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ここはどこ?

母を訪ねることにした僕は、昔住んでいた懐かしのアパートにたどり着いた。

いきなり訪ねても怪しさ爆発なのは祖父の件で知っていたから、慎重に行動することにした。



「あら?新しい入居者の方かしら?それとも誰かを訪ねて来たのかしら?」


あれほど慎重に行動するよう注意していた矢先、よりにもよって壁の陰からアパートの入り口を覗いていた姿はどう取り繕っても怪しかった。僕でさえ、こんな光景を目撃したら110番通報しかねないほどだ。


案の定、早速職務質問を・・・。


「ほぇ?」


僕は心臓が止まりそうなほど驚き、マヌケな声をあげてしまった。

実際、少しぐらいは止まったかもしれない。


だが、驚いたことに職務質問ではなく、僕への単なる質問だった。


さらに、振り返るとそこには若き日の母と僕の姿があった。

今度は心臓ではなく時間が止まったような錯覚に陥った。


「・・・・・・・・・・・・」


「どうされましたか?」

沸き上がる嬉しさから母の姿に見とれてしまい言葉を失ってしまう。


優しい声、それに話し方、子供の頃の記憶が一瞬で蘇る。

そして、母に手を繋がれたままキョトンとした顔の幼い方の僕と目が合ってしまった。

慌てて目をそらすと、気を取り直して母に尋ねてみた。


「えっ、えーと。人を探してます。そ、それはですねぇ、あ、あなたです!」


緊張で呂律が回らない。何を言ってるんだ、僕は。

いや、流石にちょっとストレートすぎやしないだろうか。


「あら、そうでしたか。それでは、立ち話もなんなのでどうぞお上がりください。」


母は何の不信感も抱かずに僕を通してくれるようだ。

でも、一体何故だろう。


◇◆◇◆


「あのぉ、僕が誰か分かりますか?」


今さら挨拶からなんてのは面倒だから、手順をパスして端的に話を進めることにした。


「えぇ、もちろん分かるわよ。随分と大きくなったわね、りっくん!」


この一言で、僕の涙腺は壊れた。あの時の悲しみから立ち直り、もう二度と会えないはずの母が僕の目の前にいる。


「ねぇ、ママ。僕がりっくんだよ。」

幼い方の僕が寂しそうに言葉を紡いだ。


「そうね、あなたもりっくんよね。二人ともママの大切な子供。そして、お帰りなさい。大きくなった陸。」


母がなぜ僕の事を知っているのか、大きくなった僕だと分かるのか尋ねたけど、ただにこやかに笑うだけで結局真実は分からなかった。


「陸、決して惑わされちゃダメ。それに・・・」


母は今までとは別人のような真剣な面持ちで話し始めた。

しかし、確信に迫ろうとした瞬間、会話が途切れてしまった。


「ママ。僕、この人イヤだ!」

幼い僕が今の僕に焼きもちをやいたのか、僕の背中を何度も何度も叩き始めたのだ。



そして、激しい頭痛に襲われたかと思うと、僕の身体が何処かに吸い込まれていくようだった。

確か、以前にもこんなことがあったような・・・。


「陸。陸!!」

何度も僕を呼ぶ母の声を聞きながら、徐々に意識が遠のいていった。


◇◆◇◆


「うっ、うーん。」


「先生、患者さんが意識を取り戻しました。」

ボヤけた視界に看護師と医師の姿が写った。

ゆっくりと辺りを見渡すと、どうやら病院のベッドのようだ。

そして、隣には不安そうに僕を見つめる祖母の姿があった。


「あれ?ばあちゃん。僕は・・・」


「お前は病院の近くでトラックにはねられ、1週間近くも意識不明で入院してたんだよ。どれだけ心配したことか。でも目が覚めて本当に良かったよ。」


トラック?


「あの時、社長にばあちゃんが倒れたって言われて、確か自転車で病院に向かう途中・・・。」


記憶はそこで途絶えていた。


それよりも、入院中にもっと大切な事があったような気がするが、何一つ思い出せないでいた。


◇◆◇◆


ほどなくして退院した僕は、何年振りにも思える家に帰ってきた。


「もう大丈夫なのか?心配して何度も見舞いに行ったんだぞ!」


六花が涙目で捲し立てた。その様子からして、僕はかなり重症だったのだろう。


「ゴメン、心配かけたな。でも、ありがとう。見舞いに来てくれて。」


入社早々に入院と言うなかなかお目にかかれないことをやってのけた僕は、取り急ぎ会社に退院の報告をした。


社長は凄く心配してくれたけど、僕は申し訳なさで一杯だった。万全の体長で出社するようにとの計らいで、通院しながら暫く様子をみることとなった。


◇◆◇◆


ふと、部屋で子供の頃の宝箱を眺めていた。


「へぇー、色々入ってたんだな。うわぁ、懐かしい!」


こうしてマジマジ見ることは無かったので新たな驚きの連続だった。


写真や手紙、今まで貰ったプレゼントなど。

さらに、プラチナのリングが綺麗に2つ並んでいた。小さい方には赤い宝石が埋め込まれており、大きめの指輪には青い宝石が埋め込まれていた。


赤い宝石の指輪は見覚えがあった。

そう、母がしていた結婚指輪だ。


でも、どうして母の結婚指輪がこんな所に入っているのか。恐らくは、母の死後、祖母あたりが入れてくれたのだろう。


僕は父の物と思われる青い宝石の指輪と母の指輪の2つを懐中時計のチェーンに通した。


「これで、いつも一緒だね!」


一人きりの家族団らん、なんだかとても嬉しくて、いつの間にか眠ってしまった。


その夜、不吉な夢を見ることになる・・・。


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