第6話 「何ですかこの…体たらくは!」
「──ください」
「────起きてください!」
「!、アイスちゃん?」
大天使もどき、アイスの声で目が覚めると、案の定…空は「今にも陽の差し込みそうな薄い青色」になっていた。朝が来たのだろう。
「なに…?今更来たの?」
「『今更来たの?』じゃないですよ!何ですかこの…体たらくは!」
「…は?」
的外れな言葉に、思わず「は?」と言ってしまった。
「ハッキリ言いますよ!これは今まで異世界に言った方の中でも類を見ない堕落した生活をしてます!働く事もなければ、元の世界に戻るために何かを見出す事もない。挙げ句に住まいまで用意してあるのにそれを拒否して野宿!あなたはかなりのレアモノですよ、レアモノ!もちろん悪い意味でね!!」
「………いや、だからさ。アイスちゃんの言ってるそれは、希望がある人がやる事だよね?私は『働きたくなくて』、『元の世界に帰りたくもない』。住まいだって用意してあるならとっくにそこで寝て…」
「…『住まいまで用意してあるのに?』」
住まいが用意してある!?そういえば…
「最低限の衣食住は確保できるので、職に就かなくても生活はできますが…それだと退屈しませんか?」って聞いて来てたな…
「そうですよ!最低限の衣食住は用意してあるんです。それなのにわざわざサバイバル生活を選ぶなんて」
「ちょっと待って、私は好きで野宿してた訳じゃないんだよ。ホテルとか民宿っぽい所がどこにも見当たらなかったから」
「そんなの…」
大方そんなの知ったこっちゃないです、とか言うのだろう。私にはわかってる。
「…そんなの、言えば良かったのに。」
「…は?」
思わず二度目の、今度はあまりにも間抜けな「は?」という声が出てしまった。これはアイスが的外れだった訳ではない。
「えっと…つまり、『言えば衣食住を用意してくれてた』って事?」
「そうですよ…だって、言わないんですもん。呼びもしないですし」
言わないのは私に非があったとして、「呼びもしない」…?
「呼ぶ方法があったとは思えないんだけど…」
「えーっと…説明しておけば良かったですね。私達天使は、『名前を呼ばれれば』即座に現れます。そして、異世界転生者の身の周りのサポートを可能な限り致します」
「そういう事だったのね…どうりで草原で『おやすみ、アイス』って呟いた時に出た訳だ」
「今後は、衣食住はこちらが可能な限り用意致します。探検する際のナビゲートもお呼びいただければ何なりと」
「いや、もう探検は二度としないけど」
「そうなんですか…?」
「うん、勘違いから仕方なく歩かされてただけだしね。衣食住ちゃんとしてるならもう出る用事は特にないかな」
「そうですか…でも、探検してるお姿、格好良かったですよ?」
「そう…ありがとう」
「今回だけと言わず、もう一度探検してみては?必要であれば、私も行きますし…」
「それは…また機会があったら、ね」
思わず「機会があったら」と言ってしまったが、私は行きたくないし、今後も行く事はないだろう。
「そう、ですか……まあ、人それぞれですもんね。…では気持ちも改めて、朝食にしますか?」
「…そうね。お願い」
「それでは、大天使アイスの名の元において我等を転送致します──」