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同窓会 会いたくなかった人との再会

「今までありがとう」


 ずっと言わなくちゃって思ってた。でも言えなくて。今日は絶対に言うって決めてたのに。


「時々辛そうな顔してたのに、付き合わせてごめんな」


 首を振ることしか出来ない。泣いちゃダメって、私が泣くのはダメって思ってたのに、涙が溢れて止まらない。

 言わせてごめん。最後まで情けない私でごめん。どれだけ謝っても足りないのに、言葉にならなくて、ただ首を振り続ける私に、村下はどこまでも優しくて、


「泣いてくれてありがとう」


 震える声で、そう言って、


 きつく抱き締めてくれた。






 翌日には松田くんと浅田さんが突撃してきた。昨日の部活の打ち上げで村下から聞いたそうだ。


「ごめん。そんなことになってるなんて知らなくて、俺ら相談するばっかりで、全然聞いてあげられなくて」


 松田くんはなんだか悲痛な顔でそんなことを言ってるのだけど、浅田さんは正反対で、怒りモードだった。


「言ってくれたら良かったのに。二人ともおバカさん越えて大バカさんよ」


 そんな浅田さんは放置して、松田くんが昨夜村下から聞いた話を教えてくれた。


 村下にとってあの言葉は賭けだったそうだ。「これからもよろしく」と続けることも出来る言葉だから。


 ああ、そんなことも思い付かなかった私は本当にバカだな。最後まで傷つけることしか出来なかったんだな。そう思ったら、また涙が止まらなくなった。昨夜もさんざん泣いたのに。


「二人は俺にとって憧れだったよ。寄りかかるんじゃなく、自分の足で立ってる二人が寄り添ってる感じで、きっと全校生徒の憧れだったよ」


「だからバカなんじゃん。端から見たらちゃんと好き合ってたのに。好きの上限ってバッカみたい。あんなに好き好きオーラ出てたら不安なんて感じないし、もっと欲しいなんて私だって思わないよ!」


 隣で松田くんがぎょっとしてるのが可笑しくて、泣きながら笑った。何気に松田くんの愛が足りないって言ってるもんね。


 でもそれは違うの。村下は嫉妬して欲しいとか、そういうの言ったかもしれないけど、それが理由じゃないんだよ。村下の想いに応えられなくて苦しいって思ってる私を見ているのが辛くなったんだよ。私をその状態のままにしておくことが出来なくなったんだよ。


 私は始めから恋にならないって、思ってた気がする。相手がやりチンだから、こんな私でも大丈夫って、安易に始めたんじゃないかって、ずっとそれを後悔していて、だからどれだけ村下が尽くしてくれても苦しくなる一方で、だから、始まりから間違ってたんだよ。


 私はちゃんと思ってることを伝えられたかな? 二人に伝わったかな? 不安に思いながら見送る私に、松田くんが言いにくそうに、頬をポリポリしながら告げてくれたのはとっても微妙な内容で


「村下って一年の時コロコロ彼女が変わって、手当たり次第とか周りから言われてたんだけどね」


 うん。しっかりこの耳で聞いたよ?


「何て言うか、付き合うまでは凄く楽しそうなんだけど、付き合い始めると途端に面倒そうな感じになるっていうか」


 そうなの? 凄く優しくてマメだと思ったんだけど。


「だからもしかしたらだけど、気持ちを返せたら逆の立場だったかもしれないよ。だからそんなに気にしなくてもいいと思うよ」


 なんだかあり得る話で複雑な心境です。要するに相手の気持ちが分からないくらいの方がのめり込みやすい男ってことでしょうか、ね。


 仲良く帰っていく二人の姿が私と村下の姿と重なる。仲は良かったんだよなあ。村下が私を好きにならなかったら上手くいってたのに、なんて考えてしまいました。




 さあ、寝よう。ナーバスな気分を明日に持ち込まないためにぐっすり眠ろう。

 毎晩、呪文のように唱えて目を閉じる。あの日から眠りが浅くなって、ふと思い付いて始めたお祈りタイム。少しでも深い眠りにつけますように。


 睡眠力を養いながら入学の日を迎えた。


「顔出すだけでも良いから。もちろんお金も取らないから」

「そこまでして誘う理由を50字以内で述べよ」

「レアキャラの水嶋さんをエサに企画しました。すみません」

「素直でよろしい。だが断る!」


 合コンは参加しません。流されやすさには定評があります故。

 夏になると一気に合コンの誘いが増えた。出会いは無用。もう失敗したくない。ちゃんと好きになった人と付き合うと決めているのだ。


 読書の秋は、恋愛小説を読んで恋心を学びます。


 イベントの多い冬はうんざり。クリスマスはイエス様の誕生日であって、一人で過ごそうと文句を言われる筋合いはない。


 春は嫌い。その温かさと香りだけで切なくなるから。


 夏、初彼とバッタリ再会した。聞き覚えのある声に視線を向けると、友達と騒いでいた彼と目があった。

 少し話をして別れたけれど、お互いのバイト先がすごく近くて、夏休みはちょくちょく会った。

 彼なら大丈夫。流されるようなムードを持ち合わせてないから。



「明けましておめでとうございます。そして成人おめでとうございます」


 冬、卒業してから一年と十ヶ月経ちました。

 今日は1月3日です。成人式を迎える今年のお正月は、地方の大学へ行った子たちの帰省率が高いということで、同窓会のお誘いを受けました。他のクラスも今日別の会場で行われていて、これが終わったら部活の同窓会も開催されて、とにかく今日この界隈、我が母校の最寄り駅近辺にはたくさんの同い年の卒業生がいて、私の隣には松田くんがいます。


 居酒屋の宴会場みたいな座敷の部屋に入ったら、幹事にこの席に座るように言われました。他の人は自由に座ってるのに。

 避けてたんだけどな。あ、だからかな。松田くんが幹事に頼んだのかな。


「浅田さん元気にしてる?」


 乾杯のあと、私から話しかけた。変に緊張してる松田くんを見るに見かねて。あからさまにホッとした顔をする松田くん。


「うん。水嶋さんに連絡つかないって嘆いてたよ」


「突然な話で悪いとは思ったけど、どうしても話したくなくなったの。顔も見たくないくらい」


 心臓がヤバイんじゃないかと思うくらいドクドクした。松田くんの顔が見れない。でも分かる。きっと驚愕って顔のお手本みたいな顔をしてる。ああ、手が震えてきちゃった。どうしよう。


「彼女、何か気を悪くするようなこと、言ったのかな」


 首を振って、思いきって言った。だって隣に座るようにセッティングまでしたのは松田くんだ。もう言っちゃえ。


「私、松田くんが好きだったの。高校3年間ずっと」





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