異種族婚姻推進法(この世界の設定についての説明)
この世界の設定について説明する回です。
ちょっと凝りすぎて、小難しくなってしまいましたので、本編を先に読んでいただく方がいいかも?
お急ぎの方は次話「プロローグ」からご覧ください。
この世界では、もう3000年以上の平和な時が流れていた。
かつて、強大な魔力を持った22の悪魔が数多の魔物を引き連れてこの世界を襲った。
しかし、人間の勇者カトル率いる一行が悪魔たちに挑み、22番目の悪魔サタンを打ち倒したことで、世界に平和が訪れた。
悪魔の支配下にあった魔物たちも、支配者である悪魔の呪縛から解き放たれ、人を襲う心を失った。
かくして、戦争以外は争いのない、あらゆる種族が手に手を取り合ってクラス平和な世界が続いたのだった。
この世界には様々な種族が生活しており、一部の辺境の国を除いては、各国に多くの種族が共存している。
平和をもたらした勇者の種族である人間以外にも、エルフやドワーフといった妖精たち、トカゲや犬猫の見た目をしたリザードマンやウェアウルフ、ウェアキャットのほか、かつて悪魔の配下だったスライム、ゴブリン、ダークエルフなどの魔物たち。彼らが1つの国、街、村に共存しているのだ。
住人たちが「幻魔大戦」と呼ぶ3000年前の戦いが集結してから、何度もの代替わりを重ねた今、新たな問題がこの世界を襲っていた。
それは、「少子化問題」である。
この世界では、同種族での交配が当たり前で、ごくまれに人間とエルフのカップルからハーフエルフと呼ばれるハーフの子供が誕生するくらいであった。
しかし、平和がもたらした経済の発展により、平均寿命と物価は上昇の一途を辿り、重ねて長きに渡る平和が住人たちの「個人としての生き方」も豊かにした。
その結果、住人たちの中で「結婚して種の未来を育むこと」よりも「自分の人生を謳歌すること」が優先されてきたのである。
勇者カトルを生んだこの小さなの島国、セーラム王国もその例外ではなかった。
進む少子化、高騰の止まらぬ物価、高齢化により落ちる国力……。
その自体に憂慮した国王カトル51世は、世界でも類を見ない奇策に打って出る。国家に「異種族婚姻推進法」を制定し、異種族間で結婚したカップルを経済的に優遇したのだ。
具体的には、異種族間の結婚については、その世帯の所得税を免除するとともに、子供1人ごとにこの国の通貨100万ルビーを助成。さらに3人目以降の子供については、150万ルビーを助成する上、その子供の義務教育費用を無償とするというのである。
まだまだ異種族の婚姻には賛否両論があったものの、国民投票の結果、54%という僅差でこの法案は可決され、かくして異種族の婚姻が大々的に推奨されるに至った。
この事実は、セーラム王国の経済界にも新たな風を巻き起こした。
「異種族婚活ビジネス」が登場したのである。
たとえば、これまで人間の雄とリザードマンの雌のカップルなど、世間からは好奇の目の対象でしかなかった。
また、あらゆる種族が仲良く暮らす世界といっても、結局のところそれはあくまで「共存」にすぎなかった。学校で同じクラスになることや、同じコミュニティで働くことはあっても、こと恋愛や結婚に至っては同種族でするのが当たり前だった。
そのため、異種族の結婚を推進するためには、この国は異種族婚活ビジネスを優遇し、住人たちの心理的抵抗を取り除く必要があったのだ。セーラム王国は、異種族婚活ビジネスの新規開業については、50%の税金優遇と、開業資金の30%の助成を行なった。
その結果、多くの「異業種婚活屋」が誕生したのだった。