そこは少女の楽園
次の朝ーーーー。
少女は、いつも執事の起こしに来る時間よりも、早くに目覚めて、ベットから起き上がり欠伸をしました。
窓を開けて、空気を思いっきり吸い込みます。この時間に起きた少女は決まってあるところに外出をします。
今日は、どんな動物達に出会えるのかしら?
そう、「森」に遊びに行くのです。
早く起きれた日や、霧の濃い朝などを見計らって少女は一人で「森」へ遊びに行きます。
朝の日の光を浴びる生活よりも、種族のせいか、晴れた空の下で木陰を歩く朝を好みました。
起こしに来るまでには戻ってきて欲しい。
と、以前出かけた際、心配をさせてしまった自分の執事に、言われていた事を思い出しました。
側にあった懐中時計を持ち、お屋敷の玄関ではなく、いつものように寝室の窓から飛び降りていきました。吸血鬼であることから、普通の人間の身体能力よりも、はるかに高いので問題はありませんでした。
森に移動して、少し歩けばもう木陰と木しか見えなくなるくらい、そこの森は鬱蒼と茂っています。濃い霧の中を、少女はゆっくりゆっくりと歩いていきます。
息を吸って吐けば、身体の中に新鮮な空気が循環します。
少女は森の空気を好みました。
新鮮で、いつもの日常の中で、頭の中を真っ白に出来る、そんな空間を愛しているのです。
もっと奥まで歩いて行けば、大きな湖が拓けており、そこの前で座り込むのが少女のいつもの決まりになっています。
緑の匂いを鼻いっぱいに嗅いで、目をつぶれば、すぐに眠れそうな穏やかな朝が、少女を包みます。
森の動物さんたち、元気にしてるかしら……
でもまだもう少し目をつぶっていたいわね……。
……。
寒さも暑さも感じないこの少女は、草のベットに身を沈めます。
少女は思いました。
どこよりも天に近い…この場所がすごく好き。
ここは、地獄からより遠くに離れた楽園。
アダムとイブの二人しか存在しなかった世界…
そして、闇を知らなかった者たちで溢れた白の世界。
私の居場所は、誰にも渡したりしないわ…。
命を全て捧げたとしても…。