった。その数は十、グロリアを除いた五人で分ければ五つずつになる。

 なるべく刺激を与えないように拾って投げた位置は、ティアナが見せていた大砲の位置だった。シトリーが幻だからと油断していたそれが砲撃するのは、クレア手製の爆弾だったのだ。


 竜人を殺した威力を持つそれはシトリーに直撃し、シトリーは黒煙に塗れて見えなくなる。


 爆弾は、確実にシトリーの身体に当たった。手元にはもうない、ここで倒れなければ自分たちの素の力と祓魔師の力で立ち向かうしかない。


「ご主人様ぁ!」


 マクシミリアンとマクシーンが騒ぎ出す。二人とシトリーの間に滑り込んだのはグロリアで、「やって!」と声をかけて呼び出したのは、アイラの蜘蛛の糸に拘束されていたはずの下位悪魔たちだった。

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