高校一年生 初彼とあれこれ
入学式は男女混合の出席番号順に並んで座った。私は右端の椅子で、隣も後ろも男子で、前の女子は隣の子と話していて後ろに話しかけてくることはなかった。始まりから終わりまで一言も話すことなく、ただ座っていた。
そのまま並んで退席し、隣の男子の後ろについて教室に向かう。父兄は役員を決めるとかで、体育館に残った。
「ラッキー! 後ろから2番目って実は一番後ろより目立たないって知ってた?」
入学式で隣に座っていた男子が一番後ろの席に座ろうとしている私を振り返って、嬉しそうに話しかけてきた。
「げ、んじゃ私の方が寝られないってことじゃん」
「おう。気を付けろよ」
高校に入学して第一声が「げ」ってどうなんだよ、私。
でも誰かと話ができてホッとしていた。
彼はそのまま担任が来るまで椅子に横向きに座っていて、私たちは出身校の話から塾で知り合った共通の知人の話とか、とりとめもなく会話して過ごした。
彼は松田くんで私は水嶋で、きっと同じクラスになるたびに出席番号順で前後になるね。
翌日、教室に入ると松田くんの机の横に女の子が立っていて、席に座っている彼と親しそうに話していた。彼女はチャイムが鳴ると急いで教室を出ていった。別のクラスの女の子が入学して二日目で会いにくるってことは彼女かな。
清純派というか清らかな雰囲気で、明るい松田くんとお似合いです。
彼女は休憩時間のたびにやって来た。松田くんが友達と話していても、自然にその輪の中に入っていく。周りも当然のように受け入れていて、二人が付き合っていることは誰も言葉にしなくても広く知られていった。
チャイムが鳴ってから先生が教室に来るまでの短い時間、松田くんはやっぱり椅子に横向きに座って私に話しかけてきた。宿題の話とか部活の話とか、割りと話が合って何気に盛り上がることが多かった。けれど席替えで席が離れてしまえば話す機会はなくなった。
「夏休み、一緒に海行かない?」
1学期の最後の席替えで隣の席になった男子に誘われた。
「海かあ。うーん」
彼はクラスのムードメーカーで、ほどほどの容姿でほどほどにお調子者だった。
海はあまり好きじゃないけど、彼となら楽しいかなと考えていると、彼はちょっと笑いながら続ける。
「いや、山でも買い物でもいいんだけど」
そういうことならと即答。
「二人きりならいいよ」
凄いビックリしてる。
直接過ぎたかな?
それともそういう意味じゃなかった?
「あー、なんというか、んー、付き合ってくれるってことかな?」
「うん。そういうことで」
「買い物に、とかってオチはないよな?」
吹き出してしまった。笑いながらも勘違いじゃなくて良かったと心底安心しました。
夏休みは初めての交際に夢中だった。お互いに部活動で登校していたから帰りに待ち合わせて一緒に帰ったり、休日はデートをしたり。初めて手を繋ぐのも、初めてのキスも、この夏休みに経験した。
でも私の初体験は彼とは別の人だった。
両親のお盆休み、母方の祖母の家に行った時に事件は起きた。
従兄弟たちと一緒に花火大会に出向いたまでは良かったが、従兄弟どもは二人とも彼女と待ち合わせをしており、二組のカップルと楽しく花火見学って無理でしょ。
そんなわけで地元の年上の人にナンパされて、これ幸いと帰りの待ち合わせ場所を決めて、従兄弟たちとは別行動。花火大会の混雑から抜け出して近場のホテルへ直行して、流されるままに関係を持ち、帰りは何事もなかったような顔で従兄弟たちと合流した。
超絶スピード初体験!
すみません。事件でもなんでも無いですね。性欲と好奇心が出会っただけの話。その人とはそれきり合うこともなく、連絡先さえ交換することもなく、それでも不思議と良い思い出になっていった。
それがまずかったのかな。
冬休みのビッグイベント、クリスマスの夜に私の初彼はお泊まりデートを企画してくれて、もちろん高級ホテルなんて無理な話で、彼の友達の友達で離れに自室を持っているという見知らぬ人の部屋で事に及んだのだけど、なにしろ見知らぬ他人のベッドです。気持ち悪いです。
男の本能と煩悩が炸裂した彼はそんな女心に耳を傾ける余裕などなく、「待って」と言えば「ごめん」と続けて「痛い」と言っても「ごめん」と続けるギリギリ無理矢理ではない、そんな一夜でした。ナンパ野郎との楽しい初体験という比較対象があっただけに、私の恋心はすっかり醒めた。
お年玉を貰った初彼は、張り切っていた。冬休み後半はホテルざんまい、猿になってしまった彼をどうしたものか、これ正気に戻る日は来るのか?
そんな不安を抱えていた冬休み最終日、松田くんの彼女と偶然駅で会った。何故かお茶に誘われ彼女のお悩み相談に付き合う羽目に。
その相談が驚きの赤裸々な告白で、つい引き込まれて私もぶっちゃけてしまったわけだけど。
彼女の悩みは、付き合って2年も経つのに彼が手を出して来ないというもので、私のお猿さんな彼氏の話に、それよりは大切にされてると思える方がマシだよね、と二人で結論を出した。何しろ痛がっても聞く耳持たぬ状態がいまだに続いていたのだ。仕方あるまい。
その日の夜に電話でホテルデートはもう嫌!と強く言い切った。彼は反省したようで受け入れてくれたのでホッとした。けれど一月も経たないうちに次はいつならいいのかと言い始めたので、面倒になって別れた。
松田くんの彼女は相変わらずマメにうちの教室に来ていた。さすがに毎時間ではなくなったけど。あんなことで悩んでいるとは想像できない清らかさを保っている。うん。手を出せない松田くんの気持ち、分かります。