新たな出会い
祖父母が突然訪ねて来た。
確か父方の祖父母だったと思う。会うのは何年ぶりだろう?
母と祖母は何やら難しそうな話をしてたが、それが一段落すると、母はいつもより長く僕をギュッと抱きしめた。
普段と変わらない笑顔だったけど、少し大きめなバッグを手にして母は家を後にした。
◇◆◇◆
その夜、祖母から色々な話を聞かされた僕は、驚きのあまり戸惑いを隠せなかった。
難しい話が多かったけど、僕にも分かったことが3つある。
母が難しい病気にかかって手術のために入院した事。
母の両親、つまり母方の祖父母は、病弱だった父との結婚をずっと反対していた事。
そして、その祖父母はすでに亡くなっていた事だ。
母が入院中、祖父母の家で過ごすことになった僕は、休学することになった。
今回、その手続きのために祖父母はアパートまで来てくれたそうだ。
◇◆◇◆
お昼頃。僕が初めて病室を訪ねると、そこには元気な母の姿があった。
久しぶりに見た母の笑顔に、気持ちを抑えきれなくなった僕は矢継ぎ早に語りかける。
「りっくんが元気そうで、ママ嬉しいわ。おじいちゃんとおばあちゃんの言い付け、きちんと守ってる?」
「うん。おりこうさんにしてたよ。ね、おばあちゃん!?」
しばらく会話をしていると、祖母から病院の隣にある公園で遊んでなさいと言われた。
僕は言われた通り公園に足を運ぶと、砂場では小さな姉妹が砂遊びをしていた。
「遊ぼう!?」
僕は律儀に挨拶すると、快く仲間に入れてくれた。
ひとときの出会いだったけど、同年代と一緒に遊ぶのは久方ぶりだろう。
僕たちは時間を忘れるほど夢中になり、ブランコや鉄棒、砂場でトンネルなどを作って楽しんだ。
祖母が公園まで迎えに来てくれた時、すでに夕方が終わろうとしていた。
「ママ、早く良くなってまたお出掛けしようね。」
「そうね、ママが早く元気になるように、りっくんもお利口さんに待っててね。」
頬に口づけをされ、照れた表情の僕を見た母はニコニコと嬉しそうに微笑んだ。
お見舞いに来て本当に良かったと思えた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
祖父母の家に来てから幾日か過ぎた頃、近所に住む女の子が遊びに来るようになった。
名前は六花と言うそうだ。
りっかとは雪の結晶を意味するらしく、僕とは同い年だ。
雪にはおよそ似つかわしくない日焼けした素肌と長い黒髪が印象的な少女である。
「ねぇねぇ、いつも本ばかり読んでて楽しい?」
「うん、楽しいよ。りっかちゃんは何してる時が楽しい?」
本からは目を逸らさず、適当に会話を続ける。
「そうねぇ、おやつを食べてる時(笑)」
「・・・・・」
僕は質問を投げっぱなしのまま、読書に夢中だった。
「あ〜、あたしを無視したぁ。本なんか読むのヤメて外で遊ぼうよぉ。」
「虫取りしたの?・・・・・・・・・・・」
「退屈だから帰る。もう来てあげないからね。」
僕は無言のまま、静かになった縁側で読書を続ける。
もう来ないなんて言っておきながら毎日のように遊びに来る彼女は、家に泊まっていく日も多かった。
でも、彼女のおかげでそれなりに楽しい日々を過ごせた。