家康の側室
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時は少々遡るが、大坂城入城前に次郎三郎と徳川家臣団は山城淀城に入城する。
ここで次郎三郎達は家康の遺した側室達の扱いを決めたのだ。
一番最初に秀忠が「皆殺しにすれば良い」とにべも無く言う。
中には既に家康の子を宿したお亀の方も含まれるのだ。
次郎三郎と正信は秀忠のこの意見に真っ向から反対した。
特に次郎三郎は「そんな残忍な手段しか取れない主君の下ではこれから先、安心して働けない」と半ば秀忠を脅す様な真似までしてこの意見に反対したのだ。
秀忠は意外にあっさりと引き下がる。
正直秀忠にとって家康の側室などに興味は全くないのだ。
次郎三郎があがいて、駄目ならその時は皆殺しにすれば良いと軽く考えていた。
秀忠は「それでは奥向きは次郎三郎に一任する、しかし、しくじれば側室方の皆殺しは免れないぞ」とくぎを刺し、その場を去る。
秀忠は宗矩に柳生衆で淀城周辺を固め、万が一の皆殺しの準備をしていた。
次郎三郎は側室の皆殺しに強く反抗したものの如何せん策が無い。
次郎三郎は家康や正信とは友ではあるがその息子・秀忠とは何の関係もない、むしろ嫌悪感すら抱いている。
秀忠を征夷大将軍にするより、徳川の血筋なら結城秀康殿か松平忠吉殿、又は松平忠輝殿も居る。
彼らを後押しした方が良いのではないか?などと本気で考えながら、家康は面倒な宿題を出したものだとため息をつくのである。
だいたい側室問題ではお梶一人でも並々ならぬ苦戦をしたのだ。
それが6人も淀城にいるのだ。
6人にはそれぞれ腰元も付いて居る。
ただでさえお喋り好きな女性のそれも膨大な数の口は到底防げない、と次郎三郎はお梶に何か良い手立てが無いかと相談する。
相談を受けたお梶はまず秀忠の残忍な本性に心底冷たく暗いものを感じ、青い顔をしながら必死に次郎三郎と話し合う。
「奥向きの事でしたら阿茶の局に任されるのが良いでしょう、彼女でしたら万事良しなに図らってくれると思われます」
とお梶が結論を出した。
翌日、次郎三郎はお梶を伴い阿茶の局と面会する。
阿茶の局はこの時代に珍しくとても聡明な女性だ。
事務能力に長け、鋭い戦略眼も持ち合わせ、その優しい顔立ちは周囲の人間を安心させ信頼させる、そんな気分にさせてくれるのだ。
阿茶の局は即座にお仙の方とお竹の方を腰元諸共解雇し親元に帰した。
阿茶に言わせると、この両人は口が軽く、性根が無い。
とてもではないが徳川家の秘事を生涯守れるような女性では無いと判断したのだ。
臨月に入っていたお亀の方はもし事実を知り出産に影響が出ると不味いので出産が済んだ後、体が落ち着いてから事実を話すという事になった。
お万の方とお夏の方は性根の座った女性にて阿茶が説得すれば承知するであろうとその様に言うのである。
そして次郎三郎とお梶の方は阿茶の局とお万の方とお夏の方の3名と面会する。
阿茶の言う通りお万の方もお夏の方も次郎三郎を家康の代わりでは無く、次郎三郎として受け入れた。
お梶は側室が余計な交換条件を出さぬように天井裏に風魔忍を密かに配置し、側室をいつでも殺せる準備をしていた。
交換条件を出すという事は、これからも事ある毎に秘密を盾に交換条件を出す可能性があるという事であるからだ。
次郎三郎を心から愛しているお梶にとってそういったわずかな綻びも次郎三郎が残忍な秀忠に付け入る隙を与える口実になるかもしれないと彼女を不安にさせるのだ。
そして口を開き、交換条件を出してきたのは以外にも阿茶の局であった。
「ひとつだけ、お聞き届け願いたいことがございます」
お梶は少々驚いたが、阿茶がこれはお万とお夏も同じ思いなのですと前置きしたので、側室全員が阿茶を通して次郎三郎に交換条件を出すという事なのだ。
阿茶は家康に最も信頼されお梶を除けば最も愛された側室である。
妊娠中にもかかわらず長久手の戦いには従軍し、この時の無理がたたり流産したという。
その人柄は側室達だけではなく、諸大名や引いては家康の子達まで阿茶に相談するほどの人物なのである。
そんな人物の「願い」に少々身をこわばらせる次郎三郎とお梶。
しんと張り詰めた空気の中、阿茶は「お願い」を口にするのである。
「殿は現在お梶の方を御寵愛のご様子、わらわ達の願いはお梶の方のみならずわらわ達も平等に愛して頂きたいと云う事のみです。」
自分の内心を見抜かれていた次郎三郎は驚きを隠せなかった、傍から見ていればわかる事はたいてい自分ではわからないものである。
いつまで生きられるかわからない命をお梶を求める事で忘れるようになっていたのも事実であったのだ。
そして、お梶を横目でちらりと見る。
お梶は真っ青になっていた。
今やお梶にとって次郎三郎は何にも代えがたい恋人なのだ。
お梶の聡明さが阿茶の真意を即座に読む。
天井裏の風魔忍がお梶の合図を今か今かと待つ。
お梶は悩む
「次郎三郎を誰にも取られたくはない、しかしここで阿茶様をはじめ、お万殿、お夏殿を暗殺すれば次郎三郎は私を生涯許さないでしょう。」
心の中で整理をつけたお梶は深呼吸をし、阿茶に笑顔で答える。
「流石は阿茶様、仰せの通りですそうで無くては奥の安らぎは得られないでしょう。」
秀忠は事の報告を受け、「やるではないか」と一言だけ言い柳生を散開させた。
それから4日に一回となったお梶と次郎三郎の夜伽は激しいものになった。
勝気の女性は上位を好むと言われるが、お梶もその一人であり、家康存命中は家康の為に尽くすのみの技を磨いていたが、今は次郎三郎と共に愛し合う喜びを感じていた。
4日に1度というのがまたお互いを燃え上がらせたのであろう。
次郎三郎は阿茶に秀忠の人となりを伝えた。
もし今回の側室懐柔が失敗していた時の末路も包み隠さず語ったのだ。
流石の阿茶も顔を青くし、まさかあの秀忠殿が・・・とにわかに信じられないという顔をしていたが、次郎三郎とお梶の真剣な顔を見ていると冗談にも思えず、秀忠の短慮と幼さは阿茶をして心胆寒からしめるものがあったのだ。
阿茶を始め側室達は改めて次郎三郎に生涯ついていくと決心を固め、奥は一致団結し次郎三郎を支援する事でまとまりを見せるのである。
こうして、次郎三郎は家康の側室を文字通り相続したのであった。
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今後も~闇に咲く「徳川葵」~をよろしくお願いします。




