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六花と祖母と意識不明・・・


高校生活最大のイベントである卒業式が終わり、校内の誰もが浮き足立っていた。


僕は一足先に学校を飛び出すと、青い雪が降り積もるなか、今日で最後の制服姿で通学路を歩いていた。


「ねぇ。帰りにあんたの家、寄ってもイイ?」


声による奇襲攻撃にかなり驚いたが、声の主が六花だと気付くと悟られないように平静を装う。


「来るのは良いけど・・・六花も暇だな。

他に行く所ないの?」


「何よ、たまにはあんたの家、

行ったって良いじゃない。」


こんなこと言ってるが殆んど毎日のように来てたりする。


「なあ、六花。雪って何色だっけ?」

僕は今更ながら尋ねてみる。


「何よ今更。青に決まってるじゃない!

変なのぉ。」

やはり期待通りの答えだった。


他愛もない会話が続き、家の前まであと10歩の所まで来ていた。


◇◆◇◆


「ただいま、母さん!

今日で無事、高校を卒業しました。

春からは社会人として頑張ります!」


僕は仏壇に線香をあげながら、母に報告した。

六花も続いて仏壇に手を合わせてくれた。


「おばさん、私は春から大学生になるの。

女子大生よ、女子大生!

それにしてもおばさん、いつ見ても綺麗よね。」


六花が率直な感想を述べたが、写真は年をとらないわけで、いつ見ても同じだと思う。

でも、母が綺麗なのは間違いないわけで・・・。


この時、僕は何故だか分からなかったが、

今までの出来事を思い出していた。


◇◆◇◆


母が亡くなって以来、僕は祖父母の家で暮らしていた。ここに来た当初は母がいない現実に心を閉ざしがちだった。


そんな僕の気持ちなどお構いなしに、人の心にも、人の家さえも土足で踏み込む、天真爛漫な少女がいて、塞ぎこんでる暇などなかったなぁ。


祖父母は農家を営んでいて、少しでも何か手助けしたかったから、僕は慣れない農作業に一生懸命だったっけ。


そう言えば、祖父につれられ用水路で釣りをしたんだ。あの時は本当に嬉しかったなぁ。

確か小さい頃、釣りがしてみたかったんだよね。


中学では文芸部に入り、創作や読書三昧の日々だった。丁度この頃かな、宝箱に封印していた母の写真を飾れるようになったのは。


高校に進学した僕は、少しでも家計を助けるためとお小遣い稼ぎのため、コンビニでバイトしながら農作業を手伝ったものだ。


そうそう、そんな僕が近所でも評判の孝行者として、ちょっとした話題になったっけ(笑)


それに、改めて思うと幼馴染みの立花には、随分助けられたんだ。世話女房みたいにお節介を焼く癖に、実際は何もしないと言う(笑)


「ありがとう、六花」

やばっ、声に出ていたよ。

いきなり感謝したって意味不明だよな。


「ほぇ?いきなりどうしたの?熱でもある?

ははーん、やっとこのあたしの偉大さに気付いたなぁ?(笑)

ほら、もっと感謝しても良いわよ!

それと、携帯。いい加減、携帯買いなさい。」


話が繋がってる、さすが幼馴染みだけのことはある(笑)


でも、この異性を感じない男っぽい性格さえマトモだったら、ビジュアル的には美少女だから、ある意味人気者なんだけどな。


「携帯、僕には必要ない。

だって連絡とると言っても、六花とかじいちゃんやばあちゃんくらいだし。

それよりもだなぁ、いい加減そのツンデレモドキのキャラはやめろよ。

だいたい、六花の場合、ツンしかないの、ツンしか(笑)

そろそろ暗くなるし、今日はもう帰る?」


「うーん、そうねぇ。久しぶりに泊まっちゃおうかな?」


こう言う所は昔のまんまなんだから(笑)

こうして僕たちは会話が弾み、いつの間にか子供の頃みたく布団を並べて眠っていた。


「ありがとう、六花」



◇◆◇◆



季節は4月。

僕はと言えば、今日から社会人一年生。

地元の会社でバリバリ働くのだ。


「母さん、これから会社に行ってきます。

一生懸命頑張るから見守ってください。

そうそう、あの時の時計、やっと出番が来たよ。

大切に使わせてもらうからね。」


僕は、思い出のプレゼントである銀の懐中時計をポケットに、居間にいる祖父母の元へ向かった。


「じいちゃん、ばあちゃん。行ってきます!」


「お前もすっかり立派になったもんだ。

男なら弱音を吐かず、頑張ってくるんだぞ!」


祖父からの激励の言葉が、嬉しくもあり照れくさくもあった。祖母は喜びのあまり涙ぐんでしまい、僕も少しだけ目が潤んだ。


◇◆◇◆


「おはようございます!本日よりお世話になります。よろしくお願いします!」


会社に到着した僕は、精一杯の挨拶をした。

ここまでは自転車でも10分ほどで、途中には以前バイトをしていたコンビニがある。


また、小さな会社だけど、地元ではこれが結構有名なのだ。


「元気だな、新入り!今日からよろしく!」

「はぁ、どうも。」


先輩なのか上司なのか分からなかったけど、いきなりの返礼に思わず素で答えてしまった。


後で分かった事だけど、この人が社長であり面接の時は緊張のあまり、顔など覚えていなかった。

きちんと謝罪したのは言うまでもない(笑)。


◇◆◇◆


定時になり、初日と言うことも手伝って僕はぐったり。

当たり前だが学生気分とはまるで違い、気疲れとでも言うのか足腰フラフラ。


「お疲れ様でした。お先に失礼します!

明日もよろしくお願いします!」


本当に疲れたから最後の元気で挨拶をする。


「お疲れ様!初日で疲れたろう?

ゆっくりビールでも飲んで疲れをとってこい!」


おいおい社長、僕はまだ未成年ですが。。。


「彼、まだ未成年よ(笑)」


事務の女性、ナイスなツッコミ(笑)


「ありがとうございます。失礼します!」


会社を出た僕は、新たな環境に意気揚々としていた。


◇◆◇◆


ようやく職場になれて来た頃、突然社長に呼ばれた。



「お前んとこの婆さんが倒れて、

総合病院に搬送されたと連絡があった。」


何を言っているか理解するのに数秒の時間を要した。僕の口から言葉が出るよりも早く社長の第2声が飛んできた。


「今日はもういい、早く行ってやれ!」


「はい。ありがとうございます。

今日はこれで失礼します。」



僕は考えるよりも先に会社を飛び出し、自転車でその病院を目指した。時間にしてここから5分程度、でもこんな時はことさら長く感じるものだ。


◇◆◇◆


病院が見え始め、気持ちが焦る。祖母の容体も気になる。

信号のない見通しの悪い交差点、僕はそのまま自転車を走らせた。


(ガシャーン)


遠ざかる意識のなか、僕はトラックの幻影を目にした。


目撃者の証言では、マトモにはねられたそうで、映画ETさながらに自転車で数十メートルは空中浮遊したらしい。


◇◆◇◆


不思議なことに外傷はおろか、どこにも異常はみられないそうだ。だけど僕の意識は目覚める気配がない。


祖母の様子を見に来たはずなのに、元気な祖母の隣りで意識不明の僕が寝ているだ。


祖母はと言えば、軽い貧でく暫く点滴を打ったら帰って良いそうだ。


その代わりに僕は重症(笑)

笑えなかった・・・社長に何て言おう。


◇◆◇◆


「陸、早く来て。お願い、早く起きて・・・」


誰かが呼ぶ声がする。しかも僕の名前を呼んだ気がした。

意識は無いはずなのに身体に激痛が走ると、何処かに吸い込まれるような気分だった。


意識が向かった先で、ようやく僕は目を覚ました。

そこで目にした光景は、一言ではとても表せないものだった。


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