第2話 「それでは、新たなる世界でもごゆっくり」
「『ラッキーワールド』…」
「ここに迷い込んだ方は、ほぼ強制的に『転生』を行います、いわば第二の人生です」
…嫌なんだけど。
しかも死ぬか転生するかの選択肢があるならまだしも、強制的に転生とは。
「転生しない手はないの?」
「ない…ですね…迷える魂は一度転生の手続きを踏む事が義務付けられてまして」
異世界でも手続きがいるのね…
「その転生の手続きを終えたらすぐに異世界生活をやめて成仏できる?」
「厳しいと思います…まず前例がないですし、私の使命は迷える魂を異世界へ送り届ける事なので」
異世界で暮らすのは確定らしい。
「…一応確認しておくけど、冗談じゃないんだよね?」
「はい、全て本当の話です」
「アイスちゃんのその格好もコスプレじゃないよね?」
「…自前です」
コスプレを疑った私の質問に対して、アイスは少し怒り気味に答えた。
「もう良いですか、転送しても」
コスプレと言われた事が気にくわなかったらしく、アイスは足早に何かを始めた。
「何してるの?」
「あなたがこれからを過ごす異世界に転送する為の準備です。すぐ終わりますから」
アイスがそう言った直後、一瞬まばゆい光が立ち込めた。
「転送準備、完了しました。これより―」
「ちょっと待って。」
第二の人生を歩む前に、私には一つだけ聞いておきたい事があった。
「何ですか?」
「その…異世界にも当然仕事ってあるでしょ?それを無職のまま生活する事はできるのかなぁ、なんて…」
「最低限の衣食住は確保できるので、職に就かなくても生活はできますが…それだと退屈しませんか?」
確かに退屈するかもしれないが、折角生きるならもう二度と過労でぶっ倒れるなんて事になりたくないのだ。
「生活できるなら平気だよ。前の世界で働いてたのも、全部お金の為だもん。」
「そうですか…それでは、大天使アイスの名の元に彼女の魂を転送いたします…」
腑に落ちないような顔をしながら大天使アイスは私の転送を始めた。
「アイスちゃんもこの仕事でお金を貰ってるんでしょ?」
「え?」
アイスはバッグの在処を聞いた時のようなキョトンとした表情を再び向けた。
「え?」
「この仕事でお金は貰えないですし、そもそもここで通貨は必要ないです」
「じゃあ、アイスちゃんは何の為に働いてるの?」
これは純粋な疑問だ。金銭が絡まないとわかっていて働く意味は何なのか。すると、アイスはニッコリと笑ってこう答えた。
「さあ?なぜでしょうね、ウフフ…それでは、新たなる世界でもごゆっくり」