三年生 愛の行方より受験だ!
中間テストが終わり席替えです。
廊下側の端の列、一番後ろの席を引き当てました。松田くんは同じ列の前から二番目です。
席替え以降、やたらと松田くんになつかれています。休憩時間の私の席への訪問客は松田くんの彼女から松田くんに変わりました。彼女を説得する方法を相談されたり、説得を頼まれたり。話してる内容は彼女サイドから松田くんサイドに変わっただけで、ほぼ同じ。
「おたくらが羨ましいよ」
ん?
「自立してるもの同士のカップルって感じで」
痛い。胸が痛い。このささやかな胸が。
「あ、ごめん。言わないだけ? そっちも色々あるよな。ごめん」
ああ。顔に出ちゃったか。
村下は優しくなった。態度がもう凄く柔らかい。無理してるようには見えないから、表に出してスッキリしたのかもしれない。でも優しくされればされるほど私は罪の意識で苦しくなる。
同じだけ好きになれたら良かったのに。
「ほどほどでもいい。俺のことが一番好きならそれでいいよ。そもそも好意の重さなんか計れるもんでもないし、もしかしたらお前の好きの上限がここまでなのかもしれないし。なんかそんな気がするな」
そう言って笑った。それが村下が出した結論だった。
私は村下の言葉に甘えて思考停止中。
受験生は忙しいのだ。
中間テストで手応えを感じたのか、村下も大学への進学を決め、二人で夏休みの補講を組んだりしながら、ストレス発散のために猿になる。
恋愛感情については考えることを放棄して、そのまま夏休みに突入。勉強とストレス発散に明け暮れて、あっという間に夏休みは終わった。
「二人ともA判定って凄すぎ。勉強法にコツでもあるの?」
ストレス発散パワーだよ。なんて松田くんにはとても言えない。
松田くんの彼女の最近の愚痴のネタはまたそっち方面になっている。受験生だから控えているらしい。月に三回までって私たち時間があったら一日三回しちゃってるよ?
彼らにとっての愛の行為は私にとってストレス発散なんだよね。
村下はどうなんだろ。元々やりチンだからなあ。スポーツの一種くらいに考えていそうだ。
私の不埒な思考はさておき、松田くんの大きなため息が聞こえてくる。これは彼が話を聞いて欲しい時の癖みたいだ。顔を向けると渋々という感じを装って話し始めるのが子供っぽくて笑える。
「滑り止めのランク落とせって親に言われてる」
なるほど。それくらい模試の結果がよろしくないと。かなり深刻ですね。と一瞬思ったんだけどね。落として私の志望校であることが判明。おのれっ 人の本命を滑り止めにするんじゃない。もっと落とせ!
「私が就職して雄ちゃんの予備校の費用を出す!」
松田くんの成績不振によって、松田くんの彼女は選択肢を増やしてしまった。彼女の未来は松田くんと共にあることが彼女の中で決まっている。だから、松田くんがいい学校を出ていい就職をするのも自分の未来のためってことなんだそうな。
松田くんの受け入れられる範囲を越えてるって。
「予備校での出会いとか、大学生活での出会いとかで大騒ぎしない覚悟はできたの?」
「費用を負担するために結婚する!」
新婚生活の大黒柱が彼女かあ。
松田くんのひきつる顔がリアルに想像できた。ご愁傷さま。
「自分の人生を他人任せにするような奴に依存されまくってたら、逆に自立心旺盛な女に魅力を感じそうだな」
村下のこの発言が松田くんを救った。
彼女に村下の言葉を伝えた時、彼女の頭の上に「ガーン」という文字が見えた気がした。
そして彼女の選択肢に、松田くんが落ちぶれても養っていける高収入の女という項目が増え、松田くんの顔はやっぱりひきつっていた。
もう好きにしてくれ