何もかも変だ!
「うっ、うーん。やけに寒いな・・・それより僕はこんな所で何を・・・?」
うっすらと意識が戻り始めた僕は、道端に積もった雪の上にうつ伏せで倒れていた。
確か、自転車に乗って祖母の病院に向かっていたはずだ。
「いっ、痛い!」
全身を打撲のような痛みが走る。
「あの、大丈夫ですか?」
いきなり背後から話しかけられて一瞬ビクッとしたが、その聞き覚えのある声につられて何気なく振り向いた。
「平気平気、大丈夫。それにしても六花の口から大丈夫ですか?なーんて聞くとは意外を通り越して驚きだよ。」
「私が通りかかったとき、すでにあなたはそこに倒れていました。」
なんとも他人行儀な彼女の言葉に僕は少々苛立った。
「なぁ六花。もう冗談はやめてくれよ。何なんだよ、その態度は。」
「気に障ったのなら謝ります。でも、どうして私の名前を知っているのですか?あなたとは初対面のはずですが。」
表情からして冗談を言っているようには見えなかった。僕は幼馴染みにそっくりな他人の出現に、続ける言葉が思い浮かばなかった。
暫く頭の中が真っ白になり、キョロキョロと目が泳いでしまった。だが、地面が視界に入ると積もる雪の白さに目を奪われてしまった。
「なぁ、雪って普通、白だよ・・・な?」
突然口にしてしまった質問に、彼女はしばし呆気にとられていた。
「え、えぇ。普通、雪は白いと思います。」
僕の知る限り初めての意見だった。これまで見てきた雪は青く、誰に聞いてもそれは変わらなかった。
「やっぱり?そ、そうだよね。雪は普通、白いに決まってるよね。やだなぁ、僕は何て変なことを聞いてんだろう。
あははは、ごめん。じゃぁ、さよなら!」
とにかく、彼女には悪いが僕はその場を取り繕って家に帰ることにした。
◇◆◇◆
「ただいま!」
予想外だった。誰の返事もなかったのだ。
嫌な予感がしたので急ぎ母の仏壇に向かった。
「やっぱり・・・・・仏壇がない」
いくら何でも見間違えるはずなかった。それに部屋の様子も僕が知るものと少しばかり違っていたのだ。
ガラッ。
玄関が開く音が聞こえると、誰かが帰ってきたようだ。
「お帰りなさい!」
僕が挨拶をするや否や信じられない言葉が返ってくる。
「お前、誰だ?」
声の主は祖父だった。
「嫌だなぁ、じいちゃん。何をボケてるの?(笑)」
「じいちゃんだと!年寄りに違いないが、お前なんか知らん。くだらんことを言ってると警察を呼ぶぞ!」
祖父の表情は真剣そのものだった。身に迫る危機を感じた僕は大事になる前に撤退の方法を考えた。
「ですよねぇ、すっかり家を間違えてました。お騒がせして、すみません!」
僕は怪しまれないように、そそくさと笑顔で立ち去ろうとした。これでも十二分に怪しいと思うけど・・・。
「おい!これからは勝手に人の家に入るんじゃないぞ!全く、近頃の若者と来たら!」
ホッと胸を撫で下ろすと、一つの答えが頭の中に浮かんだ。
「パワレルワールド・・まさかね、マンガやゲームじゃあるまいし」
そうは思いつつ他に納得できる妙案がなかった。
僕の見知った顔はいるが相手は僕のことを知らない。
これまで青い雪しか見たことなかったが、ここでは雪が白い。
そしてここの人にとって白い雪が普通のようだ。
いや、考えていても仕方ない。
僕はこの不可思議な状況下で、どうするべきか思案した。
「そうだ、母の仏壇が無いと言うことは、もしかしたら母さんは生きているんじゃないか?」
くだらない思い付きだったが、僕は確証を得るため、先ずは東京の母を尋ねてみることにした。
もちろん、生きてるなら会いたいと言う気持ちが強かったのは言うまでもなかった。