第3話 緑以外の何も見えない
光が全身を包み込み、そのあまりのまばゆさに私は気を失った。
再び目を覚ました時、左右、上下どこを見ても圧巻の緑が広がっていた。どうやら一面の草原に横たわっていたようだ。異世界への転送は成功したのだろうか。
しかしこの場所、本当に緑以外の何も見えない。
上を見ると空、真下を見ると先程のオフィス空間では消えていたバッグが復活しているが…
バッグの中を確認すると私が外出する際いつも持ち歩いていた財布、ウェットティッシュ、メガネ、携帯、前の仕事で使っていた名詞、シャチハタ、さらにどっかのパンフレットまで入っていた。
肉体と精神がこの世界に転移しているなら現物だが、この体が幻で私の魂が見せている幻覚ならば可能な限りの持ち物を再現したと仮定するべきか。あの子に聞いておけば良かった。
「…歩くか」
一歩踏み出す。特に何も変わらない。また一歩進む。さらに一歩。一歩。一歩。
走って、走って、走って…ゴールの見えない道をただただ走った。
「どこなの…」
あの天使…アイスはここで一生野宿しろとでも言いたいのか。ニートを願った者の末路か?
どちらにせよこれはあんまりだろう。私が何をした?ただ仕事疲れて倒れて、気が付いたらトントン拍子にこんな所に連れてこられただけだ。
携帯電話でマップを見ようにも充電が切れているのかうんともすんともせず、いよいよ野宿確定になりそうである。