第8話 「ごちそうさま」
「ごちそうさま」
朝食を食べ終え、アイスに洗面所へ転送してもらい、そこで「歯磨き」と「コップ」を念じ歯を磨いた私は、次に何をするか悩んでいた。一に会社、二に会社だったからもう何もしないという事は考えられない体になってしまっているのだろう。ニート宣言をしたというのに情けない限りである。
「探検、しないんですか…?」
アイスは悲しそうな目で私を見つめてくるが、はっきり言ってそれはしたくない。でも探検しないとなるといよいよやる事がない。折角広大な土地が…
「でも探検しないとなると、やる事ないですよね…折角広大な土地があって、そこに現実世界に帰…らなくても良いですけど、新たな道が拓けるかもしれないのに」
煽っているのか、本心なのか…アイスは私の気持ちを代弁するかの如く呟く。
…この口振りだと、「この広い土地を探索すれば元の世界に帰る為の新規の道が拓ける」という事なのだろう。その名目で、今まで異世界に転送した人達が自ら動くように仕向けていたのだろう。
少し、腹が立つ。
「新たな道が拓けたとして、私が探検するメリットないよね?追及する訳じゃないけど、じゃあなんでこの広大な土地全てをアイス…天使達は把握してるの?未開の地も含めてさ」
私はさらに続けた。
「例えばさ、『元の世界に帰る為に時間が必要で、その為にわざわざ仮初の"土地"を用意して、その"土地"をアトラクション感覚で旅させてる』っていう説はどう?」
半分はパッと出てきただけだが、勢いに乗って話を続けていく。
「あとさ、この世界自体『長い夢』なんじゃない?食べ物が念じたら出てくるって時点でおかしいし、さっきも言ったように、私が木に触れた時あれだけの土地があったのに全部の場所を知ってるかのような言い回し。これは『あなたたちが見せてる夢』なんじゃないの?どう?どうなの?」
攻めるようにアイスに問い掛ける。するとアイスは少し沈黙した後、口を開く。
「あの〜、そもそもですね…我々天使は、『この世界の全てを把握し切れていません』。」
「…え?」