第40話 「ありがとう、アイス」
「いえ、まだですね…前世に帰るにしてももう少し時間が必要で…」
「……そうなんだ」
「帰れる場合は、土地全体が光り…全ての天使と転生者が、自然とここへ呼び寄せられるんです。それがないという事は…今はまだ帰る事ができない」
「………」
「…すみません、モカちゃん」
「……ううん」
「…まあ、元気出せよ。ここにいる限りは、俺は旨いコーヒーが飲める…感情は誤魔化せんが、俺達と今まで過ごしてきた事実はある。気楽に行こうぜ…」
「…うん。でも、違うの」
モカは、さらに続ける。
「かんじょう、ふくざつなの。…元のせかい、かえりたいとも思うし…ブツブツといるいまもたのしいから」
「………」
掛ける言葉が出なかった。
複雑なのは私も同じで、今私の感情は、単純にモカやアイス、サラミとまだいれるという嬉しさと、モカを束縛しようとしたのではないか、という大人気なさで入り乱れていた。
あの時、アイスが「帰れますよ」と言ったら私はどうしたのだろうか。きっとモカに、「もうちょっと一緒にいない?」とでも声を掛けたのではないだろうか。
モカの気持ちより自分の気持ちを第一に考えてしまった…そんな罪悪感が、私を黙らせた。
しかし、ここで沈黙を破る者がいた。
「大丈夫ですよ、モカちゃん。大丈夫…」
そう言って、モカの頭をポンポン、と叩いたのはアイスだった。
「絶対、帰れるようになりますし…悪いようにもしません!見てください、この世界を…そして私達を!」
「……あいす」
「だから…今、まだ元の世界に帰れない内に…向こうじゃ経験できない事を全部しちゃいましょう!やりたい事全部!そしたら、複雑な感情もパーっと晴れますよ!…そうですよね?」
私に顔を向けられても困る。困るが…今はアイスに感謝しかない。
「ありがとう。アイス」