PV1万記念「未来を託して」
ふと目が覚めた。
そこは先ほどまで自分がいた世界とは全く違う世界であった。
1万アクセスを記念し、書かせていただきましたオリジナル読み切りです。
お楽しみいただければ幸いです。
ここはどこだ・・・。
わしは見知らぬ場所で目が覚めた。
確か、桃配り山を下り本陣を関ヶ原へ移し・・・
「次郎三郎!?正純!?どこへ行った!!」
声にこたえる者は誰も居なかった。
それどころか徳川の兵はおろか石田方の兵も居なかった。
一筋の澄んだ水が流れる小川がある平原に一人立っていた。
遠くに小屋が見える。
「とりあえずあの小屋へ行ってみるか・・・。」
ひとまず小屋の前に付き、中を伺う。
そうすると中から人の気配がするではないか。
戸を叩き声をかける。
「わしはこの場所へ迷い込んだ者であるが家主殿にお会いしたい。」
そう声をかけると中から南蛮胴を着た男が出てきた。
「竹千代か!久しいなぁ!よく小屋まで迷わず来た!さぁ入れ茶でも振舞ってやろう!!しっかし、うぬは一体何歳になった?やはり近くで見ると随分と老けたのう?」
懐かしい声が聞こえた。
「の・・・信長殿?」
そこには本能寺で49歳という若さで横死した織田信長が居た。
「ここはあの世でござりまするか?」
家康が信長に尋ねた。
「混乱するのも仕方があるまい、まず一言で表すならここは黄泉である。」
家康が冷静に聞く、「で、ある。」これは信長の口癖の様なものだ。
「それではあの秀吉もおるのですか?」
と信長に尋ねたら、
「彼奴はわしを見るなりどこぞへ逃げおったわ!」
と大笑いしながら地平のかなたを永楽銭の刀で指す。
後ろからお市と長政が信長の元へと歩いてくる。
「義兄上!水鏡に常世の様子が見えてまいりましたぞ」
声をかける浅井長政に信長は上機嫌で「で、あるか」と答え常世が映る摩訶不思議な水鏡が安置されている所まで家康を案内した。
お市は家康に微笑みかけ
「三河の狸とは久々であるのぅ」
と挨拶をする。
市は物心つく頃から信長に懐き、信長の口癖「であるか」を真似る喋り方をしていた。
きょとんとする家康をよそに今度は信長が声を上げる。
「見よ!竹千代!お主、なかなか良い影を育てたのぅ!それにあやつ!!何処かで見覚えがあるぞ!あれは確か・・・」
家康が遮るように答える
「伊勢長島の一向一揆でございましょう?かの者は世良田次郎三郎元信と申し、それがしの影武者ではござりますが、同時に友であり、それがしと同じ考えが出来る優秀な男にござります」
信長が興味深そうに水鏡に映る次郎三郎を見つめ
「やはりそうであったか、あやつの執念に似た目は忘れん、戦場で唯一わしを撃った男であるからなぁ、しかし佳き男を友としたようだな!」
信長は弟分の家康の成長を心より喜んでいる様であった。
「兄上!三河の狸が二匹もおれば狸鍋が出来まするなぁ」
お市が嬉しそうに言い出した、それを長政が
「これ、お市、徳川殿に無礼であろう?」
などとなだめる。
「良いのです、兄上の弟分はわらわの家来であるのです!」
母として振舞う前の市の奔放さを改めて家康は思い出し、くすくすと笑いだした。
「なにがおかしいのです?」
市がきつい目を家康に向ける。
「いやいや、ここにあの三人の姫君がおわせば何と申されるか想像するだに面白うて」
市は「やはり狸の腹は真っ黒であるなぁ」などと憎まれ口をたたいた。
家康はいろいろな疑問を信長や長政に伺った。
「信長殿は長政殿とその、仲直りされたので?」
大人に向かい仲直りとは、我ながらおかしな質問であったが、自分含め両人共にもはや大名ではない。
和睦というのもおかしかったので敢えて「仲直り」という言葉を使ったのだ。
「わらわと義姉君で仲直りさせたのである」
予想もしないところから答えが返ってきた。
「義姉君と、申されますと・・・!?」
家康が「もしかして!?」という前に足音が聞こえてきて、そちらを見るとそこには妖艶な美しさを保ち、また夫に生涯と美濃一国をささげた信長の正妻・帰蝶が立っていた。
「濃姫様!?」
帰蝶は家康を一瞥し
「三河殿、お歳を召されましたね、色々懐かしき話もございますが、まずはそなたに会わせたい者がある。」
と言い一人の女性を連れてくる。
「築山!」
家康はまさかここで彼女に会えるとは思っていなかった、家康は駆けて築山に抱き着く
「許してくれ築山、すべてはわしの若さと至らなさがゆえ、そなたには苦労ばかりかけ最後は非業の死まで・・・」
家康は泣いて築山に謝罪した。
信長はそれを見て「それを言うならわしも至らぬ所があったではないか」とぼそっと言うが濃姫に「信長殿、今は邪魔をしてはなりませぬ。」と目が笑っていない笑顔を向けられ黙ってしまった。
築山は笑顔で優しい声で家康に答える。
「良いのですよ、すべては裏から糸を引いていた者があっての話、今更わらわの死の事で家康殿を御恨み申し上げる事はございません、さぁ頭をお上げになってください」
と声をかけ築山は家康を優しく抱きしめた、「許してくれ」と築山の胸で泣く家康、皆が夫婦が和解で来たと微笑み、仲良きことは美しきかな、などと思ったら、築山の家康を抱き締める力が徐々に強くなり、家康が「痛い!痛いぞ!」と言い出した。
「それにしても家康殿は随分と側室をお持ちになったようでございますなぁ、それも女子を子を産む道具の様に扱い、とっかえひっかえ。」
と笑顔で家康を締め上げた。
「ゆ、許せ!!築山が居ない寂しさを埋めて・・・それにひとかどの大名であれば子を為さねばならぬだろう!」
家康の焦りからくる言い訳ともとれる発言に築山はにべも無く言い放つ。
「わらわは家康殿が側室達をどのように口説いたのかを逐一見ておりましたのですよ?わらわにはあのような甘き言葉をかけた事もございませんのに!!」
信長が家康を指さし大笑いしているが濃姫が近くに来るとコホンと咳をして「側室は良くないな!」と言い出す始末、濃姫は「どの口が申しました?生駒の・・・」と口にした時信長も慌て「生駒?あぁ!生駒の駒はいい馬だなぁ」などとごまかしている。
家康は「吉乃様・・・」と言いかけたところを信長に思いっきり殴られた。
「全く、夫婦円満はわらわ達だけであるのぅ、長政殿?」
と自信満々に胸を張るお市と何か申し訳なさそうな長政がそこにはいた。
家康はもう一つの質問を信長に投げかけた。
「信長殿がここにおられるということは、織田家にお仕えした大名衆や長政殿には聞きづらいですが、万福丸殿などもこちらにおわすのでしょうか?前田殿や柴田殿などとかは信長殿から離れたがらないと拝察仕りますが?」
信長はにべも無く言った。
「サル以外はもう黄泉にはおらん。サルは戻ってきたところを捕らえて地獄の穴へ落とすつもりであったのだがなかなか戻らん。他の者は「輪廻の渦」とか云うのに入り、次の生へと向かったのだ」
長政がつけたす。
「義兄上が首根っこを捕まえて輪廻の渦に投げ捨てたのを向かったというのならばそうなのでしょう、万福丸は立派に旅立って行ったな市!」
お市が頷き
「わらわと長政殿の子であれば当然であります、それに比べ信忠殿の情けない事この上ない!ちちうえーもうしわけござりませぬーと大の大人が三日三晩泣く始末!」
信忠だけはお市が輪廻の渦に蹴り入れたらしい。
家康はその光景を想像したらおかしくなった。
「わしらは竹千代がいかにして天下を治めるか賭けをしておったのよ。わしは日ノ本の下らん身分制度を廃し、世界に対抗する国を築き上げると思うたのだがなぁ、まさか大戦の最中に本陣で、それも味方に殺されるとは、なんとも間抜けな死にざまだったなぁ」
信長は家康の顔を見て笑う。
「だがまぁ、致し方があるまい、相手がキンカンであればそういう事もあろうて、あやつは小狡いサルと違い、なかなかの切れ者だからな、惜しむらくは日ノ本古来の権威にこだわり過ぎるところよなぁ」
家康は愕然とする、信長がキンカンと呼ぶ人間はただ一人、明智惟任日向守光秀ただ一人なのだから。
「と申されますと、天海が刺客を送ったのですか?」
光秀は山崎の合戦で秀吉に裏切られた後、身分を僧侶に変え「南光坊天海」を名乗っていた、そこを家康がいずれ本能寺の真実を語らせようと知らぬふりをし囲っていたのだ。
家康はとっさの事で自分が誰によって命を絶たれたのか分かっていなかった。
「キンカンが野々村何某と云う、うぬの使い番を惑わし刺させたのだ、うぬの爪を噛む癖を利用してな。」
家康は、はっとなり自分の親指の爪を噛む癖と、次郎三郎がそれを嫌いやらなかった事を思い出し、味方に利用されたことを恥じた。
「しかし、徳川3万8千を率いた秀忠の奴はどこで油を売っているのか、彼奴がおればかかる事態も無かったやも知れぬというに!」
怒れる家康に信長は意地悪な笑みを浮かべ答える
「うぬの倅は信州で真田昌幸とその子倅に遊ばれておったわッ、本多正信が必死に諫めていたがな、大久保、榊原の両名に押し切られてどうやら初陣の初手柄という言葉に目がくらんだな。」
家康が顔を赤くして「あのたわけ者が!」と言ってると信長が「見ろ!竹千代!」と突然声をかけ、家康は水鏡を見る。
「あの者、次郎三郎と申したか?なかなかやるではないか!松尾山に鉄砲を撃ち掛けたぞ!わしが生きておったら、あやつをひとかどの大名に取り立てたものを。」
家康は信長に答える。
「二郎三郎ならば当然でござりましょう、平八郎も付いている事であるし、後は味方勢がわしの不在に気付き寝返りを起こさねば・・・。」
信長は笑いながら
「あやつの目を見たか?うぬの死に動揺はしたもののその後の采配に間違いはない、あやつこそ2代目徳川家康である。誰もうぬの死には気づかぬよ。」
家康はその信長の言葉が寂しくもあり、しかし嬉しかった、あの、憧ればかり抱いていた信長に認められた気がしたのだ。
家康はいつの間にか涙を流し
「死して後、こんなに感動する出来事がありましょうか。」
と口にしていた。
徳川は自分一人ではなく様々な将兵の助けがあり、ここまで大きくなれたのだ。
家康がひとしきり泣いた後、水鏡を見てみると、大谷吉継の陣は崩れ、石田三成も逃亡し関ケ原の大勢は決していた。
信長が水鏡から離れ
「さて、面倒な猿の小姓どもも黄泉に来ることであるし、帰蝶、長政、市、支度致せ!」
家康は雰囲気が変わった信長たちに驚き
「如何致したのですか?」
と問いかけた。
「猿の帰りを待つのは飽きた!わしらはこれより猿の元へ出向き奴を地獄の穴に蹴り入れた後、猿の腰巾着どもを輪廻の渦に送り、その後、我らも輪廻の渦に身を任せ次の生を生きるのも一興よ。」
という。
家康が「それがしもお供いたして宜しいでしょうか?」と問うと
「良いのか?徳川の行く末、見ずに輪廻に入るは心残りでは無いか?」
信長が真剣な目で家康に問う。
「はい、確かに心残りはござりまする、しかしここで見ていても見えるのは残してきた者達が苦労をする姿のみにござりまする、わしは次郎三郎を、弥八郎を、平八郎を徳川を信じております。決して惟任日向なぞに負けは致しませぬ。」
信長が「で、あるか」と言いにやっと笑う。
家康は築山に「今度こそはお主の手を離さぬぞ」と言い築山も顔を赤くした。
信長は思い出したように家康に言う。
「そういえばうぬの五男、なかなか見所のある小僧であるな、わしと同じ上総介を名乗っておる小僧よ、あれはキンカンをわしやうぬの代わりに刺してくれるやも知れぬな。」
家康は忠輝に光る才能があると感じていたが信長にここまで言わせるほどだとは思わなかった。
「未練かな・・・次郎三郎、弥八郎、徳川を頼んだぞ」
二人の盟友に徳川の未来を託し、天海の陰謀から徳川家を引いては日本の未来を救ってくれると信じ信長一行と家康と築山は十万億土を踏み出したのであった。
ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。
誤字脱字等ありましたらご指摘頂ければ幸いです。
今後も『闇に咲く「徳川葵」』をよろしくお願いします。




