最高のバースデープレゼント
僕が8歳の時。母と二人、アパートで誕生会をした。
母は無理をしてケーキを用意してくれた。それはイチゴのショートケーキだった。
1本のロウソクとイチゴが乗った白くて可愛い小さなケーキ。
僕はまともなケーキを初めて見れたのでとっても嬉しかった。
薄暗い部屋の中で、揺らめくロウソクの炎が淡いグラデーションを放ちとても幻想的。
狭いテーブルには見たことのないご馳走がそこかしこに並んでいる。
「そうだ、りっくん。ママと一緒にお写真を撮ろう!」
母はカメラをセットすると、急いで僕の隣りに歩み寄る。
「ハイ、チーズ!」
母は嬉しそうに何度もシャッターを押す。
二人の笑顔を散りばめたアルバムの完成だ。
母はすぐさま写真をプリントアウトすると、一緒に写真展覧会を始めた。
母は席を離れると、向こうの方から僕に言葉を投げかけた。
「りっくん。ママがいいって言うまで目を閉じててね。」
僕はワクワクを必死に抑えて目を閉じると、コトっと何かを置く音が聞こえた。
「はい、もう目を開けていいわよ。」
リボンで結ばれた綺麗な箱が目に飛び込んでくる。
「ママ。この箱、開けて良い?」
僕は半ばフライング気味にリボンをほどくと、入っていたプレゼントに心を奪われた。
おとぎの国の魔女と書かれた絵本、それから僕にはまだ少し早そうな銀色の懐中時計が入っていた。
懐中時計には美しいレリーフが刻まれ、所々小さな傷があるものの、絵本の表紙に描かれた魔女が手にするものとよく似ていた。
この日は嬉しさと興奮のあまり、夜が更けてもなかなか寝られなかった。
静まり返った暗い部屋。
かすかだが、すすり泣くような声が聞こえてくる。
僕は寝たふりのまま暫く耳を傾けてみたが、急に怖くなって頭から布団を被ってしまった。
そして、薄れ行く意識の中で母の声を聞いた。
「ゴメンね、りっくん」
◇◆◇◆
翌朝。目が覚めると、そこにはいつも通りの母が優しく微笑んでいた。