とんでもない客人 2
「どうなの?小さな身体のご主人様」
天使のアンリに言われて、主人は執事の前に歩み出ます。
「私がそちらに、行かなければいけない理由が何かあるのかしら?」主人は、落ち着きはらった声で、キッと天使の顔を睨みつけます。
「私にも、何が目的なのかは分からないわ。上が命令するという事は、何か特別な想いがあるのでしょう」微笑みを浮かべた天使は、淡々と言葉を紡ぎます。
声を低くして、
「もしかして、あなたのお父様とお母様のことで……何かあるのかしら…?」クスクス
天使が小さく言った言葉さえも、聞き逃さなかった主人は怯むことなくこう言いました。
「お父様とお母様はもういないわ。
今更何を言ったとしても、私はそちらには行かないわよ」
「ご主人様」気がついた時には、手を伸ばせば届くほどに、至近距離にいた天使に驚きました。
「ヘーゼルの瞳と、
チョコレート色の髪、
このキメ細やかな白い肌、
幼くみえても、魅惑的な表情で惹き付ける
この顔…」うっとりと見つめて来たかと思えば、手を伸ばしてきた天使に素早く反応したのは前にいた執事でした。
少女の前に立ちはだかり、ニッコリと微笑んで言いました。
「こちらでお引き取りください、アンリさん。あなた様の要件は済んだはずです」
執事が言うと、天使は瞳の色を金色に変えて、仁王立ちでこう言いました。
「いいえ!私はそちらのご主人様を連れて帰るまで、一歩も動いたりはしませんわよ!」
ハァとため息を着いた執事は言いました。
「なんと往生際の悪い方でしょう。ねぇ、お嬢様」苦笑いをして主人の顔を見ます。
「面倒なのは、あなただけにしてほしいわ。なんでこんなにも、私を連れ戻そうとするのかしら。
アンリさん、上の者をこちらに呼んで頂ければ、話だけはして差し上げますわ。今日はこの辺で帰って頂けないかしら?」
主人は天使をなだめます。
「分かりましたわ。あなたに免じて今回はこれで帰ります。次に会う際は、約束通り、ちゃんと上の者と話をしてくださいね。」
「私の気が変わらないうちに寄越すのね」
天空に消えていく翼を見届けながら、執事の方に顔を向けました。