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三年生 悩み多きバカップル

 月日が経つのは早いもので、三年生になりました。いよいよ進路も大詰めを迎えます。


 クラス替えにより、再び松田くんと同じクラスになりましたが、松田くんが一番後ろ、私は一番前、と席は大きく離れました。

 そして隣のクラスから松田くんの彼女が私の元に通ってきてます。のろけたり愚痴ったりするために。


 彼らの付き合いは深い。とても自然にお互いの将来のことまで視野に入れているのだ。ひるがえって私と村下はというと、離れたいとは思わないけど、結婚?こいつと?という感じだ。


 志望校に関しては、私は元々自分の頭脳で入れる大学の中で一番家から近いところに焦点を合わせていたので、頑張るだけで悩みはない。

 村下は専門学校を検討中だけど、先生に大学を勧められていてお悩み中。希望している専門職が教諭陣次第で就職に大きく響くらしくて大変そうだ。


 そして松田くんカップルはというと、彼女は同じ大学の同じ学部に進みたいが、その為には松田くんに合わせてランクを下げることになり、松田くんがそれに反対しているところだ。


「だって雄ちゃんモテるもん。絶対大人っぽいいい女に目をつけられる~」


 松田くんは雄大くんという名前です。みんな松田って呼ぶから彼女と親しくなるまで知らなかったけどね。ちなみに彼女は浅田莉菜ちゃんです。彼女が私を水嶋さんと呼ぶので、私も浅田さんと呼んでいます。村下との会話では松田くんの彼女で済ませていることは内緒です。


 松田くんがモテるというのは、彼女の欲目ではない。同じクラスの女子が松田くんに話しかける時、声のトーンが違う。新入生が入るたびに彼女アピールを必死に頑張っていなかったら、告白もされていた可能性が高い。


「目をつけられても浅田さん以外の女に松田くんが目を向けるとは思えないけどなあ」


「信じてるけど! 万が一とか酔った勢いとかあるじゃん」


 その状況すら想像出来ないんだよなあ。

 まあ、どうせ進路の問題に口出しなんて出来ないんだし、聞いてあげるくらいしかないんだよね。


「彼女の不安を煽らない方向で、言ってる内容を肯定する言葉ってのがあれば良いんだけどね」


 温めたタオルを持って部屋に戻ってきた村下に、ベッドに入る前に交わした話の続きをふってみる。


「ほっとけ。お騒がせバカップルのことなんか」


 それだけ言うと黙々と私の身体を拭いてくれて部屋を出た。


「日に日に不安が高まってるみたいなんだよね。あれが松田くんに全部向かったら大変だよ。ちょっとはガス抜きしてあげとかないと」


 軽くシャワーを浴びて戻ってきた彼に再び切り出してみると


「だからって、俺らの貴重な時間をそんな話に使いたくないんだけど?」


 色っぽく首を傾げながら飲み物を渡してくれて、ベッドに潜り込んできた。飲み終えたグラスを渡すと、素早く机に置いてベッドに戻ってきて、今度はゆっくりと抱き締めてくれる。拭いてもらった私もシャワーを浴びた村下もサラリとした素肌でとても気持ち良くて、実はこの時間が一番好き。


「つーか松田の女が抱えてる不安って、まんま俺の不安なんだけど?」


 最近の村下はやたらと愛を語りたがる。松田くんの彼女と村下とでは愛の大きさが違うのは一目瞭然なのに便乗されても返事に困るだけだ。


「お前はないわけ?」


 松田くんにしても村下にしても、他の女に目を向ける姿は想像出来ない。二人とも目立つし放っておいたらモテるだろうけど、それでも何故か私は、他の女が隣にいる光景というのを想像して不安になるようなことは無かった。


「信じてるのかなあ」


「ぶっ」


 村下は思いっきり吹き出して、苦しそうにお腹を抱えて笑った。失礼な奴だ。


「信じるってのは、もっと美しい感情だ。お前のはリアルに想像出来ない。してもさほど問題にならない。傷つかない程度の話って感じだけどな」


 なんと!

 申し訳ないことにストンと落ちてしまった。


 村下は私の頭を自分の胸に抱き寄せて、頭の上で呟いた。


「やべえ。泣きそう」


 この時に初めて、私たちの気持ちの温度差に気付いた。


「ごめん」


 村下は今まで上手く隠してきたんだな。きっとずっと気付いていたに違いない。申し訳ない。






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