二年生 やりまくりの日々
今日から二年生、クラス替えです。
うちの学校では下駄箱の側面にクラス名簿を貼り付けるだけという手抜きとしか思えない掲示しかしてくれない。8クラスあるので1組から見ていって8組だったりしたら全クラスの下駄箱を確認することになる。ということに気付いてため息をつきながら一番空いてた3組の列に並んだ。
「あ、村下が水嶋と同じクラスだ」
お隣の4組のクラス名簿を見ながらの松田くんの声で下駄箱巡りは終了、というか、まだ巡ってもないよ。ラッキー。松田くんに出席番号を見てもらおうと思ったのだけど、
「水嶋桜? 女じゃん。知り合いなら忠告しておいたら? あいつは手当たり次第やりまくる男だぞって」
こらこら。松田くんの友達よ。そういう話題で人のフルネームを大声で読み上げないで欲しい。噂の村下らしき男子がその大声に気付いたらしく、近付いて会話に入った。
「水嶋? 知らないなあ。可愛い?」
うん。動じない奴だった。松田くんも普通に会話を続ける。
「派手じゃないけどキレー系。でもスゲー口が悪くて面白い」
村下が出席番号を確認して、場所を移動しながら彼らの会話は続く。村下の上が多分水嶋で、つまり村下が入れた下駄箱の上が私の下駄箱で、だけど自分の話をしている集団に近付くというのもねえ。ネタもあれだし。
結局おとなしく4組の列に並んだ。
「3組出身の村下樹です。水嶋さん狙ってます。よろしく」
恒例の自己紹介は出席番号1番と32番がジャンケンをして、負けた32番からスタートした。つまり私の前に村下です。ぐぬぬ。負けてたまるか。
「6組出身の水嶋です。村下くん狙ってます。よろしく」
盛り上がるクラスメイトたちのお陰でシャレで終わらずカップル誕生になってしまった。早まったかな?
村下はムード作りの上手なやりチン君だった。流されやすい私が相手だとところ構わず俺のポークビッツがウインナーになり、やがてフランクフルトになるので困ると嘆かれてしまったので、私は自分がムードに弱いことを知った。今更だけど初彼に教えてやりたいよ! 大事なのはムードなんだ!
「そんなに口悪くないよなあ。俺に嫌われたくない!とか可愛いこと考えて本性隠してたりする?」
ある日のピロートークで村下が聞いてきた。
「あれは誤解というか、初対面でげ、とか言っちゃったから、そういうイメージになったんじゃないかなあ」
と、私は入学式の後の松田くんとの会話を話して聞かせた。
「あ、お前、あれか。そうだ。そういえば水嶋って名前だったわ。あー納得」
なんだそれは。何を納得しているのだ。
「お前らのクラスに松田と同中の女がいてさあ、松田の彼女に松田が女子と仲良くしてたってチクったのよ。そんで松田の彼女が翌日から休憩時間のたびに松田の教室通ってさあ、他の女に私が彼女ですアピールを必死にしてるのに松田は何にも気付かず彼女が教室から出た次の瞬間には問題の女と仲良く話してるというね。ハハハ」
松田くんの居ない時に部室で笑い話になったそうです。そういえば彼女の来る回数が減ったのは、最初の席替えで私と松田くんの席が離れてすぐだったような? 私に牽制してたのね。うん。ゴメン。私も全く気付いてなかったわ。
私と村下はほとんどベッドの中で過ごした。思春期真っ盛りのカップルなんてそんなもんだと思っていたのだけど、そうじゃないカップルも身近にいた。
松田くんの彼女からこっそりと相談を持ちかけられたのは夏休み直前の昼休みのことだった。冬休みと同じことをいまだに悩んでいるそうな。なんで私に、と思ったけど一度ぶっちゃけてる仲だからということらしい。清らかなイメージの彼女の回りにはそういう相談が出来るタイプの友達は居なさそうだしね。
とはいえ、私も男をその気にさせるコツなど知らない。村下に相談しても良いか聞いてみる。
松田くんの彼女は迷った末に松田くんには絶対内緒にして貰えそうなら相談して欲しいと言ってきたので、その辺りは自分で判断してくれと三人で話すことにした。私なら絶対に出来そうにないなあ。彼氏の友達にそういう相談。そんなにやりたい? 愛の確認とかそんな崇高な行為でもないぞ?
私たちの人選は大当りだった。
村下の策略により村下家のご両親が留守の日にお泊まり会を開催。松田くんは自分が村下の部屋で、女子二人が客間の布団で、と思っていたようだったけど、私と村下が村下の部屋へ消えるのを当然のように見送る彼女を見て覚悟を決めたようだ。やれやれ。羊系男子を彼氏に持つと大変だね。
翌朝、彼女は満足気な笑顔で、松田くんは恥ずかしそうに現れた。
おめでとう。松田くん。
立派な猿になってくれ。